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第3話 死に戻り、出会いの幕開け


アラームが鳴って、意識が少しずつ浮かび上がってくる。まぶたの裏に、かすかに朝の光が感じられる。


(ふわぁ……寒いな……)


ベッドの中でゴロゴロしながら、手を伸ばしてスマホを取る。画面を見ると、まだ朝の7時か。もう少し寝ていたいけど、仕方ない。


(なんか、やたらリアルで疲れる夢だったな……)


夢の内容を思い出そうとするけど、ぼんやりしていてよく覚えていない。けどなんか気になる。


(ラノベ買いに行って……その帰りに事故って……変な神に会って……)


「いやいや、さすがにバカバカしいわ……顔でも洗ってくるか」


布団の温もりから抜け出すのがしんどいけど、なんとか体を起こして立ち上がる。立った瞬間、冷たい空気が肌に刺さる感じがして、軽く身震いする。


「うわ、寒っ……」


4月になったけど、朝はまだちょっと冷えるな。少し寒さに耐えながら、洗面所に向かった。


――――――――――――――――――――――


高校受験も終え、すべてから解放された俺は、人生で一番の時を過ごしていた。



(今日買ったラノベ、早く家帰って読みてえ……)


俺はママチャリのカゴに詰めたラノベをチラッと見て、ふと、デジャヴを感じる。


(ん?これ、夢で見た気がするな……)


夢の中で、確かにラノベを買って、ここで事故に遭ったんだよな。なんとなくその記憶が蘇ってくる。


俺は信号が青でも、横断歩道を渡らずにそのままママチャリを止めた。


(ガシャン!!)


俺の目の前を、信号無視してトラックが猛スピードで駆け抜けていき、街灯に突っ込んだ。


「え……マジで事故った……」


周りは騒然として、野次馬たちがわらわらと集まってくる。俺はその光景をぼんやりと見ていた。


(あのトラック……夢で見たやつだ)


背筋がゾクッとした。


(でも俺、夢とは違って事故ってない……何でだ?)


不思議な感覚に包まれたまま、俺はその場に立ち尽くしていた。


「坊主、大丈夫か?今の信号、渡ろうとしてたろ?危なかったな……」


通りすがりのおじさんが声をかけてきて、俺はハッと我に返る。


「あ、はい……ありがとうございます」


言葉がうまく出てこなくて、曖昧に返事をする。





 ――――――――――――――――――――――

それから俺は、家までの帰り道をほとんど覚えてなかった。気がついたら、だるい体を引きずりながら家に戻ってて、自分の部屋で買ったラノベを適当に床に放り投げ、そのままベッドにダイブしてた。


「俺……死んだんだよな……」


夢――いや、夢じゃないな、あれは。死ぬ前に起こったことだ。ぼんやりと思い出す。


「で、あのアホに生き返らせてもらったのか……」


なんかチートっぽい【死に戻り】とかいう能力をもらって、さらに無茶な使命を押しつけられた俺。どうやらその力で、事故る前の「今朝」に戻ってきたらしい。


「はぁ……」


一気に疲れがぶり返してくる。これからのことを考えただけで、全身が重くなる。確か……恋愛サポートだっけ? しかも、相手は神野響とかいうやつで……。


「神野響……だったかな……」


アホが言うには友達になれってことだから、たぶん同じ高校に入学して、同じクラスになるんだろう。じゃないと、俺に頼む意味ないしな。


「……で、恋愛サポートって、具体的に何をすんだよ?」


俺、恋愛経験ゼロだし、彼女どころか女の子とまともに話したことすらないんだけど。どうすればいいんだよ、これ。


「わからん……」


考えたところで、答えが出るわけでもない。とりあえず、あのが言ってたことを整理してみるか。机からノートを引っ張り出して、適当にまとめてみた。


――――――――――――――――――――――――


① 神野響には変な力があって、それを狙ってる天使と悪魔がいる。


② 天使と悪魔は、女の子の姿になって神野響を落とそうとしてくる。


③ その力を手に入れることで、人類を滅ぼすことができる。


④ 神野響を人間の女の子とくっつければ、力を奪われるのを防げる。


⑤ 俺は【死に戻り】を使って、友人としてサポートする役目。


――――――――――――――――――――――――


こうやってまとめてみると、いろいろ疑問が浮かんできたな。まず、どうやってその「力」を奪うんだ? 恋愛が必要ってことは……。


「キス……とか?」


某ラノベで、主人公がヒロインの能力を封印するシーンがあったけど、もしかしてそんな感じ? それなら、恋愛する必要がある理由もわかる気がする。


「それにしても、なんで恋愛が必須なんだ……?」


普通に考えたら、神野響が恋愛しないようにするほうが簡単そうじゃね? ハーレム状態になると、そりゃ難しいかもしれないけど……それとも、恋愛しないと力が暴走するとかか?


「もしそんなことあるなら、あのゴミが何か言ってそうだしな……。いや、あいつなら言い忘れてる可能性もあるか……」


他にも気になることはいろいろあるけど、天使とか悪魔とか、どうやって見分けるんだろう? でも、まあ、死に戻りすればなんとかなるか。


とりあえず、今のところ一番の課題は……。


「友達になること、だよな……」


俺、コミュ障ってわけじゃないけど、別にコミュ力高いわけでもないし。知り合い以上、友達未満の関係になると、サポートとか難しい気がする。


「まずは響との信頼関係を築かないとな……」


でっかいため息をついて、カレンダーを確認する。


「あと4日……4日以内にどうにかしないと」





 ――――――――――――――――――――――――


 4月7日 入学式当日


ほとんどのやつが、期待と不安で胸をいっぱいにしてる中、俺の心境は不安一色だった。


(とりあえず、策は練った。あとは試すだけ……)


最悪、失敗したらその場で飛び降りてやり直せばいい、そう思ってた。


親に頼まれて、校門前の入学式の看板の前で写真を撮らされたあと、俺はすぐにその場を離れようとした。けど、すぐに目を引く人物が現れる。


「ほら、行くぞ! 椿芽つばめ!」


1人の少年が俺の目の前を通り過ぎる。あいつ、見覚えがある……神が見せてくれた、神野響だ。


「ま、待ってよ、ひーくん!」


響を追いかけるように、ふんわりした雰囲気のツインテールの女の子が駆けていく。それを俺はただ、目で追っていた。


(……もう女の子連れじゃん)


入学式が始まる前から、俺は大きなため息をついた。

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