「あれは絶対に記憶があるね……」
「やっぱり……」
高遠くんのお見舞いに行った翌日の昼休み。
私の感じたことを一ノ瀬さんに報告した。
1階の階段下の暗いスペース。
少し埃っぽいのを我慢しなければいけないけど、何となく秘密基地感があって好きだ。
「問題は何故、高遠くんがそのことを隠しているのかってことだけど」
「それは……やっぱり私を庇ってるんだと思う……」
事故の前日に喧嘩をしていたという2人。
たまたま一ノ瀬さんを見つけた高遠くんが逃げようとして飛び出して撥ねられた。
まあ、無くは無いとは思うけど……。
どうも私の感じたのは少し違う気がするのよねえ。
「もしそうだとしても別に一ノ瀬さんのせいじゃないでしょ?勝手に飛び出したのは高遠くんなんだから」
「――でも!」
「庇うにしてもおかしいでしょ?だって、もしそんなことを高遠くんが言ったとしても、みんなは飛び出した高遠くんが悪いって思うもの。一ノ瀬さんが突き飛ばしたっていうなら別――」
一ノ瀬さんが突き飛ばす?いや、それはいくらなんでも無理だよ。でも――
「私はそんなことしてない!!」
「あ、ごめん。そういうことじゃなくて、例えばって話だから。一応もう一度だけ確認するよ?一ノ瀬さんは離れたところにいた。高遠くんと剣持くんは2人並んで横断歩道のところにいた。周りには他に誰も居ない。これで間違いないよね?」
「う、うん……。馬淵さん……もしかして剣持くんが高遠くんを道路に突き飛ばしたと思ってる?」
「一ノ瀬さんはそれを見たの?」
「え?……いいえ。私には高遠くんが自分で飛び出したように見えたけど……」
「その時、剣持くんはどんなだったか覚えてない?」
「剣持くん……。多分だけど、普通に前を向いてたんじゃないかな?私の方からは顔が見えなかったから……。で、でも!そんな突き飛ばす様なことしたんだったら気付いたはず!」
「そうね。私もそう思うわ。自転車に跨って立っている体勢から、人を自転車ごと道路に突き飛ばそうとしたんだったら一ノ瀬さんが気付いたはず。それにそんなことをされてまで剣持くんを庇う意味も分からないしね。殺されかけたんだから」
「そ、そうよね。あの2人は親友だもの。そんなことをするはずがないわ……」
親友ねえ……。
そんな2人が同じ女の子を取り合ってるんでしょ?
残酷な話だわ。
「じゃあ……やっぱり……」
一ノ瀬さんの目から大粒の涙が溢れ出す。
いや、さっきから一ノ瀬さんのせいじゃないって言ってるじゃん!!
何?これが悲劇のヒロインムーブなの?
「お、落ち着いて一ノ瀬さん!大丈夫だから!高遠くんもすぐに戻ってくるし、そしたら全部元通りになるから!」
めんどくさい!!
何で私がこんなフォローしなきゃならないの!!
自分に酔い過ぎ!!
だから恋とか愛とかが絡む話は嫌いなんだ!!
何とか泣き止んだ一ノ瀬さんだったけど、まだ納得はしていない様子。
まあ、そのうち高遠くんが戻ってきたら元気になるでしょ。
私は……そうね。こんな中途半端で終わるのは気持ち悪いわ。
別に3人の関係に興味は無いけど、乗りかかった以上ははっきりさせてもらいましょうかね。