「高遠くんが事故に遭った日曜日。私はちょうどここを通りかかったの」
一ノ瀬さんはその時の事を思い出しながら話しだした。
別に聞いてないけど?
「2人は自転車に跨って、並んでここに止まって何か話をしていたのが見えたの――ちょうどあの辺りくらいから」
そう言って交差点に向かって左の道路を渡った先を指さした。
ここからは車道2本挟んだところだから、それほど離れてはいないな。
「それで一瞬こっちを見た高遠くんと目が合ったと思ったら……」
そこで一ノ瀬さんは言葉を詰まらせて下を向いたしまった。
「高遠君が飛び出して車に撥ねられた?」
「……うん。信号は赤だったのに……急に……」
その声は涙声になっていた。
そりゃあ目の前で同級生が、それも自分の好きだったという噂の子が撥ねられたらショックでしょうね。
「もしかしたら……私のせいじゃないかって思って……」
え?何で急にそんな話になるの?
一ノ瀬さんは事故と全然無関係じゃない。
「どうしてそう思うの?」
「だって!高遠くんは私がいたの知ってたのよ!」
「……えっと、高遠くんは一ノ瀬さんがいたのを知ってて飛び出したと?どうして?あなたたちって仲良かったと思ってたんだけど?」
むしろ姿を見たなら寄ってきそうなもんだ。
「……あの前の日に電話で喧嘩したの」
「ああ……そういうことね」
それで顔を合わせ辛かったから逃げようとして飛び出したんじゃないかと。
「でも、目が合ったのって一ノ瀬さんの勘違いかもしれないよ?高遠くんが勝手に飛び出しただけかも?」
「だから!それを……馬淵さんに確認してもらいたくて……」
ん?どこから「だから」に繋がってくるの?
今の話に私が関係してくる要素ってどっかにあった?
「……私に確認してほしい?なんで私?」
「えっと……その……言い辛いんだけど……。馬淵さんて、クラスでもあんまり親しい友達とかいないでしょ?高遠くんとも話してるの見たこと無いし……。だから逆に高遠くんから本当のことを訊き出しやすいかなあ……って」
お前は陰キャで友達もいないんだろ?
だったらイケメンの高遠くんとなんて話もしたことない別世界の人間なんだから、全く警戒心を持たれることなく聞けるんじゃね?って訳で良い?
「一ノ瀬さんやその取り巻きだったら、高遠くんも遠慮して本当はどうして飛び出したか言えないからってことね」
「取り巻きって……」
ちょっと刺すくらい許してほしい。
こっちはどこぞの海賊の樽くらいザックザクに刺されたんだから。
「うちのお母さんが高遠くんのお母さんに聞いたら、本人はその日の記憶がないって言ってるって……」
「じゃあ、本当に覚えてないんじゃないの?私が聞いたって一緒だよ」
「それも分かってる……それでも!もし私を庇ってるかもしれないって思ったら……」
「庇うって……。もし本当にそうだとしても一ノ瀬さんは何も悪くないじゃない。結局は飛び出した高遠くんの責任だと思う」
「でも……」
そう呟くと一ノ瀬さんは泣きだしてしまった。
誰がどう見ても私が泣かせたようにしか見えない光景に、通り過ぎていく人がじろじろと私の顔を見ながら歩いて行く。
勘弁してほしい……。