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第5話 ミス・マーブルの推理

「今回は事件なんていうものではなかったの。いえ……未遂事件ではあるわね」

 ゆっくりとした足取りで部室内を歩き出すマーブル先輩。


「未遂事件?どういうことだミス・マーブル」

 芝居がかった口調のホームズ先輩。

 普段は馬淵って呼んでるのに。


「まあそれは追々話すわ。今回の事件のキーとなるのは、「美星涼」「渡会奏太」、そして「ロン毛」よ」

「なんだってー!」

 部長うるさい。


「まず美星涼と渡会奏太は恋人同士だった。しかし奥手の二人の仲はなかなか進展しなかった。多分美星さんの大人しい性格が影響してたんでしょうね」

 何故性格まで知っている?


「そのことに渡会君はじれったさを感じていたのよ。そこでついに彼は思い切った行動に出ようと考えた!昨日の部活中に、美星さんが教室に忘れ物をしていて部活が終わったら帰るという話を聞いていた渡会君。二人が付き合っていたのだったら、それくらいの話は部活中でも話していてもおかしくないわ」

「まあ、それくらいは話すかもしれないな」

「渡会君はそれを聞いて思いついたのよ。夕暮れに包まれたロマンティックな教室。そんなムードに後押しされて接近する二人の心。そして二人はついに……きゃー!」

 真っ赤な顔をして飛び跳ねるマーブル先輩。

 これは意外な一面。推理小説ばっかり読んでるイメージだったけど、実は恋愛小説とかも興味あるのかな?


「ん、んん!そんなことを考えた渡会君は、自分は用事があるからと言って先に3-Dの教室へ向かった。あとは美星さんが忘れ物を取りに来るのを待つだけ。でもここで渡会君の計画にある誤算があった。それは美星さんが桃鈴さんと一緒に教室に戻って来たということ。美星さん一人だと思っていた渡会君は、このままじゃ不審者扱いされると思って慌てて教室を出ていった。だって、理由は恥ずかしくて言えないでしょう?美星さん一人だったら、「君を待っていたんだ」とか歯の浮くような台詞も言えたでしょうけど」

 それでも十分に不審な行動だとは思うけど。

 現実で先回りして教室で待ち伏せしてる恋人って怖くない?

 その人が「君を待っていたんだ」とか言ったら恐怖だと思うんだけど。


「そして全速力で走り去っていった渡会君。二人が廊下に出た時には3-Cの隣にある校舎の出入口の方へ消えた後だったのよ」

「じゃあ内山田が見た長い髪の女性というのは……」

「走る時の風圧でなびいていた渡会君のロン毛姿だったのね。多分内山田くんが見たのは一瞬だったから、夕日の影響もあって、実際よりも長い髪に見えたんだと思うわ」

 残像的な?忍者かな?


「結果、渡会君の校内不純異性交遊計画は未遂に終わったということよ。どうかしら?これが私の導きだした答え。「見知らぬ女生徒」なんてものはいなかった。実際に3人が見たのは男性の渡会君の姿だったの。こんなのは事件とは言えないわね。所詮は未遂だもの」

 そしてマーブル先輩は自分の椅子へと座った。

 これで全部言い終わったという合図なのだろう。


「うむ。ミス・マーブルの推理にも一理ある。しかし、どちらにせよ確証を得ることは難しそうだな」

「そうね。ホームズの言う外を歩いていた人を捜すのも難しいでしょうし、渡会君を問い詰めたとしても素直に自分の恥になるようなことを認めるとは思えないわ」

「では今回は引き分けといったところだな」

「そうね。答えが得られない以上、ホームズの推理が絶対に違うとは言えないもの」

 二人はやや不満そうな顔でそう言った。


 時計を見る。

 時間はもうすぐ18時になろうとしていた。


「すいません。ちょっと早いんですけど、用事があるんで失礼しますね」

 僕は二人の迷探偵にそう告げて部室を後にした。


 マーブル先輩。

 そんなにダッシュしたんだったら、廊下に響く足音が聞こえてると思いますよ。




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