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第14話 校外学習 ①

 4月も終わりに差し掛かった頃。


 オレと王路が通っている私立高校では、『校外学習』という、1年生と2年生が親睦を深める行事が行われる。


 そして、お出かけ日和の今日が、その校外学習の1日目だ。


 今は、クラスごとに分かれてバスに乗り、学習センターへと向かっている途中である。


 わりと規則が緩いうちの高校は、『おやつ』としてお菓子を持ってくることが許されている。金額は決まっていないので、いろんなお菓子を持ち込み放題だ。


 学習センターへと向かうバスの中では、生徒たちが好きな席に座って、友達同士でお菓子をシェアしながらくっちゃべっていた。


「1泊2日の校外学習とかだりぃ〜〜」


 と、面倒くさそうに言う男子の声が聞こえたと思えば、


「ねえねえ! 夜は皆で恋バナしよーよ!」


 と言って、ウキウキと全力で行事を楽しもうとする女子の声も聞こえる。


 そういうオレも、校外学習を全力で楽しもうとしている派だ。


「王路。お前さ、テント張ったことってある?」


「……ない」


「オレもオレも〜! じゃあさ、カレー作ったことは? あっ、一人でだぞ?」


「……ある」


「へぇ〜。お前って料理できるんだな! 今夜のカレー係は王路で決まりだな!」


「……姫川」


「ん? なんだ? お前もなんか楽しみにして――」


「……うるさい」


 絶賛、乗り物酔い中の王路は、気分が悪いうえに機嫌が悪い。養護教諭のおばちゃん先生から貰った酔い止めが、まだ効いてきてないらしい。


「王路、お前さあ。1年の時はバス酔いしなかったよな?」


 王路は反応を返すのもおっくうみたいで、視線で肯定してきた。


「やっぱあれじゃね? 1年の時、ボールが耳に当たってさあ、鼓膜破裂したじゃん? それで三半規管イカレちまったんじゃねーの?」


 ――まあ、知らんけど。


 王路はどうでもよさそうに頷いた後、とうとう体操服の上着を頭から被った。『もう、話しかけんじゃねー』と、行動で拒絶されてしまったオレは、何もすることがなくなってしまった。


「ちぇっ。『彼氏』だったら、オレのこと、放っておくなよな……」


 誰にも聞こえないように小声で呟くと、オレも体操服の上着を被ってふて寝した。







 ――バスに乗って1時間。


 オレ達2年生は一歩リードして、1年生よりも早く、学習センターに到着した。


 オレはクラスメイト達の流れに乗って、バスからアスファルトの上に降りた。そして、自然いっぱいのきれいな空気を大きく吸い込んだ。


「ぷはーっ! 空気うめえ〜! 去年は雨だったから、晴れてマジよかったな!」


 オレの隣にやってきた王路が、そーだったか? と首を傾けてオレを見た。


「……あっ、あ~〜! そっか、そっか! 去年の郊外学習ん時って、お前、別クラに彼女いたもんな〜〜。そりゃあ、周りの景色楽しめねーよな? 可愛い彼女の顔を見るのに必死で!」


 さっきまで真っ青な顔をしてたくせに、バスを降りた瞬間、別クラの女子達にキャーキャー騒がれる王路が羨ましくて、オレはつい嫌味を言ってしまった。――オレだって、女の子にモテてみたいんじゃっ!


「あっ! 見て、アレ! 『姫』が拗ねてる〜、尊い〜〜!」


「『王子』と喧嘩でもしたのかな?」


「も、もしかして! バスの中で『王子』にイタズラされちゃって、そのせいで『姫』がご立腹なのでは!?」


「……ありえる! きっと『王子』に『お前は寝たフリしてろ』って言われて〜〜! 『王子』の手が『姫』の体操服の中に入っ」


 オレは聴こえてくる声を、耳をふさいでシャットダウンした。――相変わらず、なんなんだ、あの女子達はっ! 会話の内容が怖いんだよ! もはやホラーと言っても過言ではない!


「くそっ! あの女子達の存在を忘れていた……っ。オレはキレイな身体と精神で、明日のバスに乗って家に帰ることができるのかっ!?」


 ――いや。出来ないと困るんだけどね。うん。


 オレが真剣に悩んで頭を抱えてるって言うのに、隣に立つ『王子』はニヤニヤ笑って楽しそうにしてやがるっ! 「お前なんて呪われろ!」と、オレは王路を睨みつけた。


「ハハッ! 物騒なこと言うなよ、『姫』。……ん? 『姫』は虫が怖いのか? じゃあこの『王子』が守ってやらねーとな?」


「誰も、んなこた言ってねーだろが! それに、虫が怖いのはお前の方だろ? 『お・う・じ・さ・ま』!」


「違う。俺は虫が怖いんじゃない。『気持ちが悪い』んだ」


「ようは『苦手』ってことだろ?」


「そうとも言うな」


 ――どっちも大して変わらんだろーが! よし、今決めた。王路が寝てる間に、テントの中に虫を投入してやるからなァ……楽しみに待っとけよ!!


 オレは楽しみがまた1つ増えたことが嬉しくて、隣の王路を見上げて、にっこり笑った。「な、なんだよ、急に」と、王路は顔を真っ赤にする。「別に? 王路といろいろ出来そうで、楽しみだなーと思って」と言って、オレはニシシと笑って見せた。


「い、いろいろ……って?」


「いろいろは、いろいろだって! まあ、今夜は楽しみにしてなってこと!」


「こ、今夜!? い、いろいろ、と……? ……マジか」


 隣の王路が、なんかブツブツ喋りながら、顔を真っ赤にさせてる。……気味が悪いので、オレは放っておくことにした。


 それから、オレと王路はバディを組んで、引率の先生に着いて行く。オレは、王路が泣き叫ぶ顔を想像しながら、テントスペースまでの山道を登ったのだった。

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