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第5話 再会


 ビビアンが死んでからさらに5年が経った。イベットバルトス地方は変わらず雪に覆われ、私を倒しにきた愚か者たちは全て氷浸けにしてあの世へと葬った。最強と自称する剣士も、偉大と言われた魔導師も、大勢の兵士を引き連れてやってきた騎士も。皆、氷の餌食になった、


 皆、弱い。弱すぎる。


 ルイス。君はまだここへは来ないのかい?

 私は君をこんなにも待っているのに。

 私は決めているのだ。

 君を倒したらいよいよこの世界を変えていくと。

 自分の思う理想郷を作っていくと。

 だから早く、早く私を倒しにこい。


「ナタ様……! やつが! とうとうやつがきました!」


 キャデスは背中に大きな傷をくらったまま、必死で私のもとへ走ってきた。


「リングスが殺られました! 今まで挑んできた者たちとは違う! あれは選ばれし勇者……!」


 ザッザッと雪原を踏む音がする。私は黒いマントを翻して現れた勇者、ルイスを見た。


「待っていたよ。ルイス」


 あれから15年。ようやく現れたルイスは、以前のわんぱくさがなくなり、どこか落ち着いた大人びた青年へと変わっていた。


「背が伸びたね。顔立ちはあんまり変わっていないようだ。私は想像していたのは、もっとこう屈強で筋肉なんて隆々になってるんじゃないかと期待してたのに」

「ナタ。もう俺たちは親友じゃない。敵同士だ。わかってるだろう」

「……わかっている」


 ルイスの瞳は憎しみと悲しみと怒りに燃え、今すぐにも私を倒したいと叫んでいるかのようだ。


「なぜビビアンを、村の人たちを殺した!」


 ビビアンは私が殺したことになっているみたいだ。それもそうか。村の人間は一人残らず殺してしまったのだから。彼はそのことを知る由もない。


 もう、言う必要もないだろう。


 言ったところでビビアンが戻ってくることない。それに私がビビアンを守ってあげられなかったことは事実なのだから。


「この世界を、壊すためだ。こんな汚れきったおかしな世界を私が変えねば」

「なんでだよ! なんでそうなってしまったんだよ。なんでお前が……魔王なんだよ!」

「ルイス。もう私たちは親友じゃない。君もさっきそう言っただろう。勇者と魔王が出会う時、どうするかわかっているな」


 私は右手に力を込めた。

 ルイスは剣先を私に向けて、青いオーラを解放する。



「魔王よ! 覚悟!」



 私たちは戦った。

 雪降るこのイベットバルトスの森で、いつも待ち合わせで使っていた大きな切り株のあるこの場所で。何日も何日もお互いの体力が底尽きるまで戦った。


「おおおおおおおお!!」

「はぁぁぁぁぁああ!!」


 一切手加減せずに剣と魔法が入り交じる。


「勇者よ。なんのために! なんのためにこの世界を守る! 馬鹿げている。君は本当に馬鹿げているよ」

「馬鹿なのはお前だ! 俺はビビアンとお前と再会するために。魔王を倒してまた3人で仲良く暮らすために勇者になったんだ。こんな戦いのために勇者になったんじゃない!」


 ルイスの一撃が私の肩を深く斬りつける。私は彼の腹に手をかざして内臓を凍らせた。


「そろそろこの戦いを終わらせよう、ルイス」


 ルイスは口から血を吐きながら、今度は赤いオーラを放った。


「そうだな。次で最後だ」


 お互いにじりじりと距離を保ち、相手の出方を伺う。


 その時だった。


「ナター! ルイスー! お待たせー!!」


 ビビアンの声が聞こえた気がして、私は後ろを振り返った。


「隙あり!!」


 ルイスの剣が私の心臓を貫いた。

 後ろを振り返っても、ビビアンはいなかった。


 イベットバルトスの森に雪が吹き荒れる。


 ルイスは死にかけている私の体を起こした。


「泣いているのか? ルイス。お前が私を倒したくせに」

「ナタ。お前とは前世の頃から親友だったのに。今こんな、なぜ俺たちが勇者と魔王にならないといけなかったんだよ」

「運命とは残酷なものだな。ルイス。来世では、今度は3人で会おうじゃないか。君とビビアンと私で。ビビアンと先に行っているぞ。今度はちゃんと彼女を守ってみせるから」

「あぁ。後で追いかける。追いかけるよ」

「このおかしな世界でせいぜい楽しく、過ごし……」

「ナタ……ナタァァァァ!!」


 本当は好きだったんだ。

 この不条理な世界を。

 ルイスとビビアンがいるこのおかしな世界を。

 ルイス。来世はどんなおかしな世界であっても必ず君を探してみせる。次は倒すもの倒されるものではなく、親友としてね。


 ***


 西暦20xx年。僕はまた地球へと転生していた。ベッドから飛び起き、机に置いてあった食パンを齧る。それを牛乳で流し込んでから、玄関を飛び出した。玄関前にはいつもビビアン、ではなく亜美あびが待ってくれていた。


「遅いよ。奏太! 学校に遅刻しちゃうよ!」

「ごめん。亜美」

「お兄ちゃんもそろそろ来ると思うんだけど、あ、きたきた! 琉生るい兄ちゃーん!」


 僕は亜美と2人で手を振る。すると、遠くからルイス、琉生が手を振り返した。


 あそこは、イベットバルトスの森はその後どうなったのだろう。


 僕は夢の中で時々あの森を見るんだ。


 雪が解けたあの森で、名もない花が一輪だけ咲いている素敵な夢を。


 完

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