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青春ラブコメはVtuberのきみと
織原誠
恋愛スクールラブ
2024年11月28日
公開日
35,665文字
連載中
高校一年生の藤村綾人は自他ともに認める声フェチである。そんな彼は夜な夜なASMR系Vtuberの配信を視聴するのが日課だった。推しは猫柳みかんというVtuber。中の人が気になる綾人だったが彼のまわりには三人の美少女がいる。幼馴染の瀬良七海、学級委員長の椎名柚希、ハーフのマリナ・フィッツジェラルド。彼女たちと楽しい学園生活を送る綾人は猫柳みかんが所属するサークルのシナリオライターに募集する。書類審査合格で浮かれる彼のもとへ思わぬメールが届く。

第1話 プロローグ

 俺は声で人を好きになる。


 同級生の多くは顔立ちや胸、性格などというが俺は違う。まず最初に惹かれるのは声だ。声フェチといってもいい。

 これまで十六年間生きてきて、一般人、芸能人含めていろんな女性の声を聞いてきた。キーが高い人、低い人、アニメ声な人と様々だ。

 そんな声フェチな高校一年生の俺、藤村綾人が今、ハマっているのがASMRだ。


 ASMRとは英語で、Autonomous Sensory Meridian Responseの略で日本語に訳すと"自律感覚絶頂反応"となるらしい。

 正直、和訳でもわかりにくい。

 要するに、耳に心地よい音声によって脳を刺激され、ゾクゾクしたり、リラックスする効果が期待できるとかなんとかだ。


 このASMRだが、一言で言っても実際は様々なジャンルがある。

 耳かき、囁き、ヒーリング、バイノーラル録音などの音声、焼肉を焼いた音やプチプチシートを鳴らした音なんかもある。

 そんな多種多様ななかでも特に俺たち声フェチのオタクに人気が高いのが、VTuberなどの女性配信者が行う甘々ボイスのASMRだ。正しくはシチュエーションボイスだが。言い方はなんでも良いが、とにかく、生配信でリスナーの耳をとろけさせて寝かしつけてくれるありがたいものである。

 今晩も十一時から、俺の推しであるVTuberの猫柳みかんちゃんが配信を行う。

 高校生が寝るにはまだ少し早いが、配信は一時間以上が多いので、いつものように布団に潜るとワイヤレスイヤホンを装着してスマホを片手にライブが始まるのを待った。


 するとさっそく白い髪の毛に赤と青のオッドアイをした猫耳二次元美少女が登場して、耳元でアニメ声優さんみたいな囁き声を発した。


『お兄ちゃ~ん、まだ起きてるぅ? みかんだよぉ』


 彼女の声を聞いた瞬間、俺の身体はびくんと反応した。

 やばい。みかんちゃんの声は本当に脳に来る。一言、二言しゃべっただけなのにもう幸せな気分に包まれた。


『大丈夫。起きてるよ~』

 とニヤつきながら俺はチャットを打つ。他のリスナーも似たようなことを書き込んでいる。


『えへへ、よかったぁ。お兄ちゃんを寝かしつけるのはみかんの役目だからね。じゃ~あ、今日はまずをなにをして気持ちよくなってもらおうかなぁ?』


 そこだけ聞くと卑猥な言い方だ。

 もちろん狙ってやっているのはわかっているが、それでもたまらない。


『き~めた。まずは、お耳をふーふーしてあげるね』

 そう言うとみかんちゃんは息を吹きかける音を入れた。

『ふ~っ、ふ~っ』


 直接、俺の耳にしてくれているわけではないのに、彼女の息の音だけで、ぞくっとした快感を覚える。

 バイノーラルマイクという特殊な機材のおかげもあるのだろうが、それでこうして彼女の息をリアルに感じられるのだから充分だ。


『どう? 気持ちいい?』

『うん……すごく気持ちいいよ』と俺はチャットを打つ。

『よかった。じゃあ次は頭を撫でてあげるねぇ。撫で撫で。撫で撫で。お兄ちゃん、いつも頑張ってて偉い偉い』


 また鼓膜に触れるように囁かれた。その瞬間、俺はビクンッと跳ね上がる。

 ああ……最高だ。こんなかわいい女の子に褒められて頭をナデナデされるなんて夢みたいだ。

 いや、ほんとに夢見心地になってきた。頭のなかがぼんやりしてきて、自然とまぶたが落ちてくる。

 まだ配信は始まったばかりだというのに、すっかりリラックスした俺の意識は次第に溶けていく。

 そんな俺のことを見透かしたように、みかんちゃんは「ふふっ」と蠱惑的に笑う。


『いいんだよぉ。眠たくなったら寝ちゃってねぇ~』

「……うん」

『いい子いい子~』


 と優しく耳元で囁くみかんちゃんの声を聞きながら、俺は深い眠りに落ちていった。

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