目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第39話

第39話


―族長視点―


 いつものように部下からの報告会がはじまる。今回は、関所も建設が完了したはずだ。たしかに迂回路を選ぶことが多くなったが、関所のおかげで収入も増えたはず。なにせ設置してからかなりの時間が経過しているからな。


「それでどうなんだ」

 早く税収が増えたことを報告しろとワクワクしながらうながした。


「族長、落ち着いて聞いてくださいね」

「いいから早く聞かせろ、そんなに良い結果なんだな?」


 部下は伏し目がちに震えながら、税収を報告した。

 愕然とした結果が耳に入る。


「バカなことを言うではない‼」

 思わず激高して部下を叩いてしまった。部下は勢いよく吹き飛ばされていく。


「申し訳ございません」

 部下は必死にこちらに向かって謝るが、自分の気は収まらなかった。


「よい、この結果は想定内と言えば想定内だ」

 苦し紛れに、そう言って、自分の怒りを修めようとする。このままでは、父上が提唱したオアシス都市を整備した上での大商業国の建国が始まる前から、崩壊しつつあった。周辺では「翠蓮様さえいてくだされば」や「族長がこの計画を引き継いで、一気に崩壊した」、「そもそも、増税や関所で自由な交通が遮断するのは逆効果だったんだ」と不満が強く上がっていた。


 みんな、俺の孤独をわかろうともしない。どうしたらいいんだ。どうして、俺はいつもこんなことになってしまうんだ。机に頭をぶつける。一度じゃ、痛みが足りない。何度も何度も何度も頭をぶつけた。


「族長?」


「おやめください」

 部下たちはこちらの行動を必死に抑える。


 なんで、俺がこんなことをしなくちゃいけないんだよ。全部、翠蓮のせいだ。あの女がいなければ、おれはこんなことになっていないのに。どうして、ここまで俺がバカにされなくちゃいけないんだ。あいつは、嫁いでも、なお、俺のことを邪魔するんだ。


 もしかしたら、キャラバン隊が別のルートを選んでいるのは、あいつの差し金じゃないか。となれば、近隣国にもあいつの触手が動いていて。


 ありえない話ではない。だって、あの女は、キャラバン隊との親交もかなりあるぞ。顔が利く。もともとの立場や順との関係も考えれば、こちらを経済的に追い詰めるために嫌がらせをしている可能性が高い。


 なんだ。どうして、あいつはそこまで嫌がらせをするんだ?

 やっぱりそうなんだ。あいつは、俺を族長から追い落として、自分が女帝になるつもりだ。そして、大順と西月国を合併させて、自分のもとに権力と金を集めるつもりだな。やっぱりそうなんだ。あの人が言っていたようになるんだ。


「あの恩知らずが‼」

 さらに、頭をぶつける。少しだけ血が出て、安心感が生まれた。


「おい、沙陽国に使者を出せ」

 部下たちは大慌てで、動き始める。


「どのような目的で使者を派遣するのでしょうか」


「最後通牒をつきつける」

 毅然とした態度で俺がそう言うと、部下は「はぁ?」と怖気付いた。


「いいか、現在、迂回路になっている道を封鎖するように命令しろ。断ったら戦争だとな。向こうはおそらく断ってくるだろうから、すぐに開戦できるようにしておけ」

 最近、大順と和平したことで、戦争が減っていた。我らは兵士の国だ。血を求めて飢えている武闘派たちも多い。これでやつらも喜んでくれるだろう。そして、この戦争で勝利することができれば、俺の評価もうなぎのぼりだ。


 そうだ、内政に失敗しそうになったときは、外に敵を作るのが最適だ。定跡と言ってもいいな。外に敵を作っておいて、戦争になれば、勝てば英雄になれる。英雄は誰にも邪魔をされずに国を思い通りにできる。


 そうなれば、翠蓮の陰謀も打ち砕くことができるだろう。

 このまえ、独断で使者を派遣してきた大順の大物と協力すれば、さらにうまく対処することができるだろう。まずは、すべてをうまくいかせるために、俺は英雄になる。


 心の中で、馬に乗りながら、大草原を駆け巡って、敵兵を打ち倒す自分のことを明確に描くことができた。そうだ、俺は天才的な先代の族長の息子だ。翠蓮は優秀な政治家にはなれたとしても、立場的にも自ら戦場に立つことはできない。だから、英雄になることもできない。これで、俺が戦争で大活躍して、英雄になれれば、あいつとの評価を逆転させることができる。


 そうだ、どうして気づかなかったんだ。戦争を起こして活躍すればよかったんだ。今回は特にそうだ。迂回路を潰すことができれば、西月国の税収は増えるし、領土だって拡張できるかもしれない。さらに、俺の評価まで上がってしまう。


 最高だ。最高じゃないか。

 頭から血が流れるのも気にしないで、俺は高笑いを続けた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?