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第9話

 そして、そのまま怒気を含み、場に無罪を証明する。

「大長秋様! この毒が水仙であるならば、芽衣が犯人である確率は低くなると思います」

「なぜですか?」

「ですから、これが水仙だからです。水仙の名前の由来は、水辺に咲いて、仙人のように長寿で、清らかな花。私や芽衣が砂漠からこちらに来るまで、水辺はほとんど通っておりません。だから、回収する余裕がないのですよ」

 その言葉に一番早く反応したのは、顔面を蒼白にしたあの九嬪の昭儀が、鋭い声を上げた。


「そんなこと⁉ あなたは砂漠の国の王族みたいなものだから、金を出せば、すぐに集められるでしょう」

「残念ながら。それは間違っています。我々、砂漠の民からすれば、花というものは貴重品。薬品として購入するにも、かなりの費用が発生しますし、私は兄である族長に言われて、突然ここに嫁ぎに来たのです。そんな貴重品を用意できる時間的な余裕はありません。この国に入ったら、護衛の方々に監視もされています。だから、無理なんですよ」

「で、でも、あの娘は医官の娘と聞いたわ。医者なら……」

「ですから、それもダメなんです。彼女の父親は、10年も前にこの世を去っています。残った財産も、彼女が弟たちを食べさせるために、全部売ってしまったんですよ。貴重な薬を確保しておく経済的な余裕が彼女にあるわけがない」

「それでも、あなたになら……」

「たしかにそうですが、私以上に怪しいのは皆様方じゃないですか? 立場的にも地理的にも水仙を手に入れやすいはず」

 会場は、シーンと静まり返った。


「……ッ」

 さきほどまで食らい下がっていた目の前の妃は、後ずさりを始める。


「それに、さっきから私に容疑を向けようとしてきますが、まずは、あなたは自分の身の潔白を証明して欲しいと、私は思います」

 それがとどめになったのか。

 彼女は、鬼のような形相になって、怒鳴り始めた。


「違う‼ 私は悪くない。全部、悪いのはあなた。私は、少しお灸をすえてやろうと思っただけで。こんなはずじゃなかった」

 そう言って、その場から逃げようと走り出す。だが、これは事実上の自供だ。宦官たちに簡単に捕縛されて、彼女は動けなくなった。


「すぐに、女官たちの荷物を検査しろ‼」

 こうやって、私たちにかけられた嫌疑は解消されていった。


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