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第15話 校外学習 ②

 テントスペースまでの坂道を登り始めて、およそ10分が経過した。


「……おい。まだ着かねーの?」


「これって登山じゃないよな?」


 などという声が、そこかしこで上がり始めていた。――それもそのはず。


 『坂道』と言うには傾斜のきつい舗装されてない道を、自分たちの荷物に加えて、キャンプ用品を抱えて登っているのだ。


「……こういうのって、普通、現地に用意してあるもんじゃね?」


「ていうか。去年の2年生もこんな感じだったわけ〜〜?」


「それが、さっき引率の鮴岳ごりおかに聞いたら、今年から変わったって言ってたぜ」


「マジ〜〜!? なんでなん!? うちら、ツイてなさすぎっしょ!」


「あ。それ、誰か話してんの聞いたわ。『自主性を育てる』とかなんとか言ってたらしいよ」


「はぁ〜〜? マジないわ〜〜」


 オレと王路は、前を歩く男女四人組の会話を聞きながら、おもいっきり萎えていた。


「なぁ、王路」


「……なんだよ」


「オレ達って、かなり体力あるよな?」


「まぁな」


「……じゃあ、なんでこんなにしんどいんだよ?」


「空気が薄いからじゃね?」


「登山じゃねーかっ!!」


 オレは足元に転がる石を、怒りの感情のままに蹴った。――くそっ! リュックが重いぜ! お菓子にトランプ、将棋に麻雀……遊び道具を持ってきすぎたっ!


「くっ! こーなると分かってたら、遊び道具を減らして来たのに……っ」


「……いや。持ってくるなよ」


 王路のツッコミは聞かなかったことにして、オレはよいしょとリュックを背負い直して、両手に持っているブリキ製のバケツを見下ろした。中身はバケツ山盛りのジャガイモだ。――こんなにジャガイモばっかいらなくね!? オレの他にもジャガイモ持ってるヤツいるんだぜ!? ジャガイモカレー作らせる気か!?


「はぁ……どうせ重いもん持つなら、肉を持ちたかった……」


「……何言ってんの? お前」


 バケツ山盛りのジャガイモを落とさないように歩かなきゃいけなくて、かなり体力を消耗する。オレは顔の汗も拭えなくてイライラしていた。すると、ハァとため息を吐いた王路が歩くのをやめた。バディのオレも一緒に足を止める。


「どうしたんだ王路?」


「ほら、俺の荷物と交換してやるよ」


「! マジで!?」


「おう」


 王路の荷物はテント用品だった。オレは遠慮なく、二人分の寝袋シュラフとバケツ2個(山盛りのジャガイモ)を交換する。少し持ち歩きにくいけど、めちゃくちゃ楽になった。


「おお〜〜、めっちゃ楽! ありがとな、王路!」


 オレは感謝の気持を込めて、今年一番(多分)の笑顔を向けた。


 王路は足を止めて、ぼうっとオレを見つめたあと、ほんの少し赤くなった頬を隠すように顔をそらした。――王路のヤツ、もしかして、今更疲れが出てきたってーのか? シュラフだって十分重いのに! ……コイツさては、かなり鍛えてんな!?


 オレも負けないように、筋トレ頑張んなきゃな!


 「よっしゃ!」と、気合を入れたオレの耳元に、背中を丸めた王路が耳打ちしてくる。


「困ってる『姫』を助けたんだ。もちろん、……くれるんだろうな?」


 オレはサッと王路から距離を取った。


「みっ、耳元で喋るのやめろって言っただろ!」


 オレは耳が弱いわけじゃないと思うんだけど、何故か王路にコソコソ話をされると、耳がくすぐったくて仕方がなくなる。


 一度、変な声が出そうになるからやめてくれって言ったら、王路がヤケにテンション高くして、「変な声、出していいぞ」と言ってきたので、オレはドン引きした。――だってさぁ。ただの変態のセリフじゃね?


 でも確かに、ジャガイモ山盛りのバケツを持ってくれたのは嬉しい。


「おい、あいつら見ろよ。『姫プ』じゃね?」


「何? バカにしてんの? うちらの推しひめに生意気な態度取ってんじゃねーよ。ブサ男が」


 ……という声が聞こえても、全然腹が立たないくらいに、オレは機嫌が良かった。


「わーったよ。『ごほうび』だろ? 後でちゃんとやるから待ってろ」


「……お前、『ご褒美』の意味、分かってるよな?」


「はあ? 分かってるっつーの。……夜になるまで待ってられるよな?」


「! あ、ああ。もちろん、待てる」


 オレから『ごほうび』を貰えることがそんなに嬉しいのか、王路の歩くスピードが上がった。オレはシュラフを両脇に抱えて、王路の速度になんとか付いて行ったのだった。


 ――結局30分かけてテントスペースに到着した俺達2−9のメンバーは、地面にキャンプ道具を放り出して、みんな自由に休憩した……というか、ほとんどの連中が大の字になって息を整えていた。そしてオレ達は、見つけてはいけないものを見つけてしまう。


「……おい、嘘だろ……? なんかこっちに、コンクリで舗装された道があるんだけど……」


「はあ!? アンタ、マジで言ってんの!?」


「冗談でこんなこと言うわけねーだろ!?」


「……うちらの苦労って一体……」


 そんなクラスの女子と男子の会話を聞きながら、オレは茂みに隠れるようにして立ててある看板を見つけた。


『ここまで2270m』


「やっぱり登山じゃねーかっ!!」


 何が『ハイキング』だバカヤロー! と、オレは発狂した。引率の先生に言いたい。一度でいい。『ハイキング』と『登山』の違いを、◯ー◯ル先生で調べてくれ!!


 補足。


 『ハイキング』とは、自然の景色や景観を楽しみながら、山や森林、丘陵地帯などの自然の中を歩くレクリエーション活動です。

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