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第6話 死神のショーウィンドウ



 ダンジョン攻略学園、通称ダン攻。


 『神託』が行われる大聖堂を中心にして、校舎や修練場などさまざまな施設が同心円状に配置されている。

 学内は自然が非常に豊かで、都心からのアクセスも容易と、学生にとって快適な環境が整っていた。


 しかし、最大のセールスポイントはトーキョーエリアでも初心者向けのダンジョン『タマ・ケイヴ』群が敷地内に点在することで、生徒は学内にいながら実戦訓練を受けることができるのだ(元は公園予定地だったがダンジョンの発生で一般市民が近付けなくなり、冒険者養成学園として整備し直された経緯がある)。


 終業のチャイムが鳴り響くなか、大聖堂から正門までつながる学園のメインストリートを我が物顔で歩く数名の男女がいた。

 イージャとその一行である。


 いよいよ、玉串帆波たまぐし ほなみを手に入れた。そう思うとイージャの体はゾクゾクと駆け上がる興奮に沸き立った。


 単に冒険者として強力なパーティーメンバーを得たためではない。

 彼は以前からずっと、この白百合のように清廉で美しい少女をけがすことを夢見てきたのだ。

 幼なじみの宇路円巳うろ まるみを人質にとれば、彼女は大人しく命令を聞く。それがわかったのは素晴らしい収穫だった。

 うつむき加減で隣を歩く帆波の姿を――純真な性格に似合わぬ豊かな胸や、スカートからのぞく白い太ももを――イージャは舐めまわすように眺めた。


 それにしても、敗北した円巳の無様な姿を思い出すと、思わず口の端がつり上がったてしまう。

 あいつは本当にどうしようもない間抜けだ。自分が無能なアキレス腱とも知らず、玉串を守るつもりでいたのだから。


 学園の門を出ようとした時だった。

 イージャたちの前に、ふらりと一人の少女が現れた。


 金髪オッドアイの美人で、年の頃は彼らと同年代に見える。

 つま先までの黒いボディスーツに、上半身には同じく漆黒の、忍者のような着物風の衣装を身につけていた。

 少々変わった装備だが、生徒もしくは外部の冒険者だろう。

 イージャは隣にいる帆波のことをあっさり失念し、鼻の下を伸ばしながら彼女に話しかけた。


「ようお嬢さん。俺はイージャ・サイアーノ。こう見えてサイアーノ家の嫡子。マジだぜ。そしてユニークスキルは【剣豪】! どうだいあんた、俺のパーティーに入らないか。損はさせねえぜ」

「サイアーノ? 聞いたことありませんわ。用があるのは、【空白ブランク】のスキルホルダーだけ」


 金髪少女のあまりに素っ気ない反応に、イージャは唖然とし、取り巻きのひとりは堪えきれずに吹き出した。


「……はぁあ? 意味わかんね……【空白】のあいつだったら、体育館裏でまだ寝てんじゃねーの」


 苛立ちを隠しもせず、イージャは後方を首で示した。


「あら、どうもありがとう。……そういえば、あとひとつだけ用事がありましたわね」

「な、何だよ?」


 金髪の少女は口元に人差し指を当てると、イージャを取り巻く女子たちを品定めするように見渡した。

 たのしげにショーウィンドウを覗くようなその視線に、帆波は何故か言い知れぬ不吉な予感を覚えた。


「……そうね、貴方のが良さそうかしら?」


 ――ブシッ……。


 一瞬のことだった。


「……ユリサ」


 女子のひとりが真っ青な顔でつぶやいた。

 彼女の隣に立っていた友人は……、頭が、なくなっていた。

 赤い液体が噴水のように空へ舞い踊る。


 ドサッ。


 道端の茂みに、何か重い物体が落ちる音がした。

 それが合図のように、イージャたちは一斉に絶叫した。

 金髪の少女は気にも留めず、マネキンのように頭を失った女子の体から一瞬で制服を剥ぎ取ると、現れた時と同様、ふらりと去っていった。



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