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第20話 振替休日 ①

 下山してすぐに病院を受診したオレは、頭に異常がないかCTを撮り、足首のレントゲンを撮った。結果、脳に異常はなくて、足首も捻挫していただけだった。オレは、打撲や擦り傷、切り傷の消毒を受けて、副担任の先生の車で家まで送ってもらった。


 今回の事故は偶然に起こったことで、オレに罪はない、むしろ軽症だったのが奇跡だと言われた。――ようするに、お咎めなしということだった。


 オレが病院で診察を受けている間に、副担任がかーちゃんに連絡をしていたらしい。家に帰ると、目に涙を溜めたかーちゃんが居て、無事でよかったと抱きしめられた。オレは無事に家に帰ってこれて安心したのと、かーちゃんの涙につられて、わんわんと声を上げて泣いたのだった。――やべぇ。黒歴史だ。


 そして次の日の朝、王路から『おはよう』とSNSが届いていた。オレも目が覚めたばっかだったので、『はよッス』と送り返す。すると王路は、『明日の振替休日に見舞いに行く』と送ってきやがった! オレは、すぐに返信することができなかった。――オレは最近、変なんだ。


 王路に会うと胸のあたりがざわざわするし、ちょっとした触れ合いでドキドキしてしまう。それに、王路を取り囲む女子達に嫉妬した理由も分かってねえ! なにより、王路が助けに来てくれた時の、嬉しくて安心した気持ちの名前さえ分かってねえのに。


 オレはちょっぱやで、『来なくていい! 明後日に会おう!』と送り返して、スマホの電源を落とした。


 普段から健康優良児のオレは、薬を飲み慣れていない。それもあって、薬の効能が効きすぎてしまうのだ。オレはベッドの上で目を閉じる。それから数分もしないうちに、深い眠りについたのだった。






 ――翌日。振替休日の朝。


 王路は宣言通りに、オレんへやってきた。それも、早朝の6時に!


 オレはTシャツにスウェットをはいた寝間着コーデで、髪もボッサボサのまま玄関扉を開けた。――よだれのあともついてたかもしれん。


「はよッス」


 そう言って、右手を上げた王路の背後で、朝日が上り始めている。オレは目をショボショボさせながら、取り敢えず、王路を家の中に招き入れた。そしてオレが玄関に鍵をかけている間に、王路はさっさと靴を脱いで、来客用のスリッパを履いていた。――おい、お前。図々しいぞ!


 なんて叫ぶ気力もなく、まだ眠気が取れていなかったオレは、のっそのっそと2階へ続く階段を上っていく。――王路が非常識だろうが、図々しかろうがどうでもいい。オレは一刻も早く布団の中に戻りたいんだ!


「なあ。姫川」


「……んだよ?」


「お前のかーちゃんは?」


「夜勤つってたから、早くて8時半には帰ってくるんじゃね? まあ、朝は忙しいらしいから、定時で上がれることなんて、めったにねーけどな」


 「ふ、ふーん」と言った王路を階段の下に放置して、オレはあくびをしながらベッドの上にボスンと座った。それから、糸が切れた人形みたいに、バタッと横に倒れる。するとすぐに眠気がやってきて、オレは王路の姿を確認しないまま、眠りについたのだった。






 ――姫川家、一階。階段下。


「……そっか。姫川のかーちゃん、まだ帰ってこねーのか」


 俺は急にドキドキしてきた心臓を、右手の拳でトントンと叩いた。――まあ、こんなことをしても、意味はないんだけどな。


「姫川と俺の二人きり」


 言葉にすると、とてつもない破壊力に、俺は両手で顔を覆ってもだもだした。そして、ハッとする。――今の姿、姫川に見られたんじゃ……!?


 俺は焦って2階に続く階段を見上げた。するとそこに姫川の姿はなく、俺はホッと安心する。――姫川の前では、クールでかっこいい彼氏でいたいからな!


 姫川に放置されてしまったことなど、俺にとっては痛くも痒くもない。――それよりも、寝起きの姫川……可愛かったなぁ……。あの涎のあとを、舐め取って綺麗にしてやりてぇ。


 煩悩にまみれた脳内で、姫川と二人でしてみたいことを妄想しながら階段を上がっていく。そして階段をのぼりきってすぐの部屋――姫川の部屋の扉が中途半端に開いていた。


 ――俺の為に開けておいてくれたのか?


 一瞬、自分に都合のいい考えが頭をよぎったが、姫川にそんな気遣いができるはずがないと思い直した。


 とりあえず、部屋に入ろうとした時、スースーと姫川の寝息が聞こえてきた。俺は、ドキドキしながら、そーっと部屋に入った。


 姫川を起こしてしまわないように、出来るだけ気配を消して、ベッドの前まで歩いていく。そして、姫川を起こすことなくベッドまでたどり着いた俺は、その場にあぐらをかいて座った。


「気持ちよさそうに寝てる……かわいい……」


 俺は、姫川の顔に触れたいのを我慢して、気持ちよさそうにスピスピと眠る姫川を観察する。


 長いまつ毛に、ふっくらとした頬、ツンと尖った小さな顎。唇は少しだけ厚くて、触れるだけのキスでも気持ちがよかった。最近はリップクリームを塗っているらしく、仲直りのキスをした時よりも、ぷるんとしたハリのある唇になっていた。


「……キスしてぇ」


 まだ触れるだけのキスしかしていないが、この小さな口の中に舌を入れたら、どうなってしまうのだろう? きっと、すぐに口の中がつばでいっぱいになって、唇の端から溢れてしまう。それを舐め取って、もっと激しく舌を動かして――


 妄想を膨らませていると、大事な部分まで膨らんでしまった。


「姫川。ほんっとーにごめん」


 俺は眠っている姫川に小声で謝って、トイレに直行したのだった。

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