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第2話:別れたくねぇ


【賢人side】


俺、野上賢人。 高校2年生。

茶髪にワックスで立てた頭はよく周りからチャラいって言われるけど実は真逆だ。


俺は正真正銘一途なタイプ。美玖以外の人から告白されても断るし、遊びに誘われても誘いに乗らない。というのも興味がないからだ。


なんせ俺には可愛い可愛い彼女がいるからな。


そんな彼女の名前は吉田未玖(よしだみく)

同じく高校2年生。


ショートカットで小柄で、ふんわりと笑う未玖はまじで俺の天使だった。


ちなみに俺たちは幼なじみだ。


小さい頃から親同士が仲がよく一緒に過ごす時間がたくさんあった。


『未玖に何かあったら守ってあげてね』

『うん!』


未玖の母さんが俺にそう伝えるから、それが俺の使命なんだと思ってずっと未玖のことを守ってきた。


中学も高校も未玖と同じ場所を選び、出来るだけ一緒にいて未玖に近寄る男を遠ざけて……って、まあ色々してきて未玖の側にいる男という座を勝ち取った。


のだが……未玖は本当に鈍感で俺の気持ちには気付かなかった。


未玖を好きだということ、いつか伝えたい。


ずっと心に秘めていた時、チャンスはやってきた。


『賢ちゃん、いつも来てくれてありがとね!本当未玖の彼氏が賢ちゃんだったらお母さん安心なのに』


俺と未玖は見つめ合う。

俺だってそう思ってる。


そして未玖の母親が買い物に出かけたタイミングで俺は伝えた。


『好きだ、付き合ってほしい』


まっすぐに未玖の目を見て伝える。

すると、未玖は困ったような顔をしてうつむいた。


ああ、ヤバい。たぶんフラれる。

フラれたら、もう幼なじみとして未玖の側にはいられなくなるよな。


そしてそのうち、未玖に近づく男ができて、そいつと距離を縮めて隣には別の男がいて、未玖と微笑んで笑っている。


そんな未来を見なきゃいけなくなるんだよな。


そう分かった時、俺はとっさに未玖に言ったんだ。


『ほら、付き合うって言っても重く捉える必要はないんだぜ?未玖の母さんも言ってたしさ、俺の母さんにも未玖のこと守るように言われてるし、俺たち付き合ってたほうがいいと思うんだよな』


『で、でも……』


断ろうとする未玖に追い打ちをかける。


『断られるならもう、気まずいのもあるし……未玖とは縁切ろうと思ってる』

『えっ』


最低だと思った。


自分でも。

未玖が一番嫌がる言葉を知っていてかけるんだ。


本当に最悪だよな。

それでも……俺は未玖に側にいて欲しかった。


彼女として。


『縁切るなんて言わないでよ……ズルいよ、賢ちゃん』


『だってさ、これから先もずっと未玖と一緒にいられる保証なんてないだろ?俺たちこのままならそれぞれの進路に進んでいって、それから離れていって連絡も取らなくなっていく。今だって側にいるけど、周りからウワサされたりもするわけだし……俺は、いつまでもこのままじゃ嫌だと思った。だから未玖の選択次第だよ』


『今までずっと一緒にいてくれたのに……』


未玖は弱弱しい声でつぶやいた。


いつまでもこのままだったらダメなんだ。


『そんなにさ、深く考えてなくてもいいじゃん。いつものように未玖を守るのとは変わらないんだし。ただ未玖が俺の彼女になるってだけだろ?』


説得するように優しく言えば、未玖は迷いながらも小さく頷いた。


『わかった……賢ちゃんと付き合う』


……無理やりだ。

それでも、未玖が俺の彼女になったことが嬉しかったんだ。


ーーー。


「うわ……強引に彼女にするとか最低ね」

「うるせぇよ!お前とそんな変わらねぇだろ!」


「なによそれ!!私は何度も何度もOKされるまで告白したの。あんたみたいに強引に誘導したわけじゃないから!」


「強引に誘導って……」


目の前のコイツ。

本当に気が強いな。


さっきまで泣いていたとは思えねぇほどだ。


だけど俺はたった今知り合ったばかりのまだ名前も知らないコイツに未玖との関係を話したんだ。


それは、俺達は同じフラれたもの同士だから。

まあもともと俺が焦ってあんな変な提案してしまった結果だから、話すしかないつーのもあるけど。


「じゃあ別れるって言われたのはなんで?」


彼女は聞いてくる。


「それは……本当に分かんねぇ。突然話があるって屋上に呼ばれて真剣な顔で別れたいって言われた」


あんな顔して逃げられたのは初めてだったからけっこうショックだった。


はあ……。

未玖は何を考えていたんだろうな。


聞いてあげる余裕もなかった。

深くため息をつきながら言うと彼女はあっさりと言う。


「ふぅん、それであんな血迷った発言をしたってワケか」


「……まぁ、お前らの別れ話聞こえたからな。未玖は言うのに必死で聞こえてなかったかもしんねぇけど」


「それで?うわー気まずい話してるよーって他人ことのように聞いてたんだ。まさか自分も言われるとは知らずに」


「…………。」

「図星ってところね」


……コイツ。

気強えーな、本当。


俺が弱っていようがお構いなしってとこか。


「まあ、そういうわけだけど、未玖の方もこのままじゃダメだからとか言うだけで、しっかり別れたい理由は言ってくれねぇんだよな……」


「好きな人出来たんじゃないの?」


「おま……っ。俺の傷口に塩かけるようなことすんのやめてくれる?」


ふんっとそっぽを向く彼女。


『莉乃だろ。知ってるぜ、モデルやってて高圧的だから友達いないって聞いたことあるしな』

『怖えー女。可愛くねぇの』


『そんなんだからフられたんじゃねーの?聞き分け悪りぃし、すぐ怒るし……そういう女、可愛くねぇもんな』


コイツ、俺の言ったことにまだ怒ってんのか。


仕方ねぇだろ。言っちまったもんは。


「そんで、俺の提案にお前の元彼氏が賛成しちまった件はどうする?」

「それよ!アンタのバカなアイデアのせいで!」


「バカなアイデアは飲み込むから、とりあえずこれからどーっすか考えようぜ」


決まってしまったことはどうすることも出来ない。


目の前の彼女は少し考えると小さい声でつぶやいた。


「……雪森莉乃、改めて自己紹介よ!あんたは?」

「ああ……俺は野上賢人」


やっと自己紹介した俺たち。

これから俺のアイデア通りなら、コイツと彼カノにならなきゃいけないわけだからな。

なんて思っていると、莉乃という奴は立ち上がって言った。


「言っとくけど!あんたと付き合うとかはあり得ないからね!私は潤だけなの」

「はぁ?んなのこっちだって同じだよ!俺だって未玖一途だからな!」


「このまま潤のところに戻っても、きっとまた振りだしに戻るだけだから、あなたの言葉を聞くけど、付き合うなんて絶対御免よ。潤がやっぱり私の方がいいって思ってもらえるようにあんたのこと利用させてもらうから!」


「あっそ」


堂々と利用するなんていいやがって、やっぱり可愛くねぇの。


気は強そうだし、何かと噛み付いて来そうだし、コイツとだけは気が合わなさそうだ。


はぁーあ。なんでよりによってこういうタイプに声かけちまうのかな。


まぁ、俺が悪いんだけどさ。


せめて未玖みたいな素直な女子だったら……もっとちゃんと話し合ったり出来たのにな。


はあっとため息をつき、俺を睨みつける彼女を見るとさらに肩が落ちた。


未玖にフラれ、コイツと一緒にいることになり……。


とことんついてない今日の俺。

別れたくないととっさに言った言葉が採用され、天使のような彼女から気の強い女が彼女(仮)になってしまったのだった。





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