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We are BLACK!!!
猫侍
現実世界スポーツ
2024年11月27日
公開日
32,070文字
連載中
 ──そこには、黒色の『自由』があった。

 私立中学の受験に失敗した真衣(まい)は、母親から厳しい仕打ちを受けていた。
 そんな中、彼女は進学した公立の中学校で放課後に校舎裏でダンスをする少女と出会う。

「ウチはソフィア。大阪生まれ大阪育ちのブラジル人や」

 黒人の、少女。

「ダンスは表現や。そこに上手いも下手もない。気持ちをぶちまけたらええんや」

 ソフィアとの出会いが、真衣にダンスを伝えた。
 初めて触れるダンスという黒人文化が、勉強と母親のしがらみに燻ぶっていた真衣の『情熱』を爆発させる。

 We are BLACK。
 人は誰しも、魂を表現する場所を求めている。
 黒人文化を背景に、ダンスを通して女子中学生たちの成長を描く。

 集英社みらい文庫大賞、最終選考作品。

第1話:We are

──緊張する。全身が心臓になったみたいだ。頭のてっぺんからつま先まで、太鼓のような音が何度もこだまする。


まだステージに立ってないのに、汗をかき始めた。指先が震える。呼吸も、早くなってきた。


「大丈夫やで、真衣まいやん」


そんな私に気づいて、ソフィアちゃんが手を握ってくれる。


「ダンスに失敗なんかあらへん。全部、楽しんだらええねん」


そうやって、白い歯を見せながら笑うソフィアちゃん。

この子の笑顔はいつも私を安心させてくれる。


どんな時でもそうだった。

ブラジルからやってきた黒人の女の子。

それでいて関西弁で話す変わった子。


目立ってしょうがないのに、この子はいつも堂々としてる。


「ありがとう」


 ソフィアちゃん、私、あなたみたいになりたくて。


「真衣、メガネ。外さないと踊れないでしょ」

「あ、ごめん。教えてくれてありがとう、理恵りえちゃん」

「フン、しっかりしなさいよね」


先頭に立って、目をつり上げながら腕を組むのは幼馴染の理恵ちゃん。

背が高くて、スタイルがいい。おでことポニーテールがチャームポイントだ。


「このステージは、この時間は、アタシたちが主人公なんだから」


主人公──。

いつも猫背で、隅の方で小さくなりながら本を読むことしかしてこなかった私が、主人公。

そう思うと、ぞくぞく、って背すじがくすぐったくなった。


「いくで、理恵、真衣やん!」


ソフィアちゃんが私の前に立って、笑顔でみちびいてくれる。

その背中を見てたら、ふしぎと、緊張はどこかへ飛んでいった。


「うん!」


ありがとう、ソフィアちゃん。あなたと会って、私はダンスの楽しさを知れた。


一歩、舞台袖からステージへ飛び出す。光が強い。客席が見えない。まるで太陽が照らしているようだった。


ああ、そうかと歓声を聞きながらふと理解した。

ここは鳥かごの外。自由の証、大空なんだ。


だから、思い切り飛び立てばいい。縛るものは何もない。

私は、自由だ──。



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