「ちょっといい加減にしてくれる?」
私、雪森莉乃はさっそく昨日の男……野上賢人に振り回されていた。
「そんでよ~!メールしたって無視だし、一緒に学校行くのも無理だって言われたんだぜ?ひどくね?そこまでする必要ねぇよな?」
昼休み、この男がわざわざ私の教室にやってきて私を呼び出した。屋上に来いなんて言うから、何かと思って来てみれば聞かされるのは例の彼女に対する不満。
私はあんたにも会いたくないって言うのに、何を聞かされてるのよ!
「私、ヒマじゃないんですけど」
「あ?ヒマそうにしてたじゃん。勉強なんてしねぇだろし、友達と一緒にいるわけでもなかったしな」
む、ムカつく!!
痛いところついてくるし、私の大事な昼休みを奪った挙句、この言いよう。
ムカつくからグサっとなることでと言い返してやる。
私は腕を組みながら言う。
「てかぁ、別れた男に迎えに来られんのは女子的に無理だから。メールとか一切して来ないでって感じだし〜ちょっとしつこいって言うかぁ〜」
「はぁ!?俺は別れたつもりねぇよ!」
「でも向こうは別れた気でいるんでしょ?逃げるくらいだったんだし。あんたの提案にも乗ったわけじゃない」
「それはまぁ……」
大人しくなったコイツを見て勝ったとこっそり笑顔を浮かべる。
すると奴は小さい声で言った。
「じゃあお前はメールしてねぇの?」
「え”……」
これはヤバイ予感。
「メールも話しかけたりも一切してねぇの?」
まずい。カウンターだ。
「うーんっと、まぁ……用もあったし?少しは……送ったかな?」
「返って来たのかよ、返事?」
「えっとそれは……まだだけど」
今度は目の前の男がニヤニヤと笑顔を浮かべる。
「じゅ、潤はいっつも返さない主義なの!ほら送らなくてもお前なら分かってるだろ的な……?」
なんとか誤魔化そうとしたけれど、奴はふっと鼻で笑うと勝ち誇った顔をした。
「いや、普通に返事は返すだろ」
ぅう……悔しい。
はっきり言ってしまえば、私もコイツと同じ。
敵みたいに感じてるけど、実はそうじゃないのよね。
「ねぇ!このまま自然と別れるとかになったりしないかな?」
「それが一番怖えんだよな」
「そうよね……これはもう」
気に入らないコイツと唯一意見が合う瞬間は毎回これ。
「「なんとしてでも食い止めるしかない」」
相手をどうにか繋ぎ止めようと必死になる時だ。
寂しい私達……。
冷静に考えれば、一人でこんなに必死にならなくて良かったと思う。
自分一人で頑張ってたら、本当に空しくなっちゃうもん。
潤に別れようと言われて、落ち込まないでいられるのはまだチャンスがあるからっていうのと……コイツも同じ状況だから。
大嫌いだけど、ここは協力して頑張るしかない。
「今日の放課後、集まるように言わない?お互いに。そうすればさすがに来てくれるだろうし」
まぁ潤には無視されるかもだけど。
「ああ、そうだな。そうしよう」
あの未玖って子はきっと来ると思うから。
私は潤に放課後屋上に来てもらうようにメールをした。
潤……来るかな?
そして放課後―。
ドキドキしながら待っていると、2人は揃って現れた。
「潤っ!!来てくれたの!?嬉しい!」
私、野上、美玖って子、潤。
これで昨日のメンバーが全員集まった。
「話ってなに?手短に済ませてくれる?」
しかし、彼は顔を背けてそっけないまま。
私と会話する気はないのか、一切私の方を見ることはなかった。
石を落とされたような気分でショックを受けていると野上は言った。
「話はさ……決めごとを作ろうと思って」
潤はその言葉にあからさまにめんどくさそうな顔をした。
でもしょうがない。
このまま曖昧にされて別れたことにされるのは嫌だもん。
「まず一つはお互いにカップルを交換するわけだから。まぁ……それなりに時間を作ること。2つ目は一週間に1回みんなでここに集まって話をすること。3つめは期間は3カ月。3カ月経ったら集まって答えを出す。もちろんただ別れたいって言う理由はなしだ」
考える素振りをする潤。
すると潤は、未玖という子に自分から近づいていくと、ぐいっと肩を寄せて言った。
「それなりにってどこまで進んでいいの?キス、とか?」
明らかに近すぎる距離に慌てて潤を止めようと手を伸ばした。
その時ー。
「ば、おい!やめろ!未玖に手出したらぶっ殺すからな!」
私より先に野上が入ってきた。
彼女は潤の行動に驚いたのか、わずかに顔を赤らめていた。
な、なんなのよ。
その照れたみたいな顔は!
「大丈夫か、未玖?」
野上の言葉に天然な彼女は頷いた。
「だってそんな提案してくるぐらいだから覚悟はしてるんだろう?」
「てめぇ……っ。してるわけねぇだろ!俺たちはあくまで別れないための対策を立ててるんだ!他のやつを見てみて、やっぱり戻りたいって思ってもらえるように時間を作れって言ってるだけだ!」
そんなに私たちの手の内を晒しちゃっていいわけ?
しかし、そんなことは気にもしないのが潤の性格だ。
「まぁいい、その約束さえ守ればいいんだろう?めんどくさいけど承諾するよ。ここで揉める方が時間の無駄だろうしね……じゃあもう僕は帰るから」
淡々とそんなことを言うと、私には目も向けず屋上から出ていってしまった。
「潤……っ」
そして美玖という女の子も立ち上がり、潤の後を追いかける。
「え、未玖も行くのか」
彼女もけっきょくこの場からいなくなってしまった。
けっきょく私たちはまた、2人だけ残されてしまった。
「はぁ~なんだかなぁ、別れてねぇのに避けられてる感じすげぇ」
「目も合わせてくれないしね」
私達はその場所に座り込む。
「これでうまくいくのかよ……」
それは分からない。
私達はもう一度フラれてて必死になるしかできなくて、だからもう
迷ってる場合ではないんだ。
「でも良かったわ~」
「ん?」
野上は屋上に寝転ぶと言った。
「だってよ、お前の彼氏堅そうだし冗談通じなそうだし?美玖はああいうサッパリしたタイプ苦手なんだよ。話したとしても仲良くはならなそうだから、安心した」
まあ……確かに。
潤とあの子が仲良くなっているビジョン場見えないかもだけど。
「自分で言っといてちょっと心配だったんだよな。もしアイツが美玖に惚れて猛アピールし出したらどうすんだって。でもそうなっても美玖は振るだろうし問題はないな!」
「……はぁ?何言ってるのよ。そっちこそ潤の大嫌いなタイプだから。とろいしすぐ泣くし、もしそっちが惚れたとしても潤の方からお断りよ!」
「惚れねぇよ!あんな堅物なんかに」
「潤のことバカにしないで!!!」
私達は立ち上がって睨み合う。
けっきょくは言い合いになるんだから、私達ってホントに合わない。
はあ……。
諦めてため息をつくと、彼は突然言った。
「あ、」
まるでいいことを思いついたとでも言うようにこっちを見ている。
「何よ」
そのキラキラとした目に怪しさを感じながら彼を見ると、野上は言った。
「いいこと思いついたぞ」
「何よ?」
「お前俺のこと好きになれ」
「は……?」