第37話
「それで、翠蓮はどう考える?」
陛下との朝食会は、甘い雰囲気などは全くなく政務関係の話が連続で繰り広げられてきた。今回は、商人に対する減税と建設関係の引き締めをするべきかどうかだ。
「まずは、商人への減税は、難しいところですね。今後、順国はどんどん商業で発展するでしょうし、それを阻害するような税制度は、自分で自分の首を絞めかねません」
「うむ」
陛下は目を輝かせて続きをうながした。
「ですので、関所などの自由経済の邪魔になるものは避けるべきでしょう。ただし、道路整備などの財源に使用する費用の徴収などであれば、商人たちにも利便性が強くあり、不公平感もない上に、他の分野にも波及効果を望めます」
「なるほど、とても良い考えだ。商業活動が増えることで、経済が豊かになれば、その文税収は増える。無理な課税よりも、全体の豊かさを追求するのだな」
「はい。建設関係の引き締めも難しいところです。ただし、強制的な徴収よりも、きちんと労働者に賃金を払うような形にすれば、大きな効果が望めるでしょう」
「大きな効果とは?」
「はい。建設労働者の場合は、農村の荒廃で出稼ぎに来ている農民たちも多くいます。彼らを働かせて、賃金を与えて、農村の再興に必要な資金を稼がせれば、戦争で疲弊している農村部の復興がさらに進むでしょう」
私の考えを披露すると、陛下はなるほどと笑った。さすがは優秀な陛下だ。
「国の予算を直接、労働者に行き届かせることにするのだな」
「ええ、国が富の再配分をおこなうような形ですね。どうしても、特定の人間に集まってしまいますし、どうやってそこを工夫するかを考えれば、公共工事を利用するのが確実だと思います」
「うむ。軍事投資に回っていた予算を、その分、道路の方に回すのはおもしろいかもしれないな。足りなくなっていた予算は、道路をよく使い利益を多く得ることができる商人たちにも多く負担させて、その分を農村に還元する。そうすれば、戦争で大きな利益を得た商人たちから、農民に対して資金を動かすことができるのか」
「ええ、その際は、できる限り直接賃金を労働者に渡せるように、国が直接、彼らを雇うような形にすればいいと思います」
「その理由は?」
「商人にとりまとめを任せてしまった場合は、かならず中抜きが発生します。そうなれば、こちらの投資の効果は弱くなりますので」
「うん。たしかに、中抜きが発生すればするほど、こちらの目的から外れてしまうな。それはよく考えられている」
そう言ってもらえて安心する。陛下に納得していただいたとき、肩の力がスゥっと抜けて、私は気持ちが楽になる。やはり、緊張しているんだな。でも、役に立ててよかった。
すでに、朝食の膳は下げられている。もう朝食会というよりも政治についての会合みたいなものね。でも、陛下は本当に私の目的をよく理解してくれていると思った。兄上や大臣たちには本当にうまく伝わったのかわからないもの。
「お二方、少し休憩なさってはいかがですか」
話が一区切りついたことで、大長秋様がお菓子とお茶を持ってきてくれた。これももはや定番みたいなところがある。
「翠蓮、今日はこの後、何をするんだ?」
陛下はお菓子をほお張りながら、聞いてくる。
「今日は、女官や下女たちと梅を見ようと思っています。お菓子やお茶を持ち寄って」
「ああ、それはいいですな。どれ、わたしもどこかで顔を見せるとしますか」
大長秋様は、朗らかに笑う。「大歓迎です」と返すと、満足そうに頷いてくれた。
「立場が許せば自分も行きたいが……」
思わぬことを陛下は言い出した。