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第4話 未知の美少女との接触



「ゲホッ……ゴホ」


 激しい衝撃と炸裂音に全身が揺さぶられ、五感が掻き回された。


 ――なんだってんだ、畜生……。


 泣きっ面に隕石とは聞いたことがない。

 天からのあまりに酷い仕打ちに円巳まるみは恨み言を呟こうとしたが、全身が軋んで呼吸もままならなかった。


 砂埃が風に流れるにつれ、白いマシンが姿を現した。形状はフルカウルタイプのオートバイに似ているが、見たこともないような大ぶりの車体で、タイヤも切り株のように厚いものがついている。

 円巳はマシン落下の余波で地面ごと吹き飛ばされ、派手に地面を転がされた。先ほどの決闘で受けたダメージも相まって、しばらくは身動きひとつとれそうになかった。


 空から降ってきた? バイクが?

 当然ながら、学園の上にはハイウェイなど通っていない。


 座席の方を見上げた瞬間、円巳は目をみはった。

 フードを被り、大鎌を背負ったシルエットが逆光のなかに浮かんでいたのだ。


 ――死神?


 第一印象はそれだった。


 人生に絶望した自分を迎えに来たのか。でも、ちょっと登場が食い気味じゃないか。もう少し浸らせてくれても。

 ぼんやりとそんなことを考えているうち、人影に動きがあった。


 座席の上で逆立ちをすると、両腕をバネにしてムーンサルト回転を決め、マントを翻しながらひらりと地面に降り立った。


 10.0、である。


 死神ってこんなアクティブに動くの?

 円巳は驚いたが――さらに驚愕したことに、横たわる彼を覗き込んだ死神は、愛らしい少女の姿をしていた。


 肌はつややかな褐色で、シャーマニックな神秘性と子供のような無邪気さが同居している。

 ボブカットと真一文字に切り揃えた前髪の組み合わせはどこか和風でもあり、全体に無国籍感が漂う。


 服装は鮮やかなイエローのローブ姿だが、両肩の部分などは半透明になっていて、見ようによってはレインコートのようだ。

 その下はつま先までほぼ全身を覆う白いボディスーツ姿で、両腕だけはノースリーブに真っ黒な指抜き手袋をはめている。


 かなり奇抜な格好で、冒険者のものでもこのような装備はかつて見たことがない。


「悪く思うなよ」


 少女は、円巳にわかる言葉でそう言った。

 口調と裏腹に、その声はとても繊細で透明感があり、まるで梢を撫でる風のようだった。

 コートの中から取り出した拳銃のようなものが円巳の首筋にあてがわれる。

 ひやりとする鉄の感覚。


 ――やっぱり、死神なんだ。


 背中で存在感を放つ漆黒の大鎌を使わないのは意外だったが、円巳程度の獲物にはこれで十分ということなのかもしれない。


 運命を受け入れると、不思議と気が楽になった。

 最初からこうすればよかったのだ。つまらない意地を張る生き方は捨てて。


 馬鹿にされても逆らわず、

 冒険者など目指さずに、

 帆波ほなみのことだって――、


 ――帆波。


 その名を思い浮かべると、安らかにいでいた胸に、かすかなさざ波が起こった。


 次の瞬間。


 バヂィン!!


 ――っでぇええええええええ!?


 予想と異なる、静電気の超強いやつみたいな痛み。

 先程とは別種の涙を流しながら円巳が身悶えする傍らで、少女は満足げに銃口へ息を吹きかけた。


「チップ埋め込み完了っと。異物感は3標準時間くらいで無くなるから、安心してくれ」

「ちっ……ぷ?」


 首筋に手をやると、皮膚の下になにか角張ったものがある。

 円巳はゾッとした。


 ――死神じゃない。宇宙人だ。謎の金属片を埋め込まれた。アブダクションだ。ムーだ。


 「それはきみの座標をモニターするためのものだ。見失わないためにな。……立てるか?」


 少女が差し伸べてきた手を恐る恐る握り返すと、想像以上の腕力で引っ張り上げられた。

 二人が並び立つと、少女の方がわずかに小さかった。

 しかし、背負った大鎌は円巳の背丈よりふた回りほども大きい。


「わたしはメルセグリット。……メルトでいい」


 そうクールに名乗ったのも束の間、謎の少女――メルトは、次第に大きなヴァイオレットの瞳をキラキラと輝かせ、魅入られたように円巳の顔を見つめだした。

 そして、急にくしゃりと相好を崩すと、彼の胴体をがっしりと抱き締めてきた。


「くぅ~~~~~会いたかったぜこんちきしょう!!」


 円巳の細い背骨がみしみしと音を立てた。プロレス技でいうところの、ベアハッグである。


「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「……おおっと」


 響き渡る絶叫で我に返った彼女は、円巳を解放すると、小さく咳払いして言った。


「すまん、ちょっと感極まってしまって。……実は、きみにひとつ頼みがあるんだ」


 続く言葉に、円巳は今度こそ耳を疑った。

 彼女は高らかにこう言ったのだ。


「単刀直入に言おう。わたしと来てくれ。いや、どうか来てほしい。きみのスキルでために」


 ――はぁ……あの……それはさすがに冗談ですよね……?




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