まるで洗練されたラグジュアリーホテルのような、シックで高級感溢れる佇まい。
探索者向けの店といえば、当然ながら武器防具が並んでいることがほとんどである。事実、ここ『
「ここがお嬢様の店ですか……」
「ええ」
「なんだか偉そうな店ですね。あ、勿論良い意味ですよ?」
「貴女ね……まぁいいわ。さっさと行くわよ」
何がどう良い意味なのやら。
例のごとく失礼な一言を添えた
「お待ちしておりました、社長」
「ええ。忙しいでしょうに、わざわざ出迎えてくれなくても構わないわよ」
「とんでもございません」
仮にも年上相手だというのに、凪はなんとも堂々とした態度であった。後ろで眺めていた
そんな
「ところでそちらの方は……初めて見る方のように思いますが」
「うちの新人メイドよ。今日はいつもの
凪による酷く雑な紹介を受け、
「メイドの
「左様でしたか。当店の責任者を任せて頂いております、黒沼と申します。今後とも宜しくお願いします」
そもそも今の
店内には何人かの客もおり、誰もが目を輝かせながら商品を眺めていた。一般的な店と違うところといえば、客のひとりひとりにスタッフが付いていることだろうか。刃物を取り扱っているからか、それとも単純に商品の値段が高いからなのか。
その後、凪と黒沼は様々な会話をしながら店内を回ってゆく。やれ『売れ行きはどう』だの、『流行りの傾向はどう』だのと。そんな二人の後ろを、口を挟むでもなく、きょろきょろと周囲を見渡したりすることもなく、ただ黙って付いて歩く
初めて訪れた探索者用品店だ。本音を言えば、商品をいろいろと物色したい気持ちもあった。
とはいえ、それも所詮は暇つぶし。どうしても知りたいという程ではない。蜘蛛型魔物の糸から作られたという万能ロープは、少しだけ欲しかったりもしたが。
その間も、凪と黒沼の相談は続いていた。店内を見回った後は、店内奥のスペースへと移動。恐らく普段は売買契約の席として使われているのであろうソファへと腰掛け、再び打ち合わせへと没頭してゆく。結局この日の視察が終わる頃には、たっぷり2時間半が経過していた。
「ふぅ……こんなところかしら?」
「そうですね。当面の方針はこれで問題ないかと」
漸く終わった打ち合わせ。
顔には微塵も出さないが、流石の
「本日はご足労頂きありがとうございました。それでは、正面に車を回させますので」
「そう。じゃあ……待たせたわね
凪が立ち上がり、黒沼は執事風の制服を着たスタッフへと声をかける。
そうして特に会話をすることもなく、店内で待つことほんの数分。店の目の前には、偉そうな車が停められていた。車を回してくれたスタッフが、ゆっくりと車を降りる。手間を省くためだろうか、車のエンジンはかかったままである。
――違和感。
刹那、通りの向こう側――丁度
「……またなの?」
「まぁ、立地的にダンジョンのすぐ近くですから、こういった騒ぎはたまに起きますけど……最近は特に多いですね」
凪はともかくとして、やはり探索者関係の仕事をしているからだろうか。黒沼もまた、すっかり慣れた様子であった。彼女は小さくため息を吐き出し、やれやれといった様子で肩を竦めている。
「社長が帰られる方角ですね……様子を見て来ましょうか?」
「別に必要ないわよ。いいから仕事に戻りなさい」
「ですが……やはり心配です。社長の身に何かあってからでは――」
「はぁ……分かったわよ。うちのメイドに行かせるわ。それでいいでしょう?」
そう言うと、凪が
黒沼が眉尻を下げながら、渋々といった様子で引き下がる。
「……それならば、はい」
「そういうわけよ。
――違和感。
そう、これは違和感だ。
「……承知しました。ですがお嬢様、絶対にそこから動かないでください」
「……? 別に置いて帰ったりしないわよ。貴女がいないと誰が車を運転するのかしら?」
「……すぐに戻ります」
そう言うや否や、
騒ぎの所為か、周囲からは
* * *
結論から言えば、騒ぎの原因はやはり探索者同士のいざこざであった。つまりは下らない喧嘩である。犯人たちはすぐさま
しかし
停まっていたはずの車も、執事風の制服を着たスタッフも、見送りに出ていたはずの黒沼も。
その時ふと、
それは
『あ、もしもーし! オリ聞こえてるー?』
「聞こえてるよ」
『いやー! オリが仕掛けた盗聴機越しに、現場のモニタリングしてたんだけどさぁー! なんか、お姫様連れて行かれちゃったんだけど!? あはははは! ヤバくね? マジでウケんだけど! よっしゃぁー! 仕事だ仕事だー! 行くぞオリ! さっさとイヤホン装備しなー?』
凡そ今の状況には相応しくないような、間の抜けた明るい
「はぁ……くそっ、醜態だ」