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第4話 自己紹介


入学式が終わり、俺は掲示板に張り出されたクラス表を確認して、自分のクラスへと向かう。教室に入ると、早くも何人かの生徒が雑談している。俺は特に誰とも話すことなく、自分の席に向かって座った。


ほどなくして、担任が教室に入ってきて、ガラガラと黒板に出席番号を貼り出す。ああ、これからいよいよ始まるんだなって実感が湧いてくる。


「みんな、おはよう。まずは自己紹介から始めようか」


担任が軽く促すと、教室が少しざわついた。自己紹介か……正直、特に言うこともない……


「えっと、初めまして!私は天野椿芽あまのつばめです!ちょっとドジな所もありますがこれからよろしくお願いします!」


 トップバッターで自己紹介した瞬間、クラスの男子たちが一気にざわついた。いや、だって一言で言えばめちゃくちゃ可愛い。茶色のツインテールに柔らかい雰囲気をまとってて、男子が「マジか、こんな子が同じクラス?」ってなるのも無理ない。実際、俺も思ってたよ。


 でも、この子って確か……入学式前に神野響を追いかけてた女の子だよな。

(ってことは、この流れだと次は……)


自己紹介が順調に進んでいく中、すぐに彼の番が来た。


「俺は神野響です!趣味はゲーム。よろしくお願いします!」


爽やかに挨拶した瞬間、今度はクラスの女子たちがざわめき始める。

(やっぱり、こいつも居たか)


 こいつも例によってイケメンだ。多分、あの件関係なくモテるタイプだろう。正直、羨ましい。


そんなことを考えていると、次第に自分の番が近づいてきた。


(さあ……覚悟決めるか……)


ついに自分の番。


「俺の名前は佐藤悟です!趣味は筋トレ!こう見えて腹筋割れてます!!!」


勢いよく着ていた制服をバッと脱ぎ、同年代の割にはしっかり仕上がった筋肉を披露してみせる。


(ふふふ……過去の俺に感謝だな)


中学時代、「いつか来る何かのために鍛えておかねば」という謎の使命感で続けてきた筋トレ。痛々しい過去の努力が、ここに来て一応役に立った……ような気がする。


当然、クラス中の視線は白い目。


(うん、まあそうなるよね!)


正直、こうなることは分かってたけど、背に腹はかえられない。人類救うんだし!


「君……早く服を着て、座りなさい」


「はい……」


とにかく大事なのは第一印象だ。筋トレ大好きなアホっていうイメージを持ってもらえれば、クラスのみんなも接しやすいと思ってくれるはず……いや、そう願いたい。そんなことを考えているうちに、心の中ではもう泣きたくなってきた。


(お家帰るぅ……)


と、さめざめと泣きそうになっていた。


その後も自己紹介が続いて、担任から授業の時間割や今後のスケジュールの説明があったけど、そんなことに余裕なんて俺にはなかった。


(とにかく、この後神野響と接触しないといけない……)


焦る気持ちを抑えながら、どうやって彼に近づくかを考える。こんな調子でうまくいくのか不安になるが、最悪、ここから思いっきり飛び降りて死に戻りしてやり直せばいいと考えた。

あれから接触する機会を伺ったが、初日だからか、近くの席の子ならともかく、響と俺の席は後ろと前でちょっと距離があった。これじゃ、話しかけるのは難しいな。


放課後、周りのみんなが帰り支度を始める中、俺も気を引き締めて席を立った。さあ、意を決して響のところに向かう。彼も帰り支度をしてるみたいだ。


「おう、お前の名前なんて言うんだ?」と、軽い感じで声をかけてみる。


(知ってるけどね!)


「か、神野響だけど……」


「おお!そうか!俺は佐藤悟だ!よろしくな!」


「お、おう……」


「なんだあ?お前、緊張してんのか?」


「い、いや、どちらかというとヤバい奴から声かけられたって思って……」


(結構ストレートに言うな、この奴……)


「なんだと!?俺、そんなヤバいやつに見えたか!」


「いや、みんなドン引きしてたぞ……」


「クッソ、俺が何日も練って考えた渾身の自己紹介だったのに……」


「もうちょいなんかあるだろ……」


響は少し笑いながら手を出してくる。


「よろしく」


「おう、よろしくな、響!」


俺は握り返す。なんか、思ったより普通に話せたな。


「いきなりファーストネームかよ……」


その時、視界の端で一人の少女が近づいてくるのが見えた。彼女がハートポーズを決めると、周囲の空気が一瞬明るくなった気がした。


「おやおやまあまあ……いわゆるこれかい?」


「「それはない」」


俺たちの声がピッタリ重なる。思わず顔を見合わせてしまった。


「いやーひーくん、初日からすんごい子と仲良くなるねえ……私の名前は天野椿芽だよ、よろしく!」と彼女は元気いっぱいに自己紹介する。笑顔がまぶしくて、なんだかこっちまで気分が明るくなる。


「えっと、よろしく……」と、俺は少し戸惑いながら返す。


「ひーくんにはあのノリなのに、私にはこれか……寂しいねえ……悲しいねえ……ハッ、やっぱりそっち!」と、再びハートポーズを決める。


「だから違うって!」と、思わず突っ込む。


「お前ら知り合いなのか?」


俺は響に疑問を投げかける。


「ああ……家が隣通しの昔馴染みさ」と響が言う。


(そんなの漫画やアニメでしか聞いたことねー設定だぞ……)


「おう、そうなのか。よろしくな、天野」


「うん、私のことは椿芽でいいよ」と、椿芽はスッと手を出してきた。


「…………?」


「私には握手してくれないのかい!!」彼女が急にしくしくと嘘泣きを始めたもんだから、ちょっと焦った。周りの目が気になって、女の子と握手するのは、正直ちょっと恥ずかしい。


「え、あ、ほら……」と、俺は意を決して手を差し出す。


「やった!」と彼女は嬉しそうに握り返した。その笑顔に思わず心が和んだ。やっぱり明るい子はいいな、と思いながら、少し緊張していた気持ちがほぐれていくのを感じた。



「おう、お前ら、もし良かったらこの後どっか行かないか?」

俺は軽い気持ちで聞いてみる。


「いいぜ、どうせ家帰るだけだし」

響はあっさり返す。ノリいいな、こいつ。


「わるーい、入学初日でもう寄り道!?」

椿芽は驚いた顔をして、ちょっとおもしろい。


「初日だからこそ、親睦を深めるのが大事なんだぜ!」

俺は言い切る。

「じゃあ、椿芽は先に帰ってていいぞ」

響がそう言うと、椿芽は少しムッとした顔をする。


「いいよ、私も着いてく。3人で不良さんになろう!」


「うっし、じゃあ適当に遊びに行くか!」

俺は軽いノリで言って、2人と一緒に校門を出た。外に出る。


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