「書初めってあんじゃん?」
「あるね」
「許せねえよな」
「書初めに親でも殺されたのか」
「なんでお前父さんがあの日、村を襲った巨大書初めに飲み込まれたこと知ってんだよ」
「ごめん。本当に殺されたとは思ってなかったわ」
「まあ、そんな昔のことにいつまでも囚われてても仕方ないから。許すわ書初め」
「懐深すぎだろ」
「早速今年から書いてみようと思うんだけど、何書こう?」
「なんか今年の抱負とかでしょあれ。あと好きな言葉とか」
「『書初め絶対殺す』とか?」
「お前全然許してねーな。てかそんな暗いのじゃなくてもっとポジティブなやつにしなよ」
「じゃあお前だったら何書くの?」
「うーん。まあ、ありきたりだけど『挑戦』『夢』『家族』とか?」
「サイコパスの模範解答やめろよ」
「こんな前向きサイコパスいてたまるか」
「でもさ、なんかそういういかにもな熟語書くのって恥ずかしくない?」
「わからんでもない。もっと砕けた感じでもいいかもな。文章にしちゃったり」
「たとえば?」
「『クリスマスまでに絶対彼女作る!』とか?」
「おいおいジジイか」
「こんな前向きジジイいてたまるか」
「いていいだろそれは」
「ごめん。言いすぎた」
「恋愛に歳なんて関係ないだろ。謝れよ」
「掘り下げんなよ。ごめんて」
「俺じゃなくて全国の犬に謝れ」
「ごめんワン」
「こっわ、サイコパスかよ」
「こんな可愛いサイコパスいてたまるか」
「お前は可愛くないぞ」
「ひどいな」
「おい、しっかりしろ。お前は本当に可愛くないぞ。どうした。何があった。正気に戻れよ」
「やめて。焦らないで。恥ずかしいからやめて。戸惑わないで」
「でも、今のお前見て今年の書初めの内容決まったわ」
「なんにするの?」
「『まともな友達を作る』」
「急に突き放すじゃん」
「お前はもう家族だし」
「急に距離詰めてくるじゃん」
「俺らファミリーだし」
「途端にちょっとやな感じするのなんでだろ」
「父さんも家族だった」
「おい泣くなよ」
「ダメだ。俺、やっぱり許せねーよ。いまだに、書初めの柔らかな羽根に包まれゆくあの日の父さんの恍惚の表情が瞼に焼き付いて離れないんだ」
「割と穏やかな最期だったんだな」
「だから、決めた。俺、今年の書初めは『彼女作る』にするよ!」
「脈略おかしいだろ」
「そして結婚して子供作って俺が父さんそのものになる」
「前向きなサイコパスっているんだな」