「あれ、馬淵?えっと……いらっしゃい?」
私の顔を見てぽかんとした顔の高遠くん。
ベッドの上で両足をギブスで釣られて、頭にもぐるぐるに包帯を巻いている姿だったけど、その顔は相変わらずイケメン。
一ノ瀬さんと話をした翌々日の日曜日。
私はお見舞いという体で入院している高遠くんを訪ねていた。
「うふふ。じゃあ、私は少し用事があって席を外すから、あとは純ちゃんにお任せするわね」
付き添いで来ていた高遠くんのお母さんは、そんな意味深な事を言って病室を出て行った。
私のお母さんと高遠くんのお母さんは前から仲が良いらしく、突然訪ねて来た私に対しても特に警戒心があるようには見えなかった。
でも違うから!!
そんなつもりで来たわけじゃないから!!
そんなつもりって何だ!!
「大変だったね。怪我大丈夫なの?」
ベッド横の丸椅子に座りながら社交辞令的にそんなことを言ってみた。
「あ、ああ。怪我は見ての通りだけど、特に後遺症も残りそうに無いからって言われてる」
「そっか、大丈夫そうには見えないけど大丈夫なんだ」
「何だよそれ?ハハハッ!――イツッ!!」
急に笑い出した高遠くんは、それが怪我に響いたのかお腹を押さえて痛がった。
「怪我してるんだから無理しちゃ駄目だよ?」
「いや……お前が笑わせるから……」
別に笑わせてなんかないぞ。
ベッドの脇には私たちが作った千羽鶴が飾られている。
「あ、それもう届いてたんだ」
「ん?ああ。昨日先生が家に持ってきてくれたって母ちゃんが言ってた」
「高遠くんて母ちゃんて呼んでるんだ?」
「え?母ちゃんは母ちゃんだろ?変か?」
「いや、イメージ的に「お母さん」とか「ママ」とかって言ってそうだったから」
「どんなイメージだよ」
だって、イケメンの口から母ちゃんなんて単語が出てくるとは思ってないし。
「これありがとうな。千羽鶴なんて貰ったの初めてだったからスゲェ嬉しかった」
「そうそう貰うもんじゃないし、貰うようなことにならないに越したことはないけどね」
「そりゃそうだな」
こうやって話すこと自体が初めてだったわりには打ち解けられてる気がする。
私って意外とコミ症ってわけじゃないんじゃない?
陰キャなだけでさ。
「でも馬淵が見舞いに来てくれるなんて驚いた。今まで話したこともなかったと思うんだけど?」
「えっと、ほら、うちのお母さんが高遠くんのお母さんと仲が良いから、一度お見舞いに行きなさいって言ってて……」
これは訊かれるだろうとシミュレーション済みだ。
「あ、それでか。……どうした?急に上見上げて。天井に何かあんの?」
でも嘘をつくのは得意ではない。
「そっか、みんな心配してくれてるんだな……」
簡単にクラスの雰囲気を伝えてあげた。
小学生にとって友達が事故で入院するというのは結構な大事だ。
「うん。最初に先生から聞いた時は、クラス中がお通夜みたいな雰囲気になってたよ」
「俺死んだわけじゃないけどな」
「友達が車に撥ねられたって聞いたらそうなるのよ」
怪我の度合いも想像出来ないしね。
「特に一緒にいた剣持くんと一ノ瀬さんはかなり落ち込んでるわ」
さりげなく本題に入って反応を伺ってみる。
「隼人が……」
「剣持くんは目の前で見たらしいから、そりゃショック受けてるでしょ」
「まあ、そうだよなあ……」
ん?これは――
「あれ?高遠くんは剣持くんと一緒にいたの覚えてるの?」
「え?あ――」
当日の記憶自体が無いって聞いてるけど?
「あ、母ちゃんから聞いたんだよ。隼人と一緒にいて撥ねられたって」
「ああそうなんだ」
へえ、そうなんだ。