アラームが鳴って、意識が少しずつ浮かび上がってくる。まぶたの裏に、かすかに朝の光が感じられる。
(ふわぁ……寒いな……)
ベッドの中でゴロゴロしながら、手を伸ばしてスマホを取る。画面を見ると、まだ朝の7時か。もう少し寝ていたいけど、仕方ない。
(なんか、やたらリアルで疲れる夢だったな……)
夢の内容を思い出そうとするけど、ぼんやりしていてよく覚えていない。けどなんか気になる。
(ラノベ買いに行って……その帰りに事故って……変な神に会って……)
「いやいや、さすがにバカバカしいわ……顔でも洗ってくるか」
布団の温もりから抜け出すのがしんどいけど、なんとか体を起こして立ち上がる。立った瞬間、冷たい空気が肌に刺さる感じがして、軽く身震いする。
「うわ、寒っ……」
4月になったけど、朝はまだちょっと冷えるな。少し寒さに耐えながら、洗面所に向かった。
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高校受験も終え、すべてから解放された俺は、人生で一番の時を過ごしていた。
(今日買ったラノベ、早く家帰って読みてえ……)
俺はママチャリのカゴに詰めたラノベをチラッと見て、ふと、デジャヴを感じる。
(ん?これ、夢で見た気がするな……)
夢の中で、確かにラノベを買って、ここで事故に遭ったんだよな。なんとなくその記憶が蘇ってくる。
俺は信号が青でも、横断歩道を渡らずにそのままママチャリを止めた。
(ガシャン!!)
俺の目の前を、信号無視してトラックが猛スピードで駆け抜けていき、街灯に突っ込んだ。
「え……マジで事故った……」
周りは騒然として、野次馬たちがわらわらと集まってくる。俺はその光景をぼんやりと見ていた。
(あのトラック……夢で見たやつだ)
背筋がゾクッとした。
(でも俺、夢とは違って事故ってない……何でだ?)
不思議な感覚に包まれたまま、俺はその場に立ち尽くしていた。
「坊主、大丈夫か?今の信号、渡ろうとしてたろ?危なかったな……」
通りすがりのおじさんが声をかけてきて、俺はハッと我に返る。
「あ、はい……ありがとうございます」
言葉がうまく出てこなくて、曖昧に返事をする。
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それから俺は、家までの帰り道をほとんど覚えてなかった。気がついたら、だるい体を引きずりながら家に戻ってて、自分の部屋で買ったラノベを適当に床に放り投げ、そのままベッドにダイブしてた。
「俺……死んだんだよな……」
夢――いや、夢じゃないな、あれは。死ぬ前に起こったことだ。ぼんやりと思い出す。
「で、あの
なんかチートっぽい【死に戻り】とかいう能力をもらって、さらに無茶な使命を押しつけられた俺。どうやらその力で、事故る前の「今朝」に戻ってきたらしい。
「はぁ……」
一気に疲れがぶり返してくる。これからのことを考えただけで、全身が重くなる。確か……恋愛サポートだっけ? しかも、相手は神野響とかいうやつで……。
「神野響……だったかな……」
「……で、恋愛サポートって、具体的に何をすんだよ?」
俺、恋愛経験ゼロだし、彼女どころか女の子とまともに話したことすらないんだけど。どうすればいいんだよ、これ。
「わからん……」
考えたところで、答えが出るわけでもない。とりあえず、
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① 神野響には変な力があって、それを狙ってる天使と悪魔がいる。
② 天使と悪魔は、女の子の姿になって神野響を落とそうとしてくる。
③ その力を手に入れることで、人類を滅ぼすことができる。
④ 神野響を人間の女の子とくっつければ、力を奪われるのを防げる。
⑤ 俺は【死に戻り】を使って、友人としてサポートする役目。
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こうやってまとめてみると、いろいろ疑問が浮かんできたな。まず、どうやってその「力」を奪うんだ? 恋愛が必要ってことは……。
「キス……とか?」
某ラノベで、主人公がヒロインの能力を封印するシーンがあったけど、もしかしてそんな感じ? それなら、恋愛する必要がある理由もわかる気がする。
「それにしても、なんで恋愛が必須なんだ……?」
普通に考えたら、神野響が恋愛しないようにするほうが簡単そうじゃね? ハーレム状態になると、そりゃ難しいかもしれないけど……それとも、恋愛しないと力が暴走するとかか?
「もしそんなことあるなら、あの
他にも気になることはいろいろあるけど、天使とか悪魔とか、どうやって見分けるんだろう? でも、まあ、死に戻りすればなんとかなるか。
とりあえず、今のところ一番の課題は……。
「友達になること、だよな……」
俺、コミュ障ってわけじゃないけど、別にコミュ力高いわけでもないし。知り合い以上、友達未満の関係になると、サポートとか難しい気がする。
「まずは響との信頼関係を築かないとな……」
でっかいため息をついて、カレンダーを確認する。
「あと4日……4日以内にどうにかしないと」
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4月7日 入学式当日
ほとんどのやつが、期待と不安で胸をいっぱいにしてる中、俺の心境は不安一色だった。
(とりあえず、策は練った。あとは試すだけ……)
最悪、失敗したらその場で飛び降りてやり直せばいい、そう思ってた。
親に頼まれて、校門前の入学式の看板の前で写真を撮らされたあと、俺はすぐにその場を離れようとした。けど、すぐに目を引く人物が現れる。
「ほら、行くぞ!
1人の少年が俺の目の前を通り過ぎる。あいつ、見覚えがある……神が見せてくれた、神野響だ。
「ま、待ってよ、ひーくん!」
響を追いかけるように、ふんわりした雰囲気のツインテールの女の子が駆けていく。それを俺はただ、目で追っていた。
(……もう女の子連れじゃん)
入学式が始まる前から、俺は大きなため息をついた。