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第6話 まさか、喫煙とか淫行ですか?

「じゃあ、『フルーティーズ』は一回レッスンに戻って」

 『フルーティーズ』の3人娘は私の方を不安そうにチラチラ見ながら去っていた。

(とにかく彼女たちの信頼を得ることからした方が良さそう⋯⋯)


「梨田さんは契約にうつろっか。それから髪をショートにしたんだね。ロングより似合っているから許すけど、これからは勝手に髪型は変えないこと」

「私は裏方に回って、彼女たちをプロデュースするんじゃないんですか?」


「違うわよ。あなたがグループを卒業した蜜柑の代わりに『フルーティーズ』に入るの」


「蜜柑さんは何で卒業したんですか?」

 明らかにグループは13歳と14歳で構成されている。


 だから蜜柑さんもおそらくその辺りの年齢だろう。

 アイドルとしてはこれからと言う年齢になぜ卒業をしたのか。


「まさか、喫煙とか淫行ですか?」

 何となく私の中でアイドルが卒業というと、やらかしの責任をとって卒業するというイメージがあった。


「違うわよ。蜜柑はグループ唯一のお嬢様で、アイドルに対してそこまで熱量がある子じゃなかったの! あれも嫌、これも嫌で大変だったんだから。他の子は親の期待を背負ってアイドルという仕事に人生を掛けている。だから、色々と衝突しちゃったわけ。結局、蜜柑はグループを抜けて事務所もうつっちゃったわ。まあ、ピンでもいけるルックスとバックグラウンドを持った子だったしね」


 私は友永社長が蜜柑さんが人気ナンバーワンだったと言っていたのを思い出した。


 1番やる気がない子がナンバーワンなんて、アイドルの社会とは難しいものだ。


「何だか、芸能人って最近、リッチな子か貧乏な子の二極化してますね」

 自分が知っている芸能人は少数だが、学歴やお嬢様売りしている子と貧しい生活を語る子ばかり目につく。


「そういう子がなる職業だからでしょうね。一般的な家庭に生まれたら、学校休んでまでアイドル活動をしようなんて思わないでしょう。梨田さんは芸能人になろうと今まで思ったことはなかったの?」


「現実的ではないですよね。芸能界って。進路の選択肢としてあがってきたことはないですね。そもそも私、自分のことを外に発信したいタイプじゃないんですよね」

 私はフォトストタグラムやツブヤイターなどを一切やらない人だ。


 何か美味しいものを食べたり、旅行に行ったりしても、その思い出は自分だけの宝物にしたいと思うタイプ。


「これからは、自分の情報をどんどん発信してね! アイドルは、自分を切り売りする仕事だから。で、残った『フルーティーズ』の3人娘は頑張り屋なんだけどお金になる感じがしないのよ。アイドルって夢を見させる仕事だからね。貧乏臭い3人娘だけじゃ売れないわけ」


「私もお嬢様ではないですよ。しかも、貧乏臭いって失礼じゃないですか? 私、あの子たち3人を可愛いと思いました。アイドルってABC54くらいしか知りませんでしたが、私くらいの年になると全員同じ顔に見えちゃいます。だけど、あの3人娘は個性もあって誰が誰だか直ぐに覚えられました」


「実際、アイドルはみんな顔いじって似たような顔になっているからね。私も同じ顔に見えるけど今の時代はそれが受けてるのよ」

「巷では受けてますか? 最近のアイドルって口パクだし、顔も同じで私は見てて不安になります」

 私自身の趣味がスポーツ観戦で、アイドルに対して詳しくない。


 それでも、今のアイドルは昔のアイドルみたい生で歌ったりもしないことは知っている。

 歌も口パク、ダンスもお遊戯、顔も同じみたいな集団で少し怖い。


「不安か⋯⋯なんだろう、彼女たちも必死なんだろうけどね。整形って痛いしやりたくてやっている訳じゃなくて、売れたくてやっているんだと思うよ。まあ、天然美人の梨田さんにはそんな悩みはわからないだろうけれど⋯⋯」

 友永社長の言葉には棘を感じた。


 私は整形したことはないが、別にコンプレックスがない訳じゃない。

 顔が派手なわりに胸がぺったんこなのもコンプレックスだ。

 愛人顔と呼ばれるくらい派手顔なせいで、中身を見ないで軽い男が寄ってくるのも悩みだ。


 それゆえに常に男性不信で、雅紀は安全だと思い込み彼に固執してしまった。


 私は冷静に彼の変化を見られていなかった。

 雅紀も付き合い始めはあそこまで自分勝手ではなかった。

 私が尽くしてしまったことで、彼の自己中な性格になっていった。


「みんな必死なんですね」

 自分が必死だった時は学生時代で終わってしまっている。

 また、何かに必死になれる時が来るのだろうか。


「何、しんみりしてるの? はい、これが明日からのスケジュールと、契約の書類ね」

「ダンスのレッスン料とか、衣装代って自前なんですか?」

 私は衝撃を受けた。

 これでは儲かるどころか、赤字になってしまう。


「そうよ、当たり前じゃない」

「しかもダンスって今、他のアイドルグループのものを練習しているんですね。その上、曲もお下がり!」


「いや、ダンスも曲も作るのってお金が掛かって大変なのよ。新曲を作ってあげる時もあるけど、ほとんどはお下がりを使ってるわ」

「じゃあ、新しいダンスや曲は私が考えて。私が3人娘に教えても良いですか?」


 オリジナル曲ではなくて売れているグループのお下がりでは可哀想だ。


「ダンスはプロの振付師に振り付けしてもらっているのよ。確かに病院で歌ってた即興曲は面白かったけれど、会社員だったあなたに何ができるの?」


「私は、チアーリーディングの日本代表でキャプテンをしていました。彼女たちにチアダンスを教え込むことができます!」

 私は高校までは、チアリーディングに全力を注いでいた。

 体が大きめだったので、リフトで小さい子をあげてよく持ち上げていた。


「え、日本代表? なんか、妙に体育会系な雰囲気があると思ったらそうなの?」

 私の言葉に慌てて友永社長がネットを検索しだす。

 そこには私が必死に頑張ってた時代の映像が出ていた。


 チアリーディングも辞めたのも、雅紀だけの応援団になろうと思ったからだ。

 本当に私は恋をすると、それが中心になってしまう愚かな女だ。

 だから、私は今後恋をしないことで、自分の為の人生を冷静に見つめ直すつもりだ。


「流石にこれはあの子たちには無理よ。アクロバティック過ぎない? なんで、会社員になったの? サーカス団に入った方が絶対よかったわよ」

 サーカス団などという進路は、芸能界と同じくらい選択肢になかった。


「昨年、札幌ソーセージのタヌキダンスが流行ったじゃないですか。私は札幌ソーセージのチアのグループだから流行らせられたと思っています。あの子たちは皆、表情があってイキイキとしていました。あんな感じを目指しますね」


 チアダンスにおいて、楽しそうに本人たちが踊るのが1番だ。

 札幌ソーセージのタヌキダンスより難しいアクロバットをする、チアリーダーを持つ球団もあった。

 しかし、分かりやすい振り付けとチアの子たちの親しみやすい笑顔の力はそれを超えた。


「あ、そうそれくらいマイルドなので頼むわ」

「あと、衣装も私の方で作成します。ミシン持っているんで」

「まあ、1回、梨田さんに任せてみようかしら。確かに衣装代やレッスン代はあの子たちにも負担になっているだろうし⋯⋯あなたって面倒見良いのね」

 私の考えは読まれていたようだ。


 私もお金が今なくて支出を抑えたいが、3人娘も決して経済的に豊かではないと聞いた。

 それならば外注せずできるところは、私が面倒をみたい。








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