第20話
―族長視点―
「族長、増税を発表して以降、別のルートに進むターバンが増加しており、このままでは逆に減収につながる恐れがあります」
「何を言っている。そもそも、関所を設置したルート以外に大順に向かう道はないはずだろう」
側近の報告に思わず八つ当たりすると……
「それが、隣国の湖の上を通るルートが開発された模様です。もともと、湖の移動は技術的に大変だったのですが、西洋の技術が導入されたことで可能になったとか。税がなければ、陸上ルートがより廉価なはずですが、今回の増税で抜け道を作られた形となってしまいました」
「そんな事実を事実だけ伝えてどうする。そんなこと、童でもできるぞ」
激高する自分に対して、側近は顔が真っ青になりながら撤退していく。
「いいか、何か対策を考えろ。このままでは我が国は破綻するんだぞ‼」
誰か優秀なやつはいないのか。この絶望を救ってくれる人間は……
そもそも、この国の経済は、商売活動に支えられている。遠距離からの交易は、砂漠の民の国にも大きな利益がもたらされる。だからこそ、交通の要衝である西月国は利益が出てきたはずなんだ。その交通の要衝という立場を失ったら。国自体が滅んでしまう。
妻が奥から出てきた。
「あなた、落ち着いて。大丈夫よ、あなたならきっとなんとかなるんだから」
その言葉がクスリのように俺の心を落ち着かせてくれる。そうだ、俺は優秀なんだ。女である翠蓮ですらうまく回せていたのに、俺ができないわけがないんだ。
「そうだな、俺なら何とかなる。俺なら何とかなる」
何度も同じ言葉を繰り返して、自分に言い聞かせる。
「それに、私たちの国は商業だけじゃないでしょ?」
「ん、どういうことだ?」
「あるじゃないですか。大国である大順帝国と肩を並べるほど強いものが……」
まるで、神話の悪魔のように天使は笑う。
「そうだ、こちらには無敵の騎兵と精強な軍事力がある。そうだよな。ならば、力で隣国を併合してしまえばいいんだ。そうすれば、税収は増えるし、交通の要衝は抑えられる。我が国の経済も守られる。そうだよ、どうしてわからなかったんだ。そんなこと簡単だったんだよ」
そうだ、これですべて解決できる。これ以上悪化するならば、冬が終わったら軍事侵攻を開始する。今はまだ動くには寒すぎるからな。
「族長、大順国の人間から使いが来ました!」
「ほう?」
おもしろくなってきたな。
「おい、使者の方のために宴を開くぞ。こちらの懐事情を知られないようにな。あいつらは弱みに付け込むことがうまいのだ。豪華な宴を開かなくてはいけないんだ。これは国家のための宴だ」
酒を飲めばいい。今回はおそらく正式な使者ではないだろう。なら、誰か。おそらく、大順の現体制に批判的な勢力からの使者だろう。翠蓮は人質だが、そんなものどうだっていい。あいつが殺されるなら、こっちだってせいせいするんだよ。
むしろ、無残に苦しめられて死んでもらった方がいい。そして、俺が完全に天下を取ってやる。