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第27話 剣持隼人

「じゃあ日直は、これを社会科資料室に戻しておいてね」


 5時間目が終わると、先生はそう言い残して教室を出ていった。


「あ、私が代わるわ」


「え?どうしたの?」


「ん?ちょっとした気まぐれかな?」


 今日の日直は剣持くんと涼香ちゃん。

 私は席を立とうとしていた涼香ちゃんにそう言うと、返事を待たずに教壇へと向かう。


「あれ?馬淵?」


 地球儀を手に持っていた剣持くんが不思議そうに私を見る。


「涼香ちゃんは体調が良くないみたいだから代わってあげたの」


「そうなんだ……」


 剣持君は話す声にも元気が無い。

 私は吊り下げ型の丸めた大きな世界地図を抱えて、剣持くんと一緒に教室を出る。

 ねえ!普通、サイズ的にこっちを男子が持つんじゃないの?!



 無言で歩く私たち。

 2階の渡り廊下を渡って、向かいにある校舎の3階へ向かう。

 こちらの校舎には教室が無いから、授業の終わったこの時間に他の人の気配は無い。


 先生が教室に置いてくれていた鍵を使って中に入る。


「ここで良いのよね?」


 いろいろな物が置かれている棚の空いたところに、シールで世界地図と書かれていた場所があった。

 その2つ隣には同じく地球儀のシールが貼られてある。


「ねえ、剣持くん。ちょっとだけ時間良いかな?」


 棚に片づけ終わって、無言で部屋を出ようとしていた剣持くんを呼び止める。


「……何?」


 怪訝そうな顔で振り返った剣持くん。

 普通、こういうシチュエーションだったら愛の告白とかって思わないかなあ!!

 それともそう思ってのその顔なのかなあ!!


「あのね、高遠くんのことなんだけど……」


 剣持くんがビクッと全身を震わせた。


「――亮太が何?」


 その声のトーンにはあからさまな警戒の色が見て取れる。


「私、昨日高遠くんのお見舞いに行ったのよ」


「……何で馬淵が亮太の見舞いに?」


「何でって、私のお母さんが高遠くんのお母さんと友達だから、一度くらいお見舞いに行ってきなさいって言われて」


「そう……」


「うん。そしたら高遠くん。思ったよりも全然元気で、病院は退屈だから早く退院したいって言ってたよ」


「そう……」


「でも、剣持くんて、一度も高遠くんのお見舞いに行ってないよね?どうして?」


「どうしてって……」


「だって2人は友達でしょ?もう親友って感じの。それに事故の時に一緒にいたんだから、それこそ一番に様子を見に行くもんじゃないの?それなのに、剣持くんは一度も行ってない」


「……何が言いたいんだ」


「別に何ってことはないんだけど、不思議だなあって思って」


「俺も……目の前で亮太が撥ねられたから怖くて……」


「嘘だよね」


「え?!」


「それは嘘だよね?って言ったの。怖いのは本当かもしれないけど、その理由は嘘だよね?」


「お前……何を言って――」


「だって教室で見る剣持くんは、こっちが悲しくなるくらい落ち込んでたもの。あれは事故を見て怖いというよりも、これから起こる何かに怯えているって感じがしたんだよね」


「それはお前の勝手な――」


「うん。そうね。これは私の勝手な思い込み。剣持くんがどんな気持ちでいるのかなんて解りっこないから」


「……何が言いたいのか分からないんだけど」


「高遠くん――事故の時の記憶があるよ」


「――!?」




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