「俺達はせんせーを囲むように守るから俺の背中についてきてくれ」
「わかりました。行きたい方向に指示すればいいですね?」
「そうだな」
ヤコブさんの後ろを歩きながら森の方へと歩を進めていく。
目の前には背丈ほどある葉が生い茂っている。
それをかき分けて入っていく。
「ここからは魔物が出る。気を付けてくれよ?」
「はい。僕も気を付けますけど、守ってくださいよ?」
「わぁってるって! まかせとけ!」
葉の茎とか使えるのかなぁ。
「ヤコブさんストップ! この葉の茎をとれますか?」
「おう! リスケ取ってやれ」
僕がお願いすると、前を警戒しながら横にいたリスケさんへと指示を出した。
「御意」
返事をしたリスケさんは短刀のようなものを振り、茎の部分だけを切り出してくれた。
茎の部分の断面を確認する。
以前いた世界の植物のように何本もの管で水を送っている植物のようだ。
「ごめんなさい。これはダメだ」
「せんせー。いちいち謝る必要ないぜ? 次に行こう。気になった物があったら声かけてくれ」
「すまないね。ありがとう」
歩き始めて段々遠くへと分け入っていく。
こんなに歩くのも久しぶりで頭からは汗が流れてくる。目に汗が入る。塩分のある水は目に沁みる。
「せんせー大丈夫か? もう一時間は歩いてる。一回休憩しよう」
「なんかすまないね。気を使ってもらって」
「いや、民間人を連れての護衛となれば、これは普通のことだ。気にすることないぜ?」
ヤコブはそう言って、石へと腰掛ける。
僕は地面へと尻を付き、足を伸ばした。
少し足を休ませないと歩くのもしんどい。
「ヤブはさぁ、もう少し運動した方がいいんじゃないかい?」
「それはそうだと思います。だけど、治癒院で動いているんですけどねぇ」
「建物の中だろう? それじゃあダメさ」
そう言われても仕方がないんだ。
自分にそう言い聞かせて流れてくる汗を拭く。
腹も出ているから服の胸の下のお腹が出ている部分に汗が集中する為、そこだけ湿っている。
「ミナ。そういってやるな。せんせーは頭を動かして働いているんだ。俺達とは次元がちげぇんだよ!」
「い、いやー。なんかそういう言い方されるとどうかなぁ?」
なんか頭を動かしているというより、自分的には体を動かしているんだけどね。うーん。
持ってきた水袋からちょっとずつ水を出して喉へと流し込んでいく。これを持っていることもあって重いのだ。うん。そういうことにしておこう。
「せんせー。あんまり飲みすぎると動きが鈍くなるぜ?」
「あっ。はい。終わりにします。ゲフッ」
おっさんってのは、ゲップを出してしまうものですからね。しかたないんですよ。自然と出てしまうんですよ? 生理現象なんだから仕方ないんですよ。
「よーし。そろそろいくか」
立ち上がると周りを見渡す。
「せんせー。どこに向かう?」
「えぇーっと、あっ──」
「──敵襲!」
指を指そうとした方向とは逆の方向から拳を振り上げた黒いゴリラのような生き物が空から舞い降りた。
即座に僕を守るように四方を固められる。
目に出たのはゴンダだ。
「負けないど!」
盾を構えて前へと躍り出て、振り下ろされた拳を盾で受ける。ズゥゥンと重い音が鳴り響き、衝撃波がこちらに押し寄せる。
こんな思い攻撃を受け止めるのか!?
すごい!
「よくやったゴンダ! オラァァ!」
肩にかけていた、大きな剣を鞘から抜き放ち、ブラッディゴリラに斬りつけた。
それを躱され、腕に一筋の傷が残る。
「ウッホォォォ!」
斬られたことで更にやる気をだしたのか、黒いオーラのようなものを体に纏わせてヤコブさんへと殴りかかる。
「受けるのは俺じゃねぇぜ?」
「アッシが受けるっすよぉ!」
前へと大きな体躯が飛び出して受け止める。
重低音が鳴り響き、衝撃波がはしる。
たえている地面も沈み、砂埃が舞い上がる。
「凄い衝撃……」
「せんせー。心配するこたぁねぇ。ゴンダは強い!」
視界が悪い中、目に入るのは屈強な背中。
筋肉隆々の背中が、ブラッディゴリラの攻撃を受け止め続けている。
振り下ろされる拳を盾で受け止め、受け流している。
「すごい……」
「ふっ。ゴンダはパワーだけじゃねぇのさ。頭も使える奴なんだ」
ブラッディゴリラがバランスを崩した。
「今っす! 大将!」
「おうよ! ヘルズスラッシュ!」
大上段へと構えた大剣が凄まじい速さで振り下ろされた。
その軌跡をたどるようにブラッディゴリラの体は左右に分かれた。
魔物があっけなく倒されたのだ。
僕にはまねできないような動き。
やっぱり、冒険者と言うのは凄い職業だ。
僕にはまねできない。
「あっ! ヤコブさん、あそこにある口を上けている植物の茎を見てもいいですか?」
「おう! 気を付けろ! あれは肉食だ。リスケ!」
「へい!」
忍者のリスケへと指示を出すと、即座に葉と根は分かれて茎のみになった。やっぱりこの忍者っぽい人すごいなぁと素直に思ったものだ。
断面を見る。少し太いが、肉食だったからだろう。一本の管でできている。何やら消化液のようなものが付いているが、それは洗い流せばいい。
「これは一応ほしいね」
「よしっ! こいつは狩るリストだ。いいな?」
「「「おう!」」」
チームの息があっているのは、ヤコブさんがうまくしきってきるからなのだろう。さすがの貫録である。Aランクともなればもっと危険な依頼もするだろうから、このくらいはたやすいのかもしれない。
なんとか一つ見つけた。
この冒険が無駄にならなかったと、ホッと胸をなでおろしたその時だった。
「んっ? 警戒! 誰か倒れているぞ! 鼻と口を塞げ!」
慌てて手で鼻と口を腕で覆う。
一体何があったのか。