「駄目です学園長、とても支えきれません!」
「限界まで……いや、限界を超えてもやるんだ。これ以上生徒に犠牲を出すわけにはいかん!」
大聖堂を守る最後の魔導障壁。
その発生装置には、教職員一同が集結して魔力を注ぎ込んでいた。
しかし、巨人の右腕が、続いて左腕が触れると、無慈悲なまでのパワーが障壁を脅かすのが伝わってきた。
バリィイインッ……。
壁がとうとう破られると、装置と繋がっていた教師たちに逆流した魔力が襲いかかった。
そのダメージは凄まじく、立ち上がれないどころか、意識を失った者もいた。
「これまでなのか……」
だがその時、巨人の足元で真白い花弁が開くような閃光が炸裂した。
白煙が晴れると、巨大な左足が脛のあたりまで凍りついている。
「こっちに来なさい!」
巨人の背後にひとりの女子生徒が立っていた。
それを見て教師のひとりが悲鳴に近い声を上げる。
「あれは……私のクラスの、
担任教師の言葉がなくとも、学園長にはひと目でわかっていた。
高等部きっての秀才。魔法も剣術も申し分なく、それを活かすスキルも持っている。学園の期待の星だ。
……しかし。
「無茶だ……!!」
彼女は自身を囮にするつもりなのだ。
――止めなくては。
しかし、意志に反して体は言うことを聞かなかった。
学園長は己の老いを呪った。
――神よ――!
帆波はアイテムボックスから実戦訓練用の剣を引き抜き、氷魔法を
「『
巨人の両足に六連撃が刻み込まれる。
初級ダンジョンのボス・ゴーレム程度なら、即座にダウンするであろうコンビネーションだ。
しかし、巨人は意にも介さず歩を進めた。
――ダメか。なら、もっと近付いて――。
距離を詰めようとしたとき、巨人の足が急に進路を変えた。
帆波を踏み潰すつもりなのだ。
彼女は巨人の死角から接近したつもりだったが、別の地点にいる第三者――死神がコントロールしていることなど知る由もなかった。
――ヤバっ。
思わず頭上を仰いだ瞬間、瓦礫に足をとられる。
転倒した帆波の視界を巨大な足裏が占有した。
「――っ!!」
声にならない叫びとともに目を閉じると、
ガキンッ――!!
何かがぶつかり合う音が響き、全身を激しく揺さぶられた。
……数瞬後、帆波は暗闇の中で、自分の体がまだ潰されていないことに気が付いた。
恐る恐る目を開けると、思いもがけない光景が飛び込んできた。
頭からつま先まで、全身を鎧に包んだ人物が、巨人の足を両腕で受け止めている。
星冴ゆる空のような、ネイビーブルーの鋭角的な姿。
両目の部分は六角形のクリアパーツになっており、夜桜の花弁を思わせた。
彼? の足下からは半径数4、5メートル程のクレーターが広がっていて、帆波はその端に横たわっているのだった。
「逃げろ」
仮面に包まれた口元から、どこか聞き覚えのあるような声でニホン語が発せられた。
帆波は慌ててクレーターを這い上がり、瓦礫の合間を走った。
……冒険者? でも、あれは人間業じゃない。……じゃあ、あの声は?
様々な思いが脳裏に錯綜した。
* * *
その時、
―――――――――――――――――――
スキル【装備不可】は無効化されています
スキル【パワーライザー】は無効化されています
スキル【マルチアーマー】は無効化されています
スキル【クイックブースト】は無効化されています
スキル【エナジーセーバー】は無効化されています
―――――――――――――――――――
……そうか。そういうことだったのか。
宇宙を救う。その言葉の意味がほんの少しわかった気がする。
帆波が十分に離れるのを確認すると、彼は巨人の足を一気に押し返した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
その咆哮に鎧全体がビリビリと震えたった。
彼が――いや、人類がかつて得たことのない『純粋無垢な力』を得た円巳は、体の内側で猛り狂う勇気を、闘志を、殺意を、雄叫びに変えて吐き出すことで正気を保った。
身の丈2メートル強の鎧に取り込まれるような形で装着しているのだが、呼吸するごとに肉体との一体感が増していくようだった。
円巳は鎧となり、鎧は円巳となった。
予想より軽い手応えのあと、巨人は糸の切れた人形のように後方へ倒れ込んだ。
轟音とともに大地が割れ、土砂が巻き上がったが、鎧はびくともしなかった。
その呆気なさが少し気にはなったものの、円巳にさらなる自信をもたらした。
……いける。
* * *
「馬鹿な……あれを装備できるはずが……まさか」
「その通りさ」
黄色いコートがはためいたかと思うと、首を狙った大鎌の斬撃が叩きつけられる。
ギィンッ!
ペルミナはガントレットの刃でそれを受け止め、鍔迫り合いの体勢となった。
メルトの顔には微笑が浮かんでいる。
「『
ほんの挨拶代わり、会話のために距離を詰めただけ、といった様子だ。
「……ちっ」
ペルミナは美しい顔を歪めて舌を打った。
「かつて『勇者』が『魔王』を討ち滅ぼした際に呪いを受け、以後誰も纏うことのできなかった鎧――でしたわね」
「そうとも。だが、彼ならば」
ペルミナの左手が閃光を放ち、零距離で無詠唱魔法を発動する。
回避不能の一撃。
桃色の爆炎が空を焦がす。
が、その一部が千切れるように飛び出すと、ひるがえされたコートが炎を振り払い、無傷のメルトが姿を見せた。
再び、距離を置いて向かい合う両者。
「彼ならば、装備品に付与された【呪い】という名のデメリットスキルを無効化できる――それが」
「宇路円巳の、【