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第12話

 冬馬さんのご両親に会う日が明日に迫ってきた。


 今日も私の作った夕食を彼が美味しいと言いながら食べてくれる。


「こんな美味しいロールキャベツ食べるの初めてなんだけど、キャベツに味が染み込んでて口の中で溶ける感じがする」

 冬馬さんがキラキラした瞳で私の料理を褒めてくれる。


「一晩、寝かせて味を染み込ませたからキャベツがしんなりなっているだけですよ。なんの手間もかかってません」


「手間かかってるよね。昨日から俺の夕食に何を出そうか考えてくれてたって事でしょ」


 彼の言葉に私は静かに頷いた。

 こんな私の些細な行動を彼はよく見てくれている。

 本当に優しくてかっこよくて素敵な人だ。


 私は日に日に彼の事が好きになっていた。

 一緒に生活をしていると、もう彼と夫婦になったような錯覚に陥りそうだ。


「冬馬さん、後でお時間あったら少し宜しいですか?」

「どうしたの? もしかして、結婚まで待たず俺に抱かれたくなっちゃった?」

 とんでもない事を彼に言われて、私は首をもげそうなくらいに振った。


「明日、冬馬さんのご両親にお会いする時に着る服で迷ってて、一緒に選んで頂けると嬉しいのですが。お忙しいですよね」

「可愛い⋯⋯そんな誘いより優先する仕事はない」


 冬馬さんはしょっちゅう私を「可愛い」と言ってくる。

 そんな事を言われた事がなくて、ドギマギしてしまった。


 彼を連れて、私の部屋に入りベッドの上に自分でセレクトした5着ほどの服を見てもらった。


「俺はセットアップのスーツよりワンピースの方が未来は似合うと思うんだよな」

 確かに私も試着した時にそう思った。

 背が低いせいか、セットアップのスーツを着ると子供が無理してスーツを着てるような感じになってしまった。


「ワンピースだとカジュアル過ぎるかなとも思うのですが、大丈夫でしょうか? 料亭というものに行った事がなくて⋯⋯」


「生地がカジュアルじゃないものなら大丈夫だよ。まず、このデジタルラベンダーのレースワンピースを着てみて」

「分かりました。ちょっと後ろを向いていてください」


「着替え手伝うよ。ファスナー下ろしてあげる」

そういうと、私をくるりと回して彼がファスナーを下ろした。

今日もスケスケの下着をつけているので恥ずかしくて居た堪れない。


「あ、ありがとうございます。後は、自分でやるので後ろを向いていてください」

「後ろを向いているのは、未来だと思うけど」

 くすくす笑いながら、冬馬さんにあっという間に私は着替えさせられていた。

(マネキンになった気分⋯⋯冬馬さんて本当に器用だな⋯⋯)


「じゃあ、あっちの角から真っ直ぐ歩いて来て俺の前まで来たら、何か決めポーズして」

「はっ、はい。分かりました」

 私は部屋の角まで行って冬馬さんの真ん前まで歩いて行った。

 (決めポーズって何?)

 私はとりあえず、両手でピースした。


「未来が可愛すぎて死にかけた⋯⋯」

「いえっ、そんな⋯⋯」

「この服はフェミニンだしデート用かな。それにしても歩き方凄く綺麗だね」

「マナーの本やウォーキングの本を見て勉強したんです。ありのままの私でご挨拶するべきだとは思うのですが、このままだと冬馬さんに恥をかかせてしまいそうで」


 きっと目の前の完璧な彼のご両親も素敵な人なのだろう。

 大事な息子が連れて来たのが私だったらガッカリさせてしまいそうで怖い。


 冬馬さんが私の頬を包んで目線を合わせてきた。

「ありのままの未来で十分素敵だよ」

「そんな事を言ってくれるのは、冬馬さんだけです」

 彼の顔が近づいて来たので、私は自然と目を瞑り彼のキスを受け入れていた。



「ダメだ、我慢できなくなりそう。ちょっと鎮めるから待ってて」

「はいっ! では、次はこれを着ますね」


 私は青系のキチっと感のあるシャツワンピースを手に取った。

 そっと、扉の外に出て、こっそりと着替えて部屋に戻る。


 「おいで未来! そこからこっちに歩いておいで」

 冬馬さんが私の方を向いて両手を広げて待っている。

 私は彼に言われた通りに、彼の方に歩いて行く。

 彼の前まで行ったら、ポーズを取る前に引き寄せられて抱きしめられた。


「店の雰囲気的にも、このトランキルブルーのシャツワンピースが良いかな。多分、うちの母も似た色の着物を着てくると思う」

 耳元で彼が囁くような喋ってきて、とてもくすぐったい。


「お着物で来られるんですか?!」

 入学式や卒業式で着物を着ている母親を見たことはあった。

 普段の日に着物を着るような家庭の人と、自分はやはり不釣り合いな気がして余計に緊張する。


「未来の着物姿もみたいな。結婚式は純白のウェディングドレスを着て欲しいけどね。和装も絶対に似合うと思うんだよな」

「コケシみたいになりそうですけど⋯⋯」

「こんな可愛いコケシはいないよ」

 私の髪を彼がそっと耳にかけて、現れた耳たぶにキスをしてくる。

 何だかとても甘ったるい雰囲気になってきて、私は気恥ずかしくなり思わず彼から距離をとった。


「あ、あの⋯⋯お洋服を一緒に選んで頂きありがとうございます。明日は精一杯頑張ります」

 頭を下げた私を楽しそうに彼が横抱きにする。

「未来のファッションショー、凄く楽しかった。初めてのファッションショーは疲れたんじゃない? 良かったら一緒にお風呂に入って、マッサージでもしようか?」

「お気遣いありがとうございます。お風呂には一人で入れるので大丈夫です」


 私が慌てていうと、「残念」と彼が呟く。


「冬馬さんこそ、今日も1日お疲れではありませんか? 私、マッサージ得意なんですよ。宜しければお風呂上がりにさせてください」

「凄い楽しみ」


 彼はそういうと、私を浴室まで連れてそっと床におろしてくれた。


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