「よう内山田!」
僕たちが西校舎一階にある3-Cの教室に着くと、ちょうど中に入ろうとしていた内山田先輩に出くわせた。
「げっ!新聞部!」
ホームズ先輩に声をかけられて露骨に嫌な顔をする。
「ちょっと話を聞かせてくれよ。なあに、時間は取らせない。大人しく話してくれれば、すぐに楽にしてやるから」
「お前は話を聞きに来たんだよな?!」
拷問でもする気かな?
「お前らが来たってことは、どうせ「見知らぬ女生徒」のことだろ?ホントに耳が早えなあ。昨日の今日だぞ?」
内山田先輩が見たというのは昨日の放課後の話。
そして噂が広まったのは今日の午前中。
そしてそして昼休みに僕たちはここにいる。
「ん?一年生か?まさか……お前も新聞部か?!」
「はい。一応」
「止めとけ!今すぐ辞めろ!こんな変人たちの傍にいたら、お前もおかしくなっちまうぞ!学園生活――いや、人生を棒に振ることになるぞ!」
内山田先輩はホームズ先輩とマーブル先輩を指さしながら僕に言ってくる。
ある程度は知っていたけど、ここまで酷い印象をもたれているとは思ってなかったな。
「内山田君。そんなに私たちのことを褒めてないで話を聞かせてほしいんだけど。もう昼休みも残り少ないし」
「全然褒めてねえよ……そういうとこが変人なんだぞ?」
世間から変人扱いされてこそ真の名探偵なのだというマーブル先輩。
ソースどこよ?
「……まあ、断って付きまとわれても嫌だしな。昨日の放課後、部活が終わってから一回教室に戻って来たんだよ」
「時間は何時だ?」
「テニス部の練習が終わったのが18時だったから、その20分くらい後だったな。それで机の中の忘れ物を取って、教室を出ようとした時に窓越しに廊下を誰かが歩いてるのが見えたんだ。全体が影になっていて顔とかは見えなかったけど、腰までの長い髪をしていたと思う。それでこんな時間に誰だろうと思ったんだけど、俺が教室を出た時にはどこにもその子はいなかったんだ。それで俺はあれが「見知らぬ女生徒」なんだって思った」
「あなたが教室を出たのは、その子を見てすぐなの?」
「ああ、本当にすぐだぞ。あんな瞬間的に姿を見失うなんて普通だとありえない」
「ほほお!」
その話を聞いて嬉しそうなホームズ先輩。ちょっと狂人ぽい顔で怖い。
「俺が見たのはそれだけだよ。もう良いか?」
「あ、最後に僕からも1つ良いですか?」
「お前……もう手遅れなのか……」
そんな哀しそうな目で見ないでほしい。
「内山田先輩は隣のクラスの桃鈴先輩をその時に見ましたか?」
「桃鈴?あの美術部のか?いや、見てないな。俺はその後すぐに帰ったから。もしかして俺が見たのが桃鈴だって考えてるのか?だったら全然違うぞ。俺が見たのは長い髪の女で、桃鈴はショートカットだ」
「そうなんですね。僕はまだ桃鈴先輩に会ったことがないので。ありがとうございました」
「よし!じゃあ次は桃鈴のところに行くぞ!」
ホームズ先輩がそう言った時、昼休みの残り時間はあと10分も残ってなかった。
僕はまだ昼ご飯を食べていないのに……。