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第3話 証言その2 桃鈴凛香

「馬淵さん…と、片難くん……」

 3-Dの教室で友達と話していた桃鈴先輩も僕たちを見て眉をひそめる。

 傍に居た二人の女子も同じような顔をしている。

 女性にそんな目で見られるのは嫌いじゃ……げふん!げふん!


「ちょっと話を聞かせてもらいたいんだけど良いかしら?」

「……「見知らぬ女生徒」の話でしょ。別に良いわよ。今もちょうどその話をしていたところだし」

「そうか!なら話は早い!」

「ちょ!片難くん!大きな声出さないで!」

 空回りし続ける純情な感情。


「桃鈴さんがそれを見たのは何時ごろなの?」

「部活が終わって、りょうが教室に忘れ物をしたって言うから一緒に戻って来たの。だから時間は18時過ぎだったかな。正確な時間は覚えてないけど、それくらいだったと思う」

「涼っていうのは、同じ美術部の美星みほし涼さんかしら?」

「そうよ。それで私たちが教室に入った時に、ちょうど教室の前の扉から誰かが出ていくのが見えたの。誰かと思って、それですぐに廊下に出たんだけど廊下には誰もいなかったわ」

「あなたはその人物の顔とかは見てないの?」

「見てない、というか見えなかったの。そっちを見た時にちょうど夕日が目に入って、眩しさでその人は全身が影みたいに見えたから」

「じゃあ、それが男か女かも分からなかったのね?何故それが「見知らぬ女生徒」だと思ったの?」

「だって、廊下には誰もいなかったのよ?そんなの七不思議の「見知らぬ女生徒」しか考えられないじゃない」

「ほほお!」

 部長うるさい。


「それは一緒にいた美星さんも見たのね?」

「ええ、美星は見ていて可哀そうなくらい怖がっていて、結局忘れ物も取らずに帰ったの。今日休んでるのは昨日の事がかなりショックだったからだと思うわ」

「なんだ、美星は休みか。これじゃあ話が訊けないじゃないか」

「本当。貴重な情報源なのに、なんで休むのかしら」

 この人たちに誰か人を労わるという感情を教えて欲しい。


「あの、二人ともその人物の顔は見ていない。そして性別も分からないんですね?」

「……あなたも新聞部なの?」

「はい。一応」

「可哀そうに……何か弱みを握られているのね……。過去の恥ずかしい写真をネットで拡散するぞとか言われて……」

 もしそうだとしたら、僕は法廷で戦うことになる。


「桃鈴先輩は美星先輩のことがあるのに、どうしてこの話をみんなに言いふらすようなことを?美星先輩が来た時に話が広まっていたらショックを受けるかもしれないのに」

「私は言いふらしてなんかないわよ。私がこの話をしたのは部長にだけよ。そしたら私たちが「見知らぬ女生徒」を見たっていう話が広がっちゃって……」

「部長というのは美術部の渡会わたらい奏太かなたのことだな?あのロン毛の」

「ええ。涼と部長は付き合ってるから、一応伝えておこうかと思って…。まさか言いふらすとは思ってなくて……」

「え?!そうなの?!」

 友達の一人が高速で食いついてきた。

 それにしても、うちの先輩はどうしてクラスメイトでもない人のフルネームを覚えているんだろう。


「あ……」

 しまったという顔の桃鈴先輩。

 秘密だったんだな。


「ええー!私も知らなかった!」

 もう一人も驚いた様子。


「内緒よ!内緒!」

 それは無理な相談だと思う。

 僕たちが桃鈴先輩と話しているのを周りの人たちが最初から聞いているんだから。

 新聞部が何の用だって思って注目してたんだろうね。


「俺は他人の人恋沙汰に興味はない」

 でしょうね。

 むしろ刃傷沙汰とかの方が似合いますよ。


「まあ、これ以上は訊けることもなさそうだし、私は失礼するわ」

 そう言って出ていこうとしているマーブル先輩の耳は何故か真っ赤になっていた。

 そして何か考えるような仕草をしながらその後を追うように出ていくホームズ先輩。

 こらこら、人を上級生の教室に置いてけぼりにするんじゃない。


「あ、それと最後に一つ。先輩はその時、廊下で他の人に会いましたか?」

「いいえ?私と涼だけしかいなかったわよ」


 そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




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