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第13話 仲直りのチュー

 ――ある日の朝。電車内。


 あの教室での出来事から2日経ち、オレと王路の態度は何も変わっていないのに、俺達を見る一部の女子たちの目が……なんというか、怖い? というか……うん。怖い!!


「ねえ、その話、マジなん!?」


「マジマジ! あたし、この目で見たもん!」


 ――いや、あなたじゃないですよね。別の子でしたよね?


「こうやってさぁ、王子が姫のぉ〜」


 ――え? なんで知ってるん? あれ? オレの目がおかしいの? あの子はあなたでした?


「服を抜かせて、ピー、を触ってたってぇ」


「「「きゃぁ~〜!」」」


 ――触ってねーよ! つか、触らせないよ? てか、お前誰やねん!!


 オレと王路……いや。『姫』と『王子』の卑猥な話をして、女子たちが騒いでいた。電車内ではお静かに! ここは公共機関ということをお忘れなく!!


「……王路……オレは耳を塞ぎたい。……今すぐに!」


 電車の走行音でさえ掻き消すことが出来ない、女子たちの興奮した黄色い悲鳴。オレはその黄色い歓声を、是非バスケの試合中に聞きたい。切実に。――てか、女子共! 花の女子高生が、男同士の猥談で盛り上がってんじゃねーぞ!


「ごめんて、姫川。許してくれって〜。つい、魔が差しちまったんだよ〜」


 オレが本気で怒っているからか、王路はガチで平謝りしてくる。――だが、王路修人よ。後ろを振り向いて見るが良い。今のお前のその姿も、あの女子共のエサにされるのだ!


 オレは王路のデカい身体に隠れて、見たくない光景をシャットアウトした。


「つい、で許されるなら、警察いらんて!」


「その通りです。本気で反省しています。許して下さい、姫川さん!」


「答えは、ノーだっ!」


「そんなぁ〜、姫川〜!」


 王路は絶望したような表情をして、ガクリと膝から崩折れた。――おい、お前。聞こえるか? あの女子共の黄色い歓声が! あれは腐った歓声だ! 間違いない。オレの○ーストがそう囁いているからな!


 オレは王路の肩を叩いて、取り敢えず立てと言って、しょんぼりしている王路を立ち上がらせた。――なんでメンタルケアするのがオレなの? どっちかっていうと、被害者はオレだよねえ!?






 ――所変わって、屋上階段。昼休憩中。


 オレと王路は、話すことなく黙々と飯を頬張る。――気まずいから、しょんぼりするのやめてくれるかな!?


 仕方がないから、オレが大人の対応をすることにした。――俺が被害者なのに……。


「王路。マジで、もう怒ってねーからさ。そのしょんぼりすんのやめろよ……調子狂うんだよ……」


 しょんぼりしていても、食欲はあるらしい王路は、6袋目の菓子パンを取り出した。そして袋を開けて、はむっとかじりついた。――『はむっ』て、可愛いかよ! でかい図体のイケメンが、『はむっ』は……可愛いだろうが、コノヤロー。


 王路はもぐもぐ口を動かしながら、チラッとオレを見てきた。


「ほんとに、もう怒ってないのか?」


「ほんとに、怒ってないって言ってんじゃん」


「……その言い方は、怒ってる時の言い方じゃねーか」


 あああ! もう、クソめんどくせーな! コイツ!


 出来ればこの手だけは使いたく無かったが……仕方ない。いつもの日常を取り戻すためだ!


 オレは昼飯を食べ終えて、行儀悪くお茶で口をゆすぐと、唇にリップクリームを塗った。――よし。準備完了だ!


「王路」


「ん?」


 瞬殺で菓子パンを食べ終えた王路は、100%リンゴジュースを飲みながら、こっちを向いて首を傾けた。――おい。お前の方が、『姫』に相応しくないか?


 オレは咳払いをすると、完全に油断している王路の唇に、チュッと触れるだけのキスをした。――おおお! 初めて自分からキスしたぞ! なんか、胸が、すげぇドキドキする! 緊張してたんかな?


 オレは無事にミッションを達成したことに満足して、心の中でガッツポーズをした。あ。あと、コレ言うの忘れてたわ。


「『仲直りのチュー』だ。これで喧嘩両成敗。お前も落ち込むのは止めて、いつもみたいに――」


 言いながら王路の方を向いて、オレは急に羞恥心が芽生えた。――何故なら、王路が可哀想なくらい、顔を真っ赤にしていたからだ。


「き、キスすんのは、もう3回目だろ? 何、今更恥ずかしがってんだよ!? お前がそんな顔してると、オレにもうつるだろーが!」


「あ、いや、すまん。まさかお前の方からキスしてくれるとは思ってなくて。……しかも、『仲直りのチュー』とか、可愛いこと言うから」


 そう言って、いつものようにイケメン顔に戻った王路は、照れた顔ではにかんだ。


「おおおお! めっ、目がぁーっ!」


「ど、どうした、姫川! 目になんか入ったのか!?」


 入りました! イケメンのはにかみ笑顔が!!


 とは言えず、オレは必死で平常心を取り戻し、目にゴミが入ったと嘘をついた。


「ちょっと見せてみろ」


「ん」


 まあ、嘘だから、ゴミが入ってるわけがないんだよねー。


 だけど、王路が本気で心配してくれているので、右側の目が痛いかな? とか言っちゃうこの口をしばきたい!


「右目か。見た感じ何もねーけど……一応ふーふーしとくか」


「え?」


 今、なんつった? 『ふーふーする』って言ったの?


 オレが混乱していると、優しい指使いでオレの目蓋を開いた王路が、眼球に向かってふーふーしてきた。


「……どうだ? 楽になったか?」


「ウン。モウダイジョブ」


 「良かった」と言って、王路は白い歯を見せて笑った。――イケメンの笑顔。プライスレス。


 オレはふーふーされた目を閉じるのが、何故か勿体なく感じて、ドライアイになるまで目をかっぴらいていたのだった。――馬鹿なのかな?

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