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第42話




 大長秋様も仕事を終えてから合流して、お茶会がさらに盛り上がる。


 席替えをして、いろんな人と交流したいという芽衣の提案で、私は大長秋様とお話をすることになった。




「陛下は本当に良く笑うようになりました。翠蓮様のおかげですよ」


 大長秋様は笑った。その笑顔にはいつもの優しさとどこか父親のようなぬくもりがあった。




「陛下は、昔からあんな感じなんですか」




「いえ、そんなことはありません。先代の皇帝陛下は、2人の皇子にそこまで関心がなかったようですが、皇太后さまは2人を深く愛していました」


 その皇太后さまは、皇弟様を失ってから、精神を病んで誰にも会えなくなっている。




「異母弟だったとしても、陛下と弟君の関係は良かったのですか」




「ええ、二人は本当の兄弟のようにいつも遊んでいましたよ。お互いに足りないところを補い合う理想的な兄弟で、二人の時代が来れば、間違いなく、治世は素晴らしいものとなる。そう、臣下は噂しておりました」


 自分と兄の愚かな関係を思えば、とても素敵な兄弟だったんだと思う。


 やはり、弟君を失ったことで、陛下はあんなに悲壮な覚悟を持ったんだろう。自分の幸せよりも何よりもすべて国家を優先するような。




「それは……とても残念でしたね」




「ええ、陛下はあの日以来変わってしまった。あなたが陛下と話しているところを見るとね、どうしても仲が良かった兄弟が元に戻ったみたいな……本当の陛下が戻ってきたような気分になるんですよ。性別も違うのに、不思議ですね。ですが、弟君は、翠蓮様に匹敵するほど、優秀な方でした。陛下は行動力と決断力に優れていて、彼は知識や問題解決の力に長けていた。どんな難しい問題でも2人がそろえば解決できる。そう確信していましたよ、今のあなたたちのようにね」


 そう言われると恥ずかしくなる。自分はあくまでも、陛下の補佐役のような役割に過ぎない。妃としての仕事ができているとは思えないけど、それでも重責を担う彼を支えられていると思うと、どこか誇らしくなる。




「私は陛下を支えることができているでしょうか」




「間違いなくできています。最大の理解者は、弟君亡きあとは、あなたです。もっと自信を持ってください。陛下がこのお茶会に興味を持ったこと自体、異例なのです。公式行事や儀式ですら、儀礼的に参加している陛下がですよ。こういう懇親会や慰労会に興味を持った。それだけで、私にとっては奇跡だと思えるのです」


 大長秋様にそう言われると、本当に自信が出てくる。でも……




「私は大長秋様も、陛下を深く理解していると思いますよ。たまに、陛下を守っているようにすら見えます」


 そう言うと苦笑いして、「恐れも多い。私はあくまで見守ることしかできません」と謙遜する。




「ですが、あなたがいなければ、私だって立場が危うくなります。あのえん罪事件の時も大長秋様がいなければ、処刑されていたかもしれません」




「私はただ若者を助けるだけです。私のような老いぼれが、歴史を作ろうとしてはいけません。若者が作る新しい道を眺めて、必要であれば少しだけ助けるだけ。そして、技術や経験を次の世代につなげていけばいいのです。歴史を作るべきなのは、若いあなたたちなのですからね」


 彼は自嘲気味に笑う。おそらく、戦乱の時代を生きることしかできなかった立場の人間として言っているのだろう。




「……」


 私は無言で、大宦官を見つめた。

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