ヤコブさんたちを見送ってから、四日が経とうとしていた。
大丈夫だろうか。
無事に戻ってきてくれるだろうか。
そんなことを考えていたら、眠りは浅くなり、食事ものどを通らなくなった。
ユキノさんには「そんなに心配してもゴリミヤは大丈夫ですって」と言われて呆れられる始末である。
それはわかっているのだが、なかなか割り切れない。
僕の依頼のせいで何かあったらと思うと。
いてもたってもいれられないというのが本当のところ。
心配してもAランク冒険者だ。
なんとかうまいことやるだろう。
それはわかっているのだが。
なかなか、そう割り切れないのが難しいところ。
「次のかたー」
患者さんが入ってきた。
そのお爺さんの患者さんは、腰が痛くて仕方ないというので、マッサージして血行をよくしてあげた。
そしたら、だいぶ良くなったみたい。
だけど、僕は上の空だったみたい。
「せんせいは、なにか心配事でもあんのか?」
「えっ? いやぁ、なんでもありませんよぉ。すみません。ご心配おかけして」
頭を下げて患者さんへと謝る。
それほどに気になってしまっている。
仕事が手に付かないとはこのことだろう。
「先生ぇー! ヤコブさん達が戻って来ましたぁ!」
今日の受付をしていたメルさんがそう伝えてくれた。
よかった。
なんとか戻ってきてくれたみたいだ。
少しほっとしながらもヤコブさんたちを迎え入れる。
「せんせー。とってきたぜぇ」
差し出された袋には、魔吸草がたんまり入っていた。
これなら薬の分は十分すぎるほど間に合うだろう。
それより……。
「ヤコブさん。顔色が悪いですよ? 何かしました? 無理してませんか?」
僕が問いかけると目が泳いだヤコブさん。
「いや──」
「──ヤブ! 流石! 大将は魔法で怪我したところを焼いて処置したんだ。そこがいたいらしくてね!」
「ミナ! 言うなって言っただろう!?」
なんでもっと早く言わないのかなぁ。
火傷にはアルエの葉を巻くのがいいかな。
「ヤコブさん。見せてください」
「いや、でも問題ねぇ」
「見せてください」
「だから」
「見せてください」
「はぁ。これだ」
革鎧の焼けた所をめくると痛々しいやけどの跡があった。
「ユキノさん、アルエの葉を」
「はいっ!」
ユキノさんは即座にアルエの葉を採ってきてくれた。
そして、それの皮を剥く。
この肉厚の葉は、皮のようなものを向くと傷口に当てるだけで治りを早くするんだ。
アルエの葉を当てて、その筋からとった包帯モドキで腹を巻いていき、固定する。
「痛みが引くまではこの状態を維持してください」
「面目ねぇ」
「血を止める為ですか?」
「そうだ。先生が教えてくれただろう?」
「はい。痛いでしょうが、賢明な判断でした。焼いてなければ、命を落としていたかもしれません」
顔を青くしながら頷くヤコブさん。
ちゃんとどうすれば生きながらえるか、それを教えていてよかった。
痛くて意識が飛びそうだろうけど。
「これで、魔封薬を作れるだろう?」
「はい。本当に感謝します。ありがとうございます。これが報酬です」
「たしかに」
四百万ゴールドを渡すと、ヤコブさんが頷いてみんなに分けている。
「皆さんは休んでください。ここからは僕たちの仕事です」
患者さんをさばくと、『今日は終わり』という知らせを下げて治癒院を閉める。
「メルさん、どうやって魔封薬を作るんですか?」
「はいぃ。鍋に魔草を入れますぅ。そしてぇ、魔吸草の花粉の部分を落としてぇ、少量の水で煮立たせますぅ。ただしぃ、魔力を込めながらですぅ」
「じゃあ、僕には無理だね。メルさん、お願いしてもいいかな?」
「こんな役立たずのウチが役に立つのならやりますよぉ」
魔石型コンロに火をつけて材料を入れた鍋を煮立たせる。
その鍋に手をかざして魔力を送っているメルさん。
なにやら仄かに緑色の何かが鍋へと降り注がれている。
これが魔力というものなんだろうか。
しばらくグツグツと鍋の中が音を鳴らしている。
これが、人を救うための音なのだ。
液体は紫色になっていき、体に悪そうな色だ。
魔力を注いでかき混ぜていると、徐々に赤へと色が変化していき、五分後くらいになると青くなっていた。
「はいぃ。これで完成ですぅ。青色になったら完成ですぅ」
「じゃあ、患者さんの所へ行って、石化を解く、そしたらその薬を飲ませるんだ」
「はいぃ。皆で行きますかぁ?」
「そうだね。不測の事態に備えて、皆で行こうか。どうせ、治癒院は閉めたし」
「わかりましたぁ」
メルさんは特に準備がないみたいで、もういつでも行けます状態だった。
ユキノさんは診察室を片づけたりしてパタパタと動いていた。
落ち着いたころにムーランとライトグレー家族を連れて、皆で治癒院を出た。
「魔封薬、無事に効くといいですね!」
「その前に、石化を解いたらなくなっている可能性だってあるからね」
「それは……ないと信じましょう」
僕はその可能性も考えて、心臓がバクバクしている。
もし、亡くしてしまっていたらどうしよう。
そんなことを考えながら、街へと足を踏み入れ、患者さんの下へと歩を進める。
ドアをノックする。
「はーい!」
「ヤブです! 薬ができました!」
ドアを開けた旦那さんは以前の姿とは違ってガリガリになっていた。
ちゃんと食べていないのかもしれない。
奥さんを早く助けてあげないと旦那さんも危ないね。
「あぁ。有難う御座います」
「さっそく、飲ませてみます」
家へと足を踏み入れ、ベッドの前へと膝をつく。
もしかしたら亡くなっているかもしれない。
その考えを隅に置きながらも、平然を装いライトグレー家族を解き放つ。
ここから、エターリプピアーの魔方陣を破壊する治療を始める。