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第10話 風邪薬になるもの?

 パン屋のマリさんを送った後に、風邪薬があればいいんだろうなぁと漠然と考えていた。


 風邪というのは体力が落ちることにより、ウイルスに侵されてしまうもの。基本は体力を回復させれば治っていくのだが。


「ユキノさん、この辺で体力が付くとされている食べ物、飲み物はありませんか?」


「えぇ? 体力かぁ。そうですねぇ……」


 腕を組んで少し考え出したユキノさん。

 しばらく考えると目を開いた。


「あぁ! あの、力根っていわれている植物があります! あとは、肉だとパワーピッグという動物の肉を食べると力が付くって言われています」


「なるほどぉ。ふむふむ。それは取り入れられそうですねぇ」


「飲み物だと、薬汁ですね。あれ、苦くて誰も飲まないんですけど。薬草を沸騰させて煮立たせたものなんです。一部地域で体調を悪くすると無理やり飲ませると聞きますよ?」


「それだけ情報があればいけるかも」


 その植物と肉、それに薬草を手に入れたいなぁ。


「それって、手に入りますか?」


「市場に行けばあると思いますよ?」


「じゃあ、行ってきましょうか。今は暇ですし」


「マリさん、大丈夫でしょうか?」


「もしかしたら、ちょっと長引くかもなので薬ができればいいなぁと」


 その言葉にユキノさんは目を輝かせた。


「薬、作れるんですか?」


「いやー。やってみないとわからないですけどね。薬師ではないので」


「でも凄いです! さっそく市場に行きましょう!」


 せっかくの千ゴールドだ。有効活用しよう。患者さんから頂いたお金だ。患者さんのために使わなければ。


 治癒院を後にすると門を通る。


「おっ! あんた、治癒院開いたんだって?」


「えぇ。魔法は使えませんけどね。別の方法で治療しますよ。もし体調が悪くなったり怪我をしたら行って頂ければ、駆けつけますよ?」


「高いんだろう?」


「魔法を使うわけではないですからね。従来の治療が一万ゴールドだとしたら、二千ゴールド程しかとりませんよ。今のところは」


「そうなのか!? わかった。仲間にも言っておくよ」


「是非、お願いします」


 頭を下げると街の中へと入っていった。

 門番に治癒院のことが知られているということは、徐々に僕の治癒院の話が広まっているのだろう。

 今、門番の人には金額を伝えた。良いと思ったら、瞬く間に広がることだろう。


 魔法を使う治癒士には悪いが、治療法がない今、僕はかなり貴重な存在だろう。それを自覚しつつ安くすることで貧困層も治療できるはずだ。


 それが、前の世界でも僕が目指していた医療そのもの。誰でも治療を受けることができる世界。理想は高く。こちらに来る前は達成できなかった目標を、ここで達成したい。


 市場と言うのは街の端の方で行われているらしく、決まった領域に所狭しと出店を出している。


 一人一人が布の上に野菜や果物、肉や動物丸ごとを出して売っている。値段は乱雑に箱に紙を挟めて書かれている。


 たしかに、他の店より安いかも。なんでだろうと一瞬考えたが、売っている人達を見て納得した。この市場は貧困層が売り手になれる場所だったようだ。


 この街を統治している領主は優秀なのだろう。こういう空間を作ることでスラムができないようにしている。街には小屋の様な簡易的な住居はあるが、路上で生活している人はいない。


 それぞれが畑の様なものを所有できているということだろう。良い政治をしている。それを肌で感じた。それに加えて医療も進歩すれば、この街はさらに進化するよ。


「あっ! あれが力根ですよ!」


 黄色い皮の付いた力コブを作っている手の様な形をしている根っこが売っていた。生姜の形が変わった物のような感じみたいだ。


「いくらかな?」


 値段を見ると一個百ゴールド。


「これ、一つ頂けますか?」


「はいっ! 有難う御座います! これは、食べるととても元気になりますよ!」


 売り子の男性は着ている物はボロボロだが、肌は綺麗で体力もありそうだ。元気な証だろう。


「あなたも食べているのですか?」


「はいっ! 心配しないでください! オラが食べても問題なかったです! 気になりますか?」


「いやいや、すみません。ただ、元気いっぱいなので、食べているからなのかな? と思っただけなんです」


「あぁっ! 食べているからかもしれないです! ここ数年、体調を崩したことはないですよ!」


 それはいいことを聞いた。

 やはり、体力に効果があるのだろう。

 こういう実際に食べている人をみると信ぴょう性がましていいね。


「はははっ。有難う御座います。食べてみます。ここにはいつもいるんですか?」


「はいっ! 力根が収穫できる限り、います!」


「わかりました。では、また来るかもしれません」


「是非! お願いします!」


 健康的な男性はニコやかに僕を見送ってくれた。

 これは効果が期待できるな。


「あと、肉もあります?」


「肉類はあっちですよ!」


 ユキノさんに案内されるがままに市場を歩いていく。

 こういうところぐらいは自分で来れる様になりたいな。

 買い出ししなきゃいけない時もあるだろうし。


 香ばしい匂いがしてきた。

 肉を焼いて売っているところもあるみたい。


「あっ! あそこにパワーピッ──」


「──キャァァァ! だれか! 旦那を助けてぇぇ!」


 急な悲鳴が、市場に響き渡った。

 声のする方へと駆ける。

 一体何が起きているのだろうか。

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