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第17話 指名依頼

 その日も診療が終わって奥の住居スペースで休んでいた時だった。


 ──ガタンッ


 大きな音がして振り返ると、ユキノさんが棚に手をついて頭を抑えている。


「ユキノさん! 大丈夫ですか?」


「大丈夫です。ちょっとフラついてしまって……」


 よく考えたら初めてから三か月程経つが、一日も休んでいない。ブラック企業も驚くブラックさだろう。


 ずっと働き通しはよくない。明日一日は休むことにしようかな。


「ユキノさん、申し訳なかった。僕が全然考えていなかったばっかりに……」


 頭を下げて誠心誠意謝る。

 僕は、自分のワガママにユキノさんを付きあわせてしまっている。それに気が付くのが遅かった。


 もともと個人病院をしていた時は休みがあってないようなものだったから、この程度であれば大丈夫だと勝手に思ってしまっていた。


 自分の落ち度だ。


「そんな。先生のせいじゃありませんよ。私もやりたくてやっていたんですから」


「でも、一日ゆっくり休もう。その方がいい。僕は明日一日ここを空けるから好きに過ごすと良いよ」


「どこに行くんですか?」


「ちょっと冒険に行こうかな」


「冒険?」


◇◆◇


 次の日、「おやすみ」と書いた看板を治癒院へ下げて外出する。

 向かった先は、街の中だ。


 メインの通りを歩いていくと奥の方へと行きながら看板を確認する。

 たしか、剣と盾のエンブレムだったと思うんだけど。


「あった……」


 しばらく探していたらなんとか見つけることができた。

 扉を開けると中へと入る。

 入って右側には飲食スペースが併設されている。


 正面には受付の窓口が。

 左には大小さまざまな紙がピンで留められている。


「おぉー! せんせー! こっちだ!」


 左の方の窓口にいたのはヤコブさんだ。

 周りにもう三人いる。

 みんな初めましてだ。


「ヤコブさんのパーティの方ですね。ヤブ治癒士してます。名前が似ていてややこしですが、よろしくお願いします。ちなみに、戦闘能力はゼロ。そして、魔法も使えません」


 頭を下げると、周りの三人はニコッと笑みを浮かべた。


「話は聞いてるっす! あっしは、みんなの盾、ゴンダっす! あんた、最先端の治癒士らしいっすね! よろしくっす!」


 ヤコブさんより大きな体躯に鎧を着こんでいる、スキンヘッドの青年。


「アタイは、魔法士のミナだよ! あんたがヤブかい。本当にただのおっさんだね」


 赤い髪を結んでいて、キリリとして目つきのローブの女性。


「自分。軽業師。遊撃が基本。よろしく」


 黒装束の忍者の様な恰好をした男性? 声の感じは男性だと思うけど。不明だ。


「で? せんせーの依頼ってのは?」


「今日一日、医療道具になりそうなものを探したいんです」


「何が欲しい?」


「できれば、管が欲しいんです」


「クダ?」


「細長く、柔らかくて中が空洞になっている物です。太いものからなるべく細いものまで欲しいです」


 それは採血や注射、点滴に使える。あればいいが、なければ仕方がない。植物ならあるのではないかと考えているのだけど。単なる勘だからたしかではない。


「なるほどなぁ。俺達は護衛だけでいいのか?」


「はい。自分で使えそうなものは見つけます」


「わかった! さっそく護衛依頼を出してくれ! 行く先は魔の森、中層くらいまでだな」


 受付の女性へと声をかける。


「護衛依頼をお願いします」


「かしこまりました。お話は聞いていました。魔の森中層への護衛。一日でよろしいですか?」


「はい。その通りで間違いありません」


「報酬は?」


「千ゴールドで」


 僕は事前の打ち合わせしていた金額を話した。

 だって、ヤコブさんが受け取らないというんだもの。

 それはダメだと説得して医療費と同じ金額になった。


「そっ! そんなの──」


「──問題ねぇ」


 受付嬢が焦って声を上げようとしたけど、それをヤコブさんが制する。


「しかし! チーム ゴリミヤはAランクですよ!? 千ゴールドなんて──」


「──問題ねぇっていってんだろう? せんせーは俺の命の恩人だ。報酬は命、それ以上の報酬があるのか? 前もってもらってんだよ。何にもかけがえのない報酬をな。ただ、何もないのはギルドの契約上、問題だろうから形上の報酬だ」


 腕を組んで凄むヤコブさんに受付嬢は口をつぐんだ。Aランクというのはランクが高いから報酬が釣り合わないという意味かな? 本当に凄い人たちだったんだね。知らなかったよ。


「わかりました」


 拗ねたようにそう言い放ち、処理を進めてくれた受付嬢。

 その人にペコリと頭を下げて軽く謝罪をする。

 目を見開いてため息をついた。


「処理はしておきました。チーム ゴリミヤの護衛依頼を開始しておきます。あと、今度またそんな依頼を出すときは、チームの人達と一緒に来ていただきたい。指名依頼ということになりますし、本人達が納得しているのか確認する必要があります」


 受付嬢の人もそれが精一杯の譲歩なのだろう。

 ニコッと笑みを浮かべて頷いた。


「有難う御座います。そうします」


 また頭を下げると外へと向かってゴリミヤのみんなと歩き出した。なんだか、注目を浴びている気がする。一体なんでこんなに見られているのだろう?


 そわそわしてしまう。


「せんせー。無闇に頭をさげるもんじゃねぇって。男だろうが」


「はははっ。こういう性分なんですよ。ご忠告有難う御座います」


「また頭を下げる!」


 これはもうどうしようもない癖のようなもの。


 果たして、医療道具の代わりとなるものは見つかるのか。

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