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第44話 私、もう恋愛とかする気ないの。

「心配って何? 私、雅紀に心配されるようなことは何もないけど。それより、何でここに私がいるって分かったの? 今度、私に付き纏ったら通報するから」


「『フルーティーズ』のメンバーの子かSNSに載せてたんだよ」

 私はSNSをやってないから分からないが、こんなに個人情報が漏れてしまうと知ると怖くなる。


「俺と別れたことで、きらりが自分を見失ってて怖いんだ。アイドルやるのもらしくないし、渋谷院長の次は大企業の社長と付き合うとかどうしちゃったんだよ」


「別に雄也さんとも林太郎とも付き合ってないし、アイドルは期間限定! もういい? 雅紀が私の1番の理解者みたいに振る舞うのは不愉快だわ」

 彼は私の考えていることは、何でもわかると良く言っていた。


 それならば、誕生日にプロポーズしてもらえると期待していた私の気持ちは分からなかったのか。


 分かっていた上で、他の女と結婚して私を愛人にするようなことを考えていたのだとしたら酷すぎる。


「きらり、俺たちが付き合いはじめた時のことを覚えてる? やりたくもない白雪姫役にされて、好きでもない男にキスされて影で泣いてたよね」


 私たちが付き合いはじめたきっかけの出来事を、突然語り出した雅紀に不快感が湧く。


 私は小人でもない7人の男と暮らした上に、王子様のキスで目覚める白雪姫役にクラスのみんなの推薦でなった。


 本当はネタみたいな脚本の姫なんてやりたくなかったし、文化祭はテストの直前でセリフの多い役も嫌だった。


 その上、王子役はクラスで目立つ存在だった徳永君だった。


 私は裏で面倒事を人に押し付ける狡い彼が苦手なのに、彼は私を好きなことを公表していた。


 その為、クラスの人間は勝手に私と徳永くんをくっつけることを目的に創作劇を作っていた。

 私は前日に彼から告白されて振っていたのに、劇の本番当日彼は寝ている演技をしている私に本当にキスをしてきたのだ。

(完全に嫌がらせだよね⋯⋯)


 盛り上がるみんなをよそに、私は好きでもない男にファーストキスを奪われた上に周囲の見せ物にされた事実に泣いていた。


 そこに真の王子のように雅紀現れて、私を慰め周囲と徳永くんを諌めてくれた。


 私はその時の彼が忘れられず、14年の時を彼に捧げてしまった。

 目立つようなことばかりしている男とは違って、裏方で頑張る彼を特別のように思っていた。


「そんな昔のこと忘れたし。今は好きでもない雅紀に付き纏われて迷惑してるんだけど」 

「きらりはチャラチャラした男は苦手じゃん。なのに、目立つ男を取っ替え引っ替えして、見たまんまの派手なビッチ女になってるよ」

 私は少なからずショックを受けていた。


 14年も付き合ってきてた雅紀さえ、私の見た目を派手で尻軽そうだと言っている。

(私が1番気にしていることなのに⋯⋯)


「大丈夫。俺はきらりがそんな女じゃないって知ってるから。きらりは小さなことに幸せを感じる、素敵な女の子だよね」


「私のこと分かってるようなこと言いながら、平気で傷つけてくるよね。最低だよ! 雅紀が会いに行くべきは私じゃなくてルナさんでしょ」

 彼は自分の子を1人で産もうとしているルナさんに対して、何の責任も感じていないのだろうか。


「ルナのことなんて好きでも何でもないって。きらり以上に良い女なんて俺知らないもん」


「ルナさんの事どれだけ理解してる? 私のことみたいに金づる程度にしか思ってなかった? 彼女は才能溢れる強い子だよ。自分の夢に向かって努力しながら、雅紀との子供を1人で産んで育てようとしている」


「マジかよ。ルナのやつ子供堕さなかったの? 結構、怖い女だな。俺はきらりのことは金づるなんて思ってないって。本当にきらりが好きなんだ。超美人だから、連れて歩くだけで自慢できるしな」


 私は雅紀の言葉を聞いて自分の人を見る目のなさを呪った。


 彼も私の中身なんて、きっと外見のおまけ程度にしか見てくれてなかった。


 それなのに、この世界で本当の私を分かってくれるのは彼だけだと私は思い込み彼に尽くした。


「私、本当にバカだ⋯⋯」

 私はもう彼の話を聞いていられず、耳を塞いだ。


「いや、きらりが1番だって分かってたのに浮気した俺の方がバカだよ」


 私の気持ちを全然分かっていない雅紀が勘違いして私に手を伸ばしてくる。

 その手を林太郎が思いっきり捻りあげるのが見えた。


「きらりは俺の女なんで手を出さないでくれますか? あまり、しつこくすると警察呼びますよ」


 林太郎の顔が怒っているような気がするが、視界が滲んでよく見えない。


「為末社長ですよね。今のきらりは自分を見失って、あなたと付き合ってるだけですよ。彼女はずっと俺のことが好きで俺に尽くしてきた女なんだから」


 私は雅紀が雄也さんといる私を見て、「貧乏きらり、金持ちに目をつけられて良かったな」と捨て台詞を吐いたのを思い出した。


 今度はどんな私を傷つける言葉を吐くのか怖くて、耳をより強く塞ぐと林太郎がその上から手を重ねてくる。


「5秒以内に消えないと、お前のこと徹底的に潰すぞ!」 

「為末社長って爽やかに見えて乱暴な人ですね。今の迷走中のきらりなら、あなたも捨てて次は石油王に行くんじゃないですか」


 私を咎める言葉を吐いているのがうっすら聞こえて、雅紀は遠くに消えていった。


「きらり、大丈夫? 昨日も熱が出たし、今日は家でしっかり休もう」

「林太郎⋯⋯仕事は?」

「仕事より、きらりが大事だよ」


 林太郎はそういうと私の頬を包み、軽くキスしてくる。

 私は今にも彼に恋に落ちそうで怖くなった。


 彼は私にとって恋愛対象外だったから、私は彼に色々な恥ずかしい話もネタのように話してしまっている。

 今日新たに彼は私の黒歴史を彼に知ってしまったのに、変わらずに私を大切にしてくれる。


「林太郎、私のことを少しでも想うなら、キスしたり口説いたりしてこないで。私、もう恋愛とかする気ないの」

 私の言葉に彼が戸惑ったような顔になった。


 私はこのままだと彼を好きなりそうで、また傷つくのが怖かった。

 気まぐれに見える彼の気持ちが、いつまで続くか分からない。


「分かった。だから、帰ろうか」

「私は大丈夫だから、林太郎は仕事に行って! 顔を洗ったら今日やるべきことをやるから」

 私は必死に笑顔を作って強がった。


「友達としてなら、側にいても良いの?」

 私は彼の問いかけに返答を迷った。


 友達としてでも側にいられたら、彼に恋をする危険性を察知したからだ。


「友達なら良いんだよね。きらり! 今日はきらりの好きな麺類を作って家で待ってるね」

 私のおでこにキスをして林太郎が車に戻っていく。

(私、いつから麺類が好きなキャラになったんだっけ⋯⋯)


 彼の少し勘違いしがちなところが、可愛くて好きだと思ってしまった。

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