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第40話 男がみんな若い女が好きだと思ってる? 

「男がみんな若い女が好きだと思ってる? 経験値の高い女が好きな奴だっているに決まってるよ」


 林太郎の言う経験値とは、人生の経験値とセクシー経験値のどちらだろう。


「私が一緒に住んで、林太郎は大丈夫なの? 彼女とかいないの?」


「彼女がいたら、きらりに告白する訳ないでしょ! そもそも、俺、彼女いたことないし」


 告白とは彼が即日無効にした告白のことだろう。

 彼は私の弱さを見て幻滅したようだが、昨夜も泣いたところを見られ余計に幻滅されてそうだ。


 それにしても、これほど怖い「年齢イコール彼女いない歴」の男がいるだろうか。 


 彼のスペック、ルックス、社交的な性格からモテないわけがない。


 そして、私をベッドに押し倒した時の流れるような動作から、確実に経験値の高い男だと推測できる。


 キスは、はっきりいってキス教室を開けるくらいの匠レベルだ。


 つまり、彼は特定の相手を作る責任から逃れ自由に遊んできて男。

(好きになったら、地獄を見るのが私でも分かる。本当に彼のことを男として意識しないように気をつけなきゃ)


「分かった。しばし、この滝の見える部屋にお世話になるね」


「滝の見える部屋って何だよ。この部屋トレーニングルームもあるから自由に使って」


 このマンションは共用スペースにジムとプールがついている。


 それとは別に自前のトレーニングルームを持っているとは、彼も相当筋トレが好きなようだ。


「ありがとう! 私、自分の部屋から荷物とってくるね。カレーご馳走様、美味しかったよ」


 私がカレーの皿を洗おうとすると、彼から自分が片付けるから置いておくようにと言われた。


 ビルトインの食洗機が付いているように見えたので、彼のお言葉に甘えることにした。


 私は自分の部屋に荷物を取りに戻ると、雄也さんに連絡をした。


 林太郎が雄也さんのことをよく思っていないので、彼の部屋で連絡をするのは憚れた。


 私は、雄也さんの存在を運命のように感じて惹かれていた。


 毎日のように偶然出会い、彼に恋することで雅紀に傷つけられた傷が急速に癒えた。


 でも、今は恋愛なんてしている間ではない。

 私は、彼にこの11ヶ月は『フルーティーズ』に全力を注ぐことを伝えた。


 彼のゆっくりした話し方と、良い声に癒されて落ち着くことができた。


 用意された部屋に戻り寝転がると私は自分の身に起こったことと、芸能界の怖さに身慄いして中々眠れなかった。


 自分は容姿から軽く見られることは理解していたが、逃げ場のない現場でモノのように扱われることは初めてだった。


 そして雅紀と別れて雄也さんに惹かれてたのに、林太郎が気になって仕方がない自分の心情が理解できなかった。


「5歳も年下だよ。大学生が中学生を好きにならないでしょ⋯⋯」


 自分に言い聞かせるけど、想像以上に頼りになる林太郎を思い出してしまう。


 そして、彼の善意に甘えまくっている情けない自分を同時に認識する。


 私は彼とのキスがあまりに気持ち良くて、自分が翻弄されているだけだと結論づけた。


♢♢♢


 携帯のアラームが鳴り目を開ける。

「きらり! おはよう」


 すると、私の顔を覗き込んでいる林太郎と目が合った。

(そうだ同じ部屋に住んでるんだった⋯⋯)


「おはよう。朝、早いんだね」

「朝食できてるよ。こちらにどうぞ」

 私は居候の身で家事は自分がやろうと思っていたので、焦ってしまう。


 彼が椅子を引いてくれたので、座る。

(林太郎って、実はすごい紳士⋯⋯)


「エッグベネディクト! なんかオシャレだね。明日からは私がもっと早く起きて朝食作るね」

 私は、エッグベネディクトはオシャレホテルの朝食で出されるものだと思っていた。


「別に手が空いてる方が作れば良くない?」

 林太郎が私にカップにコーヒーを淹れてくれながら語りかけてくる。


「私、居候だし。家事は女の仕事なんじゃ」

「いつの時代の話だよ。意外と古い価値観持ってるんだね」


 私は雅紀と半同棲状態の時も自分が家事を全部やっていて、それが当然だと思っていた。


「そういえば、この部屋ってすごい広いけど家事全般を林太郎がやってるの?」


「ハウスキーパーとかは入れたくないんだよね。俺はプライベートゾーンに他人が入ってくるのは嫌なんだ」


 彼の言葉から察するに、今は緊急事態で例外的に私を部屋に入れてくれているということだろう。


 床に髪の毛一本落ちてないところを見ると、彼は相当な綺麗好きだ。


「きらり、今日から車で稽古場に送ってく。それから他のメンバーとグッズについて考えておいて」


「グッズって名前書いたタオルとか? あっ! 変身ステッキとかもか⋯⋯」


「変身ステッキって、それアイドルのグッズじゃないだろ」

 林太郎が爆笑しているが、確かにそれは女の子向けのヒーローもののおもちゃだ。

(ヤバい⋯⋯アイドルに関する知識がなさ過ぎる)


「変身ステッキ風のサイリウムとか可愛いかもね」

 サイリウムは球場で応援の時使ったことがあるから分かる。


 林太郎が徐にメモ帳を取り出して、ステッキ風のサイリウムの絵を描き出した。




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