白い砂。穏やかなさざ波の音。
頬に当たる砂の感触は、何度も何度も味わったもの。
「……え?」
わたしはゆっくりと立ち上がった。
いつもの浜辺だった。
「目が覚めたみたいだね、ベラ」
横に居たのは、トトだった。
「あなたは……どの、トトなの?」
「ジョエルだよ。僕はジョエルだ」
「……ジョエル? どうして」
「おーいベラ!」
聞き覚えのある声が後ろからして、わたしは振り返った。
駆け寄ってきたのはタツヨシだった。背中に乗ってしがみついているアンナもいる。
「戻ってこれたんだね! すごく嬉しいよ!」
「おかえりなさい、ベラ。きっと戻ってくると思っていたわ」
「タツヨシ、アンナ……? どういうことなの? わたしは、過去を変えて……二人が生まれる未来も、変わってしまったと」
「僕たちもそう思っていたよ。でもね、過去を変えると未来が変わるというのは本当は少し違うみたいなんだ。実際僕たちは消えていないからね。多分なんだけど、世界が分かれたんだと思う」
世界が、分かれた。
そうか。
あらゆる可能性の分岐の先、未来は……すべて存在するということ。
「そっか。そうなんだ。……よかった。本当に」
二人の顔を見て、ジョエルの顔を見て、なんだかわたしは泣きそうになった。
「ああ、わたし、わたしは……これからどうしたらいいの?」
「ベラ。まずはジョエルに事情を説明してあげたらどう?」
「そう。そうね」
アンナに促され、わたしはジョエルに長い長いわたしの飛行の話をした。
ジョエルは黙って聞いてくれた。
「——ごめんなさい、ジョエル。わたし」
気がつけば、わたしはジョエルに謝っていた。
世界が分かれた今、消えずに済んだ今、やりたいことがわかってしまったから。
「いいよ。いいんだベラ。もうわかっただろう? これからやりたいこと」
「うん。わたし、最初のトトのところに行く」
ジョエルはほんの少し沈黙して、微笑んだ。
「それでいい。僕が君を好きな想いは、オリジナルのトトから引き継いでいるのかもしれないけど……僕自身のものだと思ってる。だからこれは、ジョエルが、ベラに、振られたって話さ」
「……そうね。ごめんなさい。わたし、他に好きな人がいるの」
「はは、いいさ。冷凍睡眠から目覚めて、この島でなんとなく生きてたけど……君と出会えて、生きているって感じがすごくしたんだ。それは幸せなことだったよ。何より、僕にとっては君が幸せなのが一番だ」
ジョエルとの話が終わると、タツヨシが言った。
「ベラ。君の翼は過去と未来だけじゃなく、別の世界線にも飛べるってことがもうわかってる。ここに来れたってことはね」
アンナがタツヨシの背からひょこっと顔を出すと、微笑んで言った。
「そうよ。いつでも遊びに来て。わたしたち待ってるから」
「ありがとう。絶対来る」
「ええ。またね、ベラ」
「元気でね。また会おうよ」
「うん。また」
ずっといろんな場所を、いろんな時代を、いろんな世界を旅してきた。
やっと本当に行きたいところが決まったのだ。
「じゃあね、三人とも」
わたしは大きく羽ばたくと、飛んだ。
最初のトトが、今度は寿命で死ぬまで一緒に居るために。
最後にトトを迎えに行く天使の役は、わたしがやりたいから。
終