「簡単な話だったな!」
ホームズ先輩は上機嫌な様子でそう言った。
顔を見たら分かる。あれは今からとんでもないことを言い出す時の顔だ。
放課後、いつものように部室に集まった僕たち3人。
ホームズ先輩とは対照的にマーブル先輩はどこか照れているような紅潮した顔をしている。
「結局、最初から「見知らぬ女生徒」なる存在などいなかったのだ!」
「……そうね。そんなものはいなかったのよ……」
「ということは、お二人は謎が解けたんですか?」
「ああ!」
「ええ……」
どうにも二人の温度差が気になる。
「学園七不思議の「見知らぬ女生徒」の正体は影法師だ!」
勢いよく立ち上がりそう宣言する。
何故立つ?
「3-C、3-Dの教室は一階にある。そしてその室内には斜めに夕日が差し込んでくる」
確かに2人ともそんなことを言っていた。
校舎自体は南北を向いているけど、あの西校舎だけは遮蔽物が無いために、夕方になると夕日が差し込んでくる造りになっている。
「そして廊下を歩き、教室から出ていき消える影!なら答えは簡単だろう!」
意気揚々と話すホームズ先輩だったが、マーブル先輩は下を俯いたまま静かに聞いている。
「犯人は影法師!それも、窓の外を歩いていた生徒の作った影法師だ!」
ホームズ先輩が言っているのは、多分廊下とは反対側にある窓のことだと思う。
窓の外は一応歩けるようにはなっているけど、その先には何もない。
そんなところを放課後に何の用事があって歩いていたと?
「外を歩いていた生徒が夕日を受けて教室内に影法師を作った!そしてそれを見た3人は、それをその場にいる人だと錯覚した!よく見れば朱に染まっていた教室であっても影だと分かっただろう!だが!3人が見たのは一瞬のことだった!廊下に出て確認したとしても、影は教室の壁に阻まれて廊下までは届かない!いや、そもそも、外を歩いていた人物が通り過ぎてしまったことですでに教室内から消えていたのかもしれない!しかし三人はその人物が突如として消えたと思い込んでしまった!これが今回の「見知らぬ女生徒」殺人事件の全貌だ!」
いつから殺人事件になったのか。
騒ぎにはなっているけど、誰も死んでないぞ?
「じゃあホームズ先輩は、これまでに噂されていた七不思議の「見知らぬ女生徒」というのも全部影だったとお考えですか?」
「それは過去に何時どこで目撃された話なのかが分からんので何とも言えん!だが今回はそうだ!今回以外は知らん!」
分からない事をどうしてそうも自信満々に言えるのか。
「――ホームズ、残念だけど貴方の推理は間違っているわ」
それまで俯いて話を聞いていたマーブル先輩がゆっくりと立ち上がった。
何故二人とも座って話せないのだろうか。
痔か?座ってるとお尻痛いのか?