「王様からの呼び出し?」
「そうですぅ。連れてくるように言われたので、ついてきてもらっていいですかぁ?」
なんで呼び出されるのか、僕には理解できなかった。でも、メルさんの様子を見るに特に悪いことではないのかなと思った。
ユキノさんが心配そうに見守る中、メルさんについて行き、王城へと向かう。
「僕何かしました?」
「したと言えばしたんですぅ。ただ、詳細は言わないように言われているんですぅ。すみませぇん」
あまりメルさんの口からは言えないようだ。
なんの呼び出しだろう。
なんか胃が痛くなってきたなぁ。
国王ということはこの国で一番偉い人だ。僕は、何か悪い事をしただろうか。治癒の仕方が悪いとか、そういった文句だろうか。
昔、僕が大学病院にいた時の医院長に呼び出しをくらった時の感じを思い出す。何の話かという内容は着くまで告げられず。
ただ、あの時は原因が分かっていたから胃が痛かったのを思い出す。あの子の命を失わせてしまって、すぐだったからクビの宣告だろうと思っていた。
実際には、どういう状況でどうして亡くなったのか、その詳細を聞きたかったんだそうだ。それを聞いて医院長は言った。
「それは、たしかに君の責任だろう。ただ、直接の原因ではない。辞めることもないと思うが、気持ちはどうだい?」
医院長はとても優しい人で、その言葉を聞いた時は迷ったものだ。だけど、僕は医院長室に来る前に決意していた。
辞表を差し出す。
「僕の周りには、もう味方はいません。潮時だと思います。あの子の両親には一生償っていこうと思います」
「ふむ。あまり一人で抱え込まない方が良いですよ。誰でもいいから相談してはどうですか?」
この時の僕には、悩みを話すような人は居なかった。ユキノさんのような人がいれば、対応は変わっていたかもしれない。
「……せー?」
「せんせー!」
ハッと前を向くともう王城の入口へと来ていた。メルさんが心配そうにいつもの少し垂れている目がさらに垂れている。
「大丈夫ですぅ?」
「はい。すみません。大丈夫です」
「行きますよぉ」
入口を通り、中へとはいると鎧や剣が並んでいて、天井には大きなシャンデリア。あかりの動力は魔道具によるものだと思われる。
謁見の間へ向かう道中には壁に何かわからない絵が飾られている。その中の一際目立つのは太陽の絵である。
街を照らす太陽。
それは、僕の目標を表しているような。
そんな絵だった。
謁見の間へ入ると王の前へと歩く。
昔見た漫画のように跪いて頭を垂れる。
「よく来てくれた。そちが、ヤブ治癒士か?」
「はい。私がヤブ治癒士でございます」
「ふむ。話は聞いている。石化の薬を作ったそうだな?」
「はい。確かに作りました」
「やはりか。巷では、治癒魔法が効かぬと騒いでおる。そちのような人材は貴重だ」
「勿体なきお言葉でございます」
さらに深々と頭を下げると。
「頭をあげよ。実はな、我の息の腕が石化しておったんだ。治療を諦めていたのだが、ヤブ治癒士の薬を塗ったらみるみる間に治ってな。感謝を伝えたかったのだ。ありがとう」
王様が頭を下げた為、周りの家臣はザワついた。ただ、王様が気にする様子はない。
「いえ。私はただ人を助けたい。その一心でやっていることでございます。お役に立てたのなら、治癒士冥利に尽きます」
そう口にして再び頭を垂れると突然笑いだした。
「ハッハッハッハッ! メルの言う通りだったな! たしかに、欲がない! 家臣共は何を要求するか分からないなどと抜かしておった。メルが言うように、人を思う心を持った者なんだろうな」
「私には、勿体なきお言葉でございます」
「いや、なかなか殊勝な者のようだ」
そう言うと少し顎に手を当てて考え始めた。一体何を考えているのだろうか。
「そうだ。そちに褒美を与えよう。豪華な治癒院でも立てるか?」
「いえ。治癒院は、今のところが気に入っております。できれば、お金が欲しいところです。薬の材料を買いたくてですね。あとは、国の人達以外にも薬を売って貰えませんか?」
「ほう。それはいいかもしれんな。少し上乗せしていいのだろう?」
「構いません。そうすれば、今の仕事のない治癒士達へ少しお金を回せるでしょう」
王様は目を見開いて固まり、大口を開けてまた笑いだした。
「ガッハッハッハッ! 我より、よっぽど王様のようだわい。自国のみならず、他国のことも考える。素晴らしい。そして、仕事がない治癒士への回す金を考える。政治のことまで頭が回るとはな」
「いえいえ。私なんて国王様の足元にも及びません」
「謙遜もし過ぎれば嫌味だぞ?」
「失礼致しました」
「いや、我もそこまで思い至らなんだ。その案を貰っても良いか?」
「はい。是非とも、お願い致します。薬は決まった量しか出せません。少しずつ行き渡らせて貰えますか?」
「あいわかった。あと、褒美を一千万ゴールド出す。それと、国外へ出す時は、薬の提示した金額分は払おう。あとは少し上乗せした分を我が国の資金へと回す。それでいいか?」
「問題ありません」
頭を下げて了承すると、満足そうに頷いて「もういいぞ」と退室を促された。謁見の間を出ると心臓が暴れているのが分かる。
王様に意見するなんて、下手したら処刑ものだったと思い、後悔の念となんて馬鹿なことを言ったのかという自分への怒りでいっぱいだ。
「流石はヤブせんせー。王様に気に入られたみたいねぇ」
メルさんが寄ってきて話しかけてくれた。それで少し落ち着く。
「そうですかね? それなら良かった……」
「イモン生活から脱出ですねぇ」
「そうだね。それは嬉しいかも」
すぐにお金を貰えたので治癒士ギルドのギルドカードで現金を預けた。ギルドカード作っておいてよかった。
支払いはギルドカードでできる。
ブラックカードを手に入れた気分になり、戻ってユキノさんへ自慢したのであった。
もちろん、いつも頑張ってくれているユキノさんへもお金を渡した。
飛んで喜んでいたユキノさんを眺めながら感謝するのであった。