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第12話 ミス・マーブルの推理

「まあ、これは推理というよりも私の常日頃から積み重ねられた知識の賜物といえるかしらね」

 見下すような視線をホームズ先輩に送るマーブル先輩だったが、如何せん身長の違いがありすぎて、結果見上げるような体勢になってしまう。


「馬淵先輩は、今の方難先輩の推理とは違う意見なんですか?」

「違うわ。あんな力技の穴だらけの推理と同じわけないでしょう?」

「ほお!そこまで言うなら聞かせてもらおうか!貴様の言う華麗な推理とやらをな!」

 すでに二人はいつもの世界に入ってしまっている。

 ホームズ先輩は芝居がかった動きで、マーブル先輩に向かってビシッ!っと指を差した。

 現実でそんなことをやる奴はいない。


「時代は常に進歩しているのよ。人が宇宙旅行する時代に、勝手に演奏するピアノがないわけないじゃない」

「あ!?」

 浅見さんが何かに気付いたように声を上げた。


「あなたは気付いたようね。みんなも見たことがあるんじゃない?鍵盤が勝手に動いて曲を演奏しているピアノをね」

 ピアノは見たことがないけど、エレクトーンは見たことがある。

 でもあれは電子機器内臓のエレクトーンだからこそ出来ることなんじゃない?

 ピアノもあるの?


「俺はピアノが自動演奏をしているのは見たことがないぞ?そもそもそんな機能がどこにあるというのだ?」

「貴方のような視野の狭い人間には入って来ない情報でしょうね。でも私は違う!常に世間の動きを把握し続けているからこそ!今回の事件の深層に辿り着いたのよ!」

 マーブル先輩がそんなに世間に詳しいとは知らなかった。その情報源がどこからのものなのかはさて置き、今回もかなり自信満々な様子。


「ピアノに後付けで自動演奏が出来る装置があるという話を同人――本で読んだことがあるの」

 ああ、薄いやつか。


「ピアノの下を見てごらんなさい。そこにその装置が取り付けられているはずよ」

 ビシッ!っとホームズ先輩がやったようなポーズでピアノを指さした。


「おい、そんなようなものはどこにも無いぞ?」

 ピアノの下を覗き込んでいたホームズ先輩がそう言った。


「は?!そんなはずはないわ!もっとよく見なさいよ!」

「じゃあお前が見て見ろ」

「――あれ?……あれ?」

 そう言われてピアノの下に潜りこんだマーブル先輩。その様子からして、ピアノの下には言うような装置は取り付けられていないようだ。


「あ、あの――」

「もう19時よ。早く帰りなさい」

 浅見さんが何か言おうとした時、見回りの先生が吹奏楽室に入って来た。


 部活の延長の上限は19時まで。

 ここで推理合戦はタイムオーバーとなった。



 校舎を出るとすでに真っ暗になっていた。


「待たせてごめん」

 僕は正門で待っていた浅見さんと湯川さんに声をかける。


「ううん。忘れ物はあった?」

「うん。

「そう。じゃあ帰ろっか」

 そうして夜道を歩きだす僕たち。

 しかし三人とも口を開くことなくしばらく歩き続けた。


 5分ほど沈黙の時間が続き、周囲の人影もまばらになってきたのを確認してから僕はこう言った。



「ねえ、『勝手に鳴る吹奏楽室のピアノ』の正体は君だったんだね。――湯川さん」




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