放課後の吹奏楽室。
すでに吹奏楽部の練習が終わり、夕日の差し込むその室内には誰も居なかった。
入り口の扉は施錠され、少し前まで様々な楽器が鳴り響いていた反動から余計に静かに感じられる。
ガチャっと扉の鍵が開けられる音すらも大きく響くほどに、吹奏楽室周辺の校舎内は静寂に包まれていた。
扉を開けた人物は部屋の薄暗く感じた室内に灯りを点けようと、入り口横にあるスイッチへと手を伸ばす。
しかしその時、部屋の中にあったグランドピアノがゆっくりとしたテンポで曲を奏で始めた。
「付き合ってください!!」
告白は突然に。
丘の上の運命の木の下などではなく、学食へ向かおうとした廊下の角だった。
「えっと……」
「前からずっと好きでした!付き合ってください!!」
その大声に、周りの生徒たちもこちらを注目している。
前からといっても今はまだ五月。入学してから一か月ちょっとしか経ってないぞ?
同じ中学校だった子じゃない……と思う。自信はない。
「あの、ちょっと――」
「お願いします!駄目なら友達からでも!!」
すでに何が起こっているのか理解した生徒たちは、僕がどんな返事をするのかということに期待しているようだった。
「声が、みんな見てる――」
「お願いします!!」
「だから――」
「お、ね、が、い、しまーす!!」
………………。
「……友達でよければ」
うおぉぉ!!という周囲の勝ち鬨かのような歓声が上がった。
そして生まれて初めての友達が出来た。
「ワトソン君。どうやら彼女が出来たらしいな」
「――ぶフォ!!」
「え?!嘘でしょ?!」
放課後の新聞部の部室。
ぼんやりと持って来ていた小説を読んでいた時に、部長である
僕は思わず飲んでいたカフェオレを豪快に吹きだした。
「……どこでそれを」
「ん?昨日、君を称えるあの大歓声の中に俺もいたんだぞ?」
いたんかい。
じっと見てないで助けろよ。
「え?!え?!本当なの?!相手は誰なの?どんな子?何年生?可愛いの?ねえってば!」
「彼女とかじゃないですよ。ただの友達です」
「今日の昼もベンチで一緒に弁当を食べてて仲良さそうだったじゃないか」
「――なっ!?何でそれを?!」
「ん?あのベンチの後ろの木にもたれて本を読んでいたんだ」
いたんかい。
そこは見てないふりして立ち去れや。
「さあ、全部洗いざらいお姉さんに話ちゃいなさい」
いつの間にか馬淵先輩に背後に回り込まれていた。
くそっ!小さすぎて気付かなかった!
「いや…別に話すほどのことは……」
「あなたが知っている事だけで良いのよ。住所氏名年齢性別血液型家族構成交友関係スリーサイズだけで」
「人をストーカーみたいに言わないでくれます?」