銀河連合艦隊と死神艦隊との決戦は、連合側に趨勢が傾いたかに見えた。
しかし、どこからともなく発せられた怪振動波がリッキのバフ能力を打ち消し、連合艦隊に大幅なデバフをかけ始めていた。
「リッキ、何が起こっている!?」
ベーバの問いに、リッキは頭を抱えて悶えながら答える。
「あいだだ……死神本星からの妨害波だよーー、最悪だーーー!」
その
そして、死神本星の地表――『死の都』においても、レム・ベアムの旋律に踊らされるかのように、終わらない悪夢のごとき戦いが続いていた。
「メルト、目を覚ましてくれ……!」
死神と化したメルトの攻撃を、彼は
「円巳、こうなったらメルトさんを凍らせて、動きを封じるしかないわ!」
「それしかないか……!」
二人が連携攻撃の構えをとった時だった。
ドガァアア……ズシャン!!
何かが塔の壁をぶち抜いて飛来し、メルトと円巳たちの間に着地した。
それは、タオトで修復されたアーウィル
「オーナーのバイタル正常値。されど、行動に異常あり。シークレットモード起動します」
「シークレット……?」
円巳が見る限り、アーウィルDの外見に大きな変化はない。
しかし、無機質なその表情がわずかに生気を帯びたような気配があった。
「久しいな、レム」
レム・ベアムに語りかけたそれは、紛れもなくアーウィルの合成音声だった。が、口調はまったく違ったものになっている。
「そんなところに隠れていたとはね」
対するレム・ベアムの表情にもかすかな変化があった。それは、隠しきれない憎悪だった。
「私は5000年間、ずっと君の行いを見てきたよ。その野望は、今こそ止めなければならない」
メルトもまた、変貌したアーウィルDを前にして明らかに動揺していた。
帆波がそこに宿った謎の人格に語りかける。
「待ってください。あなたは、アーウィル……じゃ、ないですよね……?」
「私かい? 私は、メルトの父だ」
* * *
5000年前。ガルーニ・メトラ博士は、娘であり助手のメルセグリットとともに惑星セッドを訪れていた。
彼らを迎えたのは、共同研究者のレム・ベアム博士だった。
ガルーニが呼ばれたのは、セッドの地底で発見された遺跡の古代文字を解読するためだった。
レムの仮説が正しければ、そこに世界の命運を握る秘密が隠されているのだという。
そしてとうとう、予言の一節とともに『死の都』へ至る『門』の一部が掘り出された。
レムは狂喜し、『門』に刻まれた文字の解読を急がせた。
そして、三日後の夜だった。
惑星セッドの夜更けは、赤黒く粘り気のある闇が地表に
その中で、何かが蠢いていた。
ガルーニの設営したテントを目指して。
少女が目を覚ましたとき、目の前には血まみれの男がいた。
彼にはまだ息があった。
「おお……成功したか……メルト」
「メルト?」
「君の名だ」
少女はアメジスト色の目をぱちくりさせた。
「憶えては……いないだろうな。だが、それでいい。気にすることはない。君は生まれ変わったのだから」
男は苦しげに息を吐いた。
「もうじき、死神がやってくる。私はそれまで持つまいが、君だけは生き延びてくれ。そして、奴らから守るのだ。遺跡を封印する八つの秘宝を――そして、遺跡に眠る『装置』を」
レムは『死の都』の守護戦女たちを改造し、復活させた。自らに従う戦力として。それが、死神であった。
メルセグリット・メトラを殺害し、ガルーニ博士に致命傷を負わせた死神たちは、とどめを刺すべくテントを包囲していた。
死神アラトは、獲物を追いたてる歓びに酔っていた。
死神ゲネフは、レム・ベアムから賜った任務に誇りを感じていた。
死神フーディーメは、ただ冷徹に標的の抹殺のみを考えていた。
そして、彼女らを指揮する死神ミュゴは、ガルーニを一度取り逃がしたことに苛立っていた。
ミュゴの攻撃は必殺必中だ。しかし、娘であるメルセグリットがガルーニを庇ったため、殺し損ねた。致命傷こそは負わせたものの、彼女のプライドもまた傷ついていた。
「加減はするな。確実に殺すんだ。ヤツが力尽きるより早く、八つ裂きにしろ」
ミュゴの命令を受けた三人の死神は、猛然とテントに飛び込んでいった。
――そして、帰らなかった。
「何をやっている?」
ミュゴはテントの入口をひょいとくぐり、そして見た。
倒れ伏し、息を引きとった博士。砕かれた三人の『ハーベスター』と、真っ黒な返り血にまみれた白いボディスーツの少女。
それは紛れもなく、ミュゴが殺したはずのメルセグリットだった。
これには彼女も動揺した。
「どういうことだい? キミは……ボクが殺したよな?」
ガルーニ博士は、ただレム・ベアムに利用されていただけではなかった。
死神の身体構造を解析し、その再現を模索していた。ただ、そのベースとなるボディが欠けていたのだ。彼の目の前で、愛する娘が命を散らすまでは。
「なるほどね。死神の模造品として、生き返ったわけだ」
「違う」
「……は?」
破壊された『ハーベスター』の切っ先を拾い上げ、短刀のように構えながら、かつてメルセグリットだった少女は言った。
「わたしは、お前たち死神を狩る。『死神の死神』だ」
「くっくっく……あはははは! これは面白い! やってごらん!」
地を蹴った『死神の死神』を、ミュゴの必殺武器が迎撃する。
それは音もなく、姿もなく、一瞬で標的の半身を切り落とした。
しかし同時に、その半身から繰り出された短刀のひと突きがミュゴの右目を捉えていた。
「ぐぁ!」
死神は怯みながらも、仕留めたはずの少女を無事な左目で追う。
次の瞬間、大地が揺れた。
地面に転がった少女を半実体のシールドが包み込んだかと思うと、地面が左右に開き、バイク型の宇宙艇が現れた。
それは少女を乗せ、テントの天井を破り、あっという間に星空の中へ消えていった。
残された死神ミュゴは、右目から黒い体液を流しながら、呪詛にまみれた雄叫びをあげた。
以来、彼女は右目にセンサーや通信機を仕込みながらも、元のように修復することは決してなかった。屈辱と憎悪を忘れないためである。
一方、宇宙バイクに乗って難を逃れた少女は、肉体が自己修復を終えるまで、2000年にわたって眠り続けることとなった。
すべてを忘れて――。
* * *
「メルト。この記憶を今こそ君に返そう。そして、再び目覚めるんだ。『死神の死神』として」
博士のコピー人格を宿したアーウィルDが手をかざすと、メルトの脳内に情報が流れ込んだ。
それは、レム・ベアムのコントロールに対するアンチプログラムを兼ねていた。
「くああ……っ!!」
メルトは苦しんだ。
しかし、その痛みとともに彼女は覚醒した。
「わたし……は……」
そして、目の前の存在と向かい合った瞬間、すべてを理解した。
「ガルーニ博士……あなたは、わたしの……その……」
「死んだ娘と君とは、あくまで別の存在だ。……ただ、私にとってはどちらも大切な子供だよ」
アーウィルは――ガルーニ博士は穏やかに微笑んだが、すぐに表情を引き締めて言った。
「レムと死神を止めるぞ。彼らに『装置』を使わせてはならない」
「ひとつだけ聞かせてくれ。その『装置』とはなんだ? それが世界の命運を左右する力なのか?」
「……そうだ」
メルトの言葉にガルーニはうなずき、世界の真実にまつわる壮大なストーリーを語り始めた。