──緊張する。全身が心臓になったみたいだ。頭のてっぺんからつま先まで、太鼓のような音が何度もこだまする。
まだステージに立ってないのに、汗をかき始めた。指先が震える。呼吸も、早くなってきた。
「大丈夫やで、
そんな私に気づいて、ソフィアちゃんが手を握ってくれる。
「ダンスに失敗なんかあらへん。全部、楽しんだらええねん」
そうやって、白い歯を見せながら笑うソフィアちゃん。
この子の笑顔はいつも私を安心させてくれる。
どんな時でもそうだった。
ブラジルからやってきた黒人の女の子。
それでいて関西弁で話す変わった子。
目立ってしょうがないのに、この子はいつも堂々としてる。
「ありがとう」
ソフィアちゃん、私、あなたみたいになりたくて。
「真衣、メガネ。外さないと踊れないでしょ」
「あ、ごめん。教えてくれてありがとう、
「フン、しっかりしなさいよね」
先頭に立って、目をつり上げながら腕を組むのは幼馴染の理恵ちゃん。
背が高くて、スタイルがいい。おでことポニーテールがチャームポイントだ。
「このステージは、この時間は、アタシたちが主人公なんだから」
主人公──。
いつも猫背で、隅の方で小さくなりながら本を読むことしかしてこなかった私が、主人公。
そう思うと、ぞくぞく、って背すじがくすぐったくなった。
「いくで、理恵、真衣やん!」
ソフィアちゃんが私の前に立って、笑顔でみちびいてくれる。
その背中を見てたら、ふしぎと、緊張はどこかへ飛んでいった。
「うん!」
ありがとう、ソフィアちゃん。あなたと会って、私はダンスの楽しさを知れた。
一歩、舞台袖からステージへ飛び出す。光が強い。客席が見えない。まるで太陽が照らしているようだった。
ああ、そうかと歓声を聞きながらふと理解した。
ここは鳥かごの外。自由の証、大空なんだ。
だから、思い切り飛び立てばいい。縛るものは何もない。
私は、自由だ──。