第24話
―皇帝視点―
朝食を終えて、また執務に戻る。軍事費の削減は、かなり進んでいる。そもそも、周辺諸国と行っていた戦争が終わったから当たり前だ。特に、婚姻が成立した西月国に対して、ある程度、監視の兵を割くことが不要になったのは大きい。たとえ、戦争状態でもなかったとしても、長年の宿敵である強国である西月国には、常に抑えの兵力が万単位で必要になる。
仮想敵国というやつだな。周辺諸国の中でも、強力な遊牧民たちによる騎兵の突撃は、最大の脅威であり、やつらへの対策として国境沿いには強力な要塞や武器をそろえていた。兵力は、過去の3分の2まで減らすことができている。最終的に半分に減らし、その分、大砲を増やしてカバーするつもりだ。
そもそも、騎兵は大きな音に弱い。馬がびっくりしてしまうからな。大砲が過去よりも安く生産できるようになってきていることもあって、守備の人数を減らしてもある程度国境の守りができるようになるだろう。
特に、東の島国との関係が改善されつつあるのも大きな外交成果だ。数百年間大乱で国が乱れていたあの島国も統一政権が誕生したおかげでかなり交渉が楽になった。あの国の海賊である倭寇も向こう側も取り締まりに積極的になっているので、こちらの被害はかなり抑えることができている。このまま、平和に交易が増えれば、それだけ民が喜ぶだろうな。こちらの税収も増えていくはずだ。
あとは、どちらも先代の皇帝と向こうの将軍が起こした戦争の後処理をうまく終わらせることができれば、海防問題も大きく改善できる。
「陛下、お菓子をお持ちしましたぞ」
書類の決裁がある程度終わったところで、大長秋がやってきた。昨日は、辞任の意思を固めていたのに、もういつもの顔に戻っていた。
「座れ」
仕事も順調なので、少し休憩しようとしたら、大長秋は笑っていた。
「陛下、いつもと違って、ずいぶんと表情が柔らかくなりましたな。なにか、良いことでもありましたか? それも仕事が随分とはかどっているようですね。いつもは、この半分くらいで休憩しているように思っていますが」
翠蓮の考えを聞いて、自分にはない発想を与えてくれたことで、少しずつ効率が良くなっているのは自覚できていた。なんとなく、彼女のおかげだと認めるのが恥ずかしくて、とぼけるしかない。
「菓子を食べながら、後宮の改革について話したいことがある」
いつもは、この休憩時間はなるべく仕事から離れたいと思っていたのに、今日はまるで違う。むしろ、早く話したいくらいだ。
そして、目の前の老宦官はすぐにこちらの状況を察して笑う。察しが良すぎるのも、側近としては使えるが、ある意味では考え物だと思う。こちらが隠し事したいのに、すぐに伝わってしまっている。
「ほう、それは、それは……ご立派なことで」
賞賛しているようで、少しだけからかいまじりの嫌味みたいなものが含まれている。
あまり、焦る必要はない。物事はどんどん良い方向に向いて言っているのだから、ゆっくり確実に少しずつ前に進めばいい。
もし、この境地にもう少し早くたどり着ければ、私は大事なものを失わなくてもよかったのだろうな。皇太后様が住んでいる方向に目を向ける。彼女は、まだ自分を許してはくれないだろうな。あれから、一度も外に出てこなくなってしまった彼女は、今何を考えているのだろうか。