午前中の授業も、なんだかんだで流れていく。教科書をパラパラめくったり、なんとなくペン回ししてたら、気づけばもうお昼休みになってた。
「悟、学食行こうぜ」
響が俺の席までやってきた。
「おう、いいぞ」
俺たちは教室から出ると並んで学食へと向かう。
学食に到着すると、案の定、入口から人の行列ができている。お昼どきってこともあって、ワイワイとにぎやかだ。テーブルはほぼ満席、空いてる席もちらほら見えるけど、そこにはすでにカバンやノートが置かれて、席取りされてるっぽい。
カウンターの奥では、食堂のおばちゃんたちが慣れた手つきでトレイに料理を次々と盛っていく。カレーやラーメンのいい匂いが漂って、腹が鳴りそうになるのをこらえながらメニュー表を見上げた。
おぉ……カレーが380円、カツ丼も380円!?なんとお得な……
「やはりカレーか……」
メニューを眺めながら、俺は結局カレーの食券を手に取った。なんだかんだでカレーって安定だし、こういう場面だとつい選んでしまう。
一方で、響は食券機の前で力強く宣言した。
「俺はラーメン一択!」
そのままラーメンの食券を手に取って、俺にドヤ顔してくる。俺たちはそれぞれの食券を持って、食堂のおばちゃんに渡しに向かった。
食券を渡してから、ほんの数分くらいだったかな。おばちゃんたちの手際が良すぎて、すぐにカレーとラーメンがカウンターに並べられた。湯気がふわっと立ち上ってて、カレーのスパイシーな香りと、ラーメンの醤油の香りが俺たちの腹をさらに刺激してくる。
俺たちはようやく見つけた空いてる席を陣取ると、すかさずカレーに手を伸ばし、スプーンで
響も同じく、自分のラーメンにかぶりついている。
「そうだ、お前なんでわざわざ偽装したエロ本なんか持ってきてたんだよ」
俺がツッコむと、響は一瞬ギクッと固まり、周りをキョロキョロと見渡しながら小声で返してきた。
「ば、バカお前!声でかいって……周りに聞こえるだろ……」
「別に持ってきたくて持ってきたわけじゃねーんだよ。参考書の表紙で偽装してたの忘れてただけで……」
「いや、そもそもなんでそんな偽装してまで部屋に置いておく必要あるんだよ。普通に部屋の隅とかに隠しとけばいいじゃん」
俺が当然の疑問をぶつけると、響は深いため息をつきながら、どこか恨めしそうに続けた。
「いや、それがさ……普通に部屋に隠してたんだけど、どういうわけかねーちゃんに見つけられて、見つかるたびに処分されるんだよ……」
そう言って男泣きする響。その顔はどこか悲哀に満ちていた。
「部屋に鍵とかないのか?」
俺がそう聞くと、響はどこか誇らしげに言った。
「部屋に鍵はつけたさ」
「ほう」
「……でもピッキングで開けられてた」
「やるなあ……」
俺が感心していると、響はさらに落ち込んだ表情を見せた。
「悟ん家って、そういうのないのか?」
「俺ん家は、まあたまに部屋に入ってくるけど、さすがにそこまでガサ入れはしないかな」
俺が答えると、響は俺をじっと見つめて、突然真剣な顔で言い出した。
「そっか……なあ、悟、お願いがあるんだが……」
「内容次第だな」
響は少し身を乗り出して、低い声で囁いた。
「俺の仕入れたばかりの聖典達を、お前の部屋で保護してほしい」
「対価は?」
「これなんかどうだ……?」
響がスマホの画面を俺に見せてきた。画面には、どうやらまたあいつの聖典候補が映っているらしい。
「こういう系か……」
俺はじっくりと画面を見つめる。響の趣味もわかってきたとはいえ、なかなかのチョイスだ。悪くはないが、なんというか……俺の中でイマイチ引っかかりがない。
「ダメか……?」
響が不安げに聞いてくる。
「なんかピンと来ん」
俺がそう言うと、響は少し焦りつつ、画面を次にスワイプした。
「なら、こっちはどうだ?」
響の顔に真剣な表情が浮かんでいる。画面に映る別の候補に、俺は思わず息を飲んだ。
「ほう……」
響は俺の手を握ってきた、交渉成立だ。
「とりあえず今日の夜22時までにルインで日時と住所を送れ。送ったあとは必ずメッセージは削除しろ。身内に見られたら終わりだからな。」
「ラジャ!」
響は元気よく返事すると、残っていたラーメンを一気に平らげた。