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第22話 馬淵純最初の事件

 ここをこう折って、こっちも折って、ここを開いて……。

 こうきゅっと伸ばして、先を折り曲げて……。

 よし!完成!


じゅんちゃん何作ってるの?」


 ご満悦の私に、隣の席の涼香すずかちゃんが声をかけてきた。


「何って……折り鶴だけど?他の何に見えるのよ」


「うーん。ゴミ?」


「おい!どうして私が一生懸命に折り紙を折り折りしてゴミを作らなきゃなんないの!」


「だって……その鶴は飛べない、よね?」


「よく見なさい!この立派な翼を!今にも大空へと飛び立っていきそうでしょう?」


「行き先は焼却炉かな?」


「よし!あんたの折り鶴を道連れに黄泉の国へと飛び立たせてやろうじゃないか!そのかけている役立たずの眼鏡もついでにな!」


馬淵まぶちさん、ちょっと声が大きいですよ。今は一応授業中なんですからね」


 ……先生に怒られたじゃないか。



 一応は授業中ということになっているが、クラスのみんながやっているのは折り鶴をひたすら折り続けるという作業。

 別にこれを使って鶴亀算をやるというわけじゃあない。


 3日前にクラスメートの高遠たかとお亮太りょうたくんが交通事故で入院してしまったので、そのお見舞いの為に千羽鶴をみんなで折っているのだ。


 うちの母親ネットワーク情報によれば、高遠くんは命に別状はないとのことだけど、両足の骨折と頭にも怪我を負っているので、しばらく入院して検査が必要らしい。

 自転車で横断歩道を渡ろうとして車に撥ねられたとのことなんだけど、どうやら信号無視をしたのは高遠くんだったみたいで、そう考えたら命が助かっただけでも良しとしなければと思う。

 撥ねてしまった車の運転手さんは気の毒ではあるけど……。

 高遠くんは事故に遭った日の記憶が無いらしい。


「ねえ、純ちゃん。剣持けんもちくん元気ないよね……」


 涼香ちゃんがひそひそと私の耳元で囁く。

 窓際の席に座っている坊主頭の剣持隼人はやとくん。

 その手に持っている折り紙は、最初に二つに折ったきり動いていないようだった。


「目の前で高遠くんが撥ねられるの見ちゃったんでしょ?そりゃあショックだと思うよ。私だったら寝込んじゃう自信がある」


 私も涼香ちゃんの耳元へ顔を寄せて囁き返す。

 事故があった当日、高遠くんと剣持くんは一緒に遊んでいたそうだ。

 そして信号無視で飛び出した高遠くんは、剣持くんの目の前で車に……。

 うわっ!想像しただけで鳥肌が立つ!


「でも、こんなこと言っちゃいけないんだけど、剣持くんにとってはチャンス到来ってことなのかもしれないよね」


「チャンス?何の?」


「ほら、一ノ瀬さんのことよ」


 一ノ瀬いちのせ歩夢あゆむちゃん。

 クラスでは人気のある方のグループのリーダー的な女子。

 人気の無い方のグループ?私や涼香ちゃんのいる陰キャ組ですけど何か?


「あれ?純ちゃん知らないの?」


 言っている意味が分からないという顔の私を見て察した涼香ちゃん。


「高遠くんと剣持くんて、2人とも一ノ瀬さんのことが好きなのよ」


 それは初耳。

 確かに2人が一ノ瀬さんと喋っているところをよく見かける気がする。

 高遠くんはイケメンで、剣持くんは坊主頭だけどスポーツが得意。

 2人ともクラス内だけじゃなく、学校内でも女子人気が高い。


「当分高遠くんは学校来れないでしょう?だから、剣持くんにしてみれば一気に出し抜くチャンスなのよ!キャー!」


 何故あんたがそんなに興奮してるんだ?

 あと、せっかくひそひそ話をしてるんだから大声出さないで。


「でも、一ノ瀬さんの気持ちはどうなの?いくら剣持くんが頑張っても、相手にその気がなければ意味ないじゃない」


「うーん。一ノ瀬さんはみんなに優しいから分かり辛いんだけど、ほんのちょっとだけ高遠くんを見てる時間が長い気がするのよねえ。ほら、今だって剣持くんに負けないくらい暗い顔してるし」


 そっと窓際の一ノ瀬さんを見てみると、剣持くんと同じように折り紙を折る手が止まっている。

 普段の明るい表情は影を潜めて、まるで家族が事故に遭ったようだ。


「確定じゃない?明らかに他の子よりも落ち込んでるもの」


「やっぱりそう思う?でもさ、子供の恋なんてものはすぐに気が変わるものよ?だから高遠くんが休んでる間に剣持くんの逆転だって可能性のない話じゃないと思うの」


「その気が変わるどうこうって、どこ情報?」


「え?チャイルド恋愛文庫だけど?」


「でしょうね……」




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