「妹にも、親友にも裏切られました。もう私アラフォーですよ。信じられない。私が幸せになろうとすると皆が邪魔するんです」
私は人生を詰んだと思い命を絶とうとして、処方されていた睡眠薬1ヶ月分を一気に飲んだ。
朦朧としていく意識の中、目の前に女神のような存在が現れた。
20代前半くらいの金髪碧眼の美しい女性だ。
「人生詰んだと死ぬ気なら、異世界で新しい人生を歩みませんか? その代わりあなたの人生はこちらの商品にさせて頂きます」
私の人生を商品にするとはどういうことだろうか。
30歳くらいまでの私の人生は人も羨むような人生だったように思う。
中学生から彼氏は途切れたことがないし、とてもモテていた。
友人関係も良好で、半年に一回は親友の茜と旅行に行っていた。
(まさか茜に婚約者を取られるなんて⋯⋯)
私は声を出そうとするも、全く喉が詰まって声が出なかった。
女神はそんな私を見てうっすらと笑った。
(まあ、まずは話を聞けってこと?)
「あなたは美人です。性格も悪くない。なのに、いつも男からは選ばれません。今は昔美人だった女になっていることに気がついてください。何が悪かったたと思いますか? それは若い頃、顔だけで寄ってくる男の相手をまともに相手してしまったこと? 性格が優しすぎるあまり、いつも相手に合わせていたこと?」
確かに、私はいつも彼氏ができると相手に合わせていた。
元々、長女気質で面倒見が良い方だと思う。
妹の玲奈が、私と当時付き合っていた学と同棲していた家に泊まりに来たいと行った時も快く受け入れた。
(まさか、玲奈が私の彼氏を寝取るなんて⋯⋯)
真夜中、水を飲みに起きると玲奈と学がキッチンで真っ最中だった。
「全てです。周りを見てください。あなたより不美人で性格最悪な女が幸せになっています。男はバカなのです。本当の美人より美人ぶった女に惹かれ、自分に合わせてくる女より、振り回してくる女を選びます」
風が吹いて、女神の長いウェーブ髪がふわっとあがる。
「いつも、私が幸せになろうとすると妨害してくる人間がいるんです」
突然、声が出せるようになったので、私は自分の思いの丈を話そうとした。
「被害者意識が強いですね。この世は弱肉強食。幸せそうにする美人を喰らうブスが幸せになる。それが真理です。あなたは自分が美人だから、いつだって大切にされる本命だと勘違いしていた。その間、策を巡らせ努力をしてたブスに負けただけの愚か者です。死のうと思ったならば異世界に転生しましょう。あなたには、異世界に転生する際3つの選択肢があります。お好きな道を選んでくださいな」
女神の言葉は優しいようで、私にとってはキツイ言葉だった。
彼女のいう通りかもしれない。
私は、こんな美人なのに控えめな自分は絶対に大切にされると勘違いしていた。
異世界転生を提案されているようだが、どうせなら美人令嬢とかになりたい。
そして、今度こそ美人らしく男どもを振り回したい。
「この世界ではない場所がそんざいするのですね。女神様、3つの道をお示しください」
私はもはや今の自分の人生にも、世界にも未練はない。
強いてゆうなら、ネット環境の整った便利な世界に行きたい。
「女神様ではありません。私は異世界転生請負人カイです。あなたが選べる道3つをお示しします。1つ目は断罪直前の悪役令嬢であるリンド公爵令嬢、2つ目は貧しいけれど今から特殊能力持ちなので貴族界に入る平民レオナ、3つ目は世界を旅するユアンです。さあ、どれを選びますか?」
貴族が登場するということは、おそらく昨今、流行している中世西洋風の異世界だ。
(ネット環境は諦めるしかないか⋯⋯)
「3つしか選べないのはなぜですか?」
はっきり言って、3つの選択肢どれもイマイチに聞こえる。
(他の選択肢もカモン⋯⋯)
「あなたは自分の人生において詰んでいます。それ以下の人生しか用意できません。しかし、詰んだと思って死をも考えた人生でしょ。何も選ばないでこのまま現世を生きる選択肢もあります。しかし、選んで別の人間の人生を歩む道もあります。ちなみに、選択肢のお三方にはあなたの人生を選択肢として異世界転生を提案しております。自分ばかりが詰んだ、不幸だとお思いにならないで。世の中追い詰められて、不幸だと感じながらみんな必死に生きているのですよ」
女神は私の半分も生きていない20代くらいに見えるのに悟っている。
確かに、私は勝手に自分が一番不幸だと思い込んでいた。
「では、1つ目の断罪直前の悪役令嬢を選びます。私は経済的にも苦労したことがありません。自分の人生を一度リセットして、同じ状況で詰んだ彼女の人生で戦いたいと思います」
公爵令嬢、一択だと思った。
他、2人は貧乏過ぎる。
食べるものにも困りそうな生活をするのだけは嫌だ。
「ふふ。どうぞ、ご勝手に!それでは転生します。ご機嫌よう」
そう告げると女神のようなカイと名乗ったその方は光の中に消えていった。
♢♢♢
「リリア・リンド公爵令嬢、君との婚約を破棄する。君は身分を理由にアカデミーに入学してきたルシアを虐め抜いた。そのような女が次期王妃にふさわしいとは思わない」
これは悪役令嬢ものでよくある、婚約破棄イベントだろう。
いかにも王子様と言った金髪碧眼の男がピンク髪の女を抱きしめながら、断罪してくる。
みんなが私に注目している。
「私も自分が次期王妃にふさわしいなどと思いません。しかし、このような場所で女を血祭りにあげるあなたも次期国王にふさわしいのでしょうか? 婚約者がいながら、他の女を抱きしめるあなたなど私の方から願い下げです。下半身で物事を考える浮気男が国王になるこの国ともお別れしたいです。ぜひ、私を断罪して国外追放にでもなさってくださいな」
いつも人に合わせて来た自分と決別したい思いで、私は高らかに声をあげた。
誰かが拍手を始め、それに合わせて周りがみんな拍手をしだす。
「なんだ、リンド公爵令嬢、君の仕業か?」
私を断罪した王子様がうろたえている。
「まさか、これは皆の総意ではございませんか? 浮気男は地に落ちろということでございます。私の人格とあなたの浮気は無関係です」
婚約者がいながら浮気をする。
私のトラウマを抉る行為、許す訳にはいかない。
「その通りだ。リンド公爵家を侮辱したお前は廃嫡とする!」
参列していた国王陛下だと思われる方が高らかに宣言する。
「ち、父上。」
「え、王子様じゃなくなるの。だったら私もいらないわよ」
壇上で王子とルシアの痴話喧嘩が行われている。
私はどうして今まで自分の意見を言わなかったのだろう。
人に合わせて笑顔でいれば幸せになれると勘違いしていた。
そっと会場の外に出ると1人の男が私を待っていた。
黒髪に澄んだ青い瞳が美しい青年だ。
格好からして、相当身分の高い人間だろう。
「リンド公爵令嬢、あなたに惹かれた隣国の王子です。来賓として訪れましたが、あなたの堂々とした振る舞いに惚れました」
「ふ、迷惑な人。私はそのようなことを言われて、簡単についていく女ではないのよ」
私は彼の登場を嬉しいと思いながらも、これからは思ったことを言っていこうと決意していた。