ケンジの手を引いて商店街を歩く。
ほんの少し前と何一つ変わることない街の風景。
日曜という事もあってか、平日の昼間には人もまばらな商店街も、いつもの数倍の買い物客で僅かながらの賑わいを見せていた。
何を売っている店であっても関係のないクリスマス飾り。毎年変わり映えのしないクリスマスソング。寝具店や雑貨店の何がクリスマスセールなのか意味が分からない。
布団を新しくしてサンタを待つのか?
土足で煙突から侵入してくる相手にそんな気遣いは無用だと思うが。
そして予定通りにサンタはいた。
まあ、ついさっき通った時に見ていたのだから当たり前なのだが。
いくつかの店先でワゴンセールをやっている店員。
そのどれもがサンタのコスチュームに身を包み、前を通る買い物客に声をかけている。
「ケンジ。お前が見たのはああいうやつか?」
靴屋の前にいたサンタの恰好をした店員を指さしてケンジに訊いた。
「ううん……。似てるけど違う」
どれも全部似ているけどな。
最後は適当なサンタを捕まえてケンジの話を聞いてもらうか。
多分、何も言わなくても口裏を合わせてくれるだろう。
サンタの恰好をしておいて、子供の夢を壊すような奴はいないはずだ。
「――?どうした?寒いのか?」
ケンジの歩く速度が少しずつ遅くなっていた。
顔も俯いていて元気がなさそうに見える。
「クリスマス嫌い……」
サンタを探しておいてそれはないだろう。
「なんだか暗いから嫌い……」
「暗いから嫌い?」
俺は周囲を見回してみる。
どちらかというと、暗いよりは派手派手しい。
そりゃあ大型のショッピングモールなどには比べるまでもないが、それでも暗いという雰囲気ではない。
まさか、無理に派手に飾り付けているが、実際はそれほど売り上げが上がっていないという店側の心理を読んで暗いと言っているのか?
「健治!!」
実はケンジは天才なのではなどと考えていると、通りの向こうから女性の声が聞こえてきた。
そして一直線にこちらに向かって走ってきた。
「健治!!どこ行ってたの!!」
女性は隣にいる俺など目にも入っていない様子で、ケンジに抱き着いてきた。
その直前、ケンジと繋いでいる手がぎゅっと握られた。
「ごめんなさい……」
怒られると思っているのか、ケンジは女性の肩口に顔を当てたままそう呟いた。
「よかった……急に走って出て行っちゃうから……。捜したのよ……ああ……」
女性はまだ二十代後半といった感じだろうか。化粧気のない顔にぼさぼさになった髪。部屋着であろうスウェットの上にダウンベストだけを羽織ったいる。足元も玄関履きのようなサンダルだ。
ケンジが家を飛び出したことで余程慌てて捜しに出てきたのだろうことが分かる。
「え、この服……ケンジ、これどうしたの?」
「あ、それは俺のです」
「え?――誰!?何でケンジと手を繋いでいるの?!」
いや、そんなに驚かれても困る。
「俺は八百万学園の学生で
「え?公園?保護?」
「はい。その向こうの公園のブランコにいました」
「あんなところに……。ああ、どうもありがとうございました」
ようやく理解出来たようで、女性は俺に深々と頭を下げた。
「サンタクロースを追っかけてきたみたいですよ?」
「サンタクロース……!?」
一瞬だけ女性の目が開いたように見えた。
「もし問題なければ、お宅まで同行させてもらえますか?」
「――え、ええ?」
「ここでケンジ君の服を脱がすわけにはいきませんから」
「あ、ああ…私もこんな格好で出て来てしまって……」
「でしょう?代わりにお母さんの服を着せてあげられそうもないですしね」
「お気を使わせてしまってすいません……」
ケンジの保護者は見つかった。
後は家まで送り届けて――サンタの件をどうにかすれば終わりだ。
さてさて。