―族長視点―
ついにやったぞ、あのいまいましい妹を追放した。俺以上に優秀だと噂された妹は、もうただの人質になり下がったんだ。これからは、俺の時代だ。
「ははは、思い知ったか。生意気な妹め。いつまで、ちやほやされるとは思うよな。お前があちらに嫁げば、元敵国の姫。スパイ扱いでもされるだろう。冷遇されて、一生孤独なまま後宮で朽ち果てればいい。女のくせに、俺以上の大器として調子に乗っているのがいけないんだ。これが俺の本気だ。族長が一番偉いんだからな。お前みたいな女なんていくらでもできるんだ。ざまあみろ」
あえて、いままでの劣等感を言葉にする。そうすることで、すべて解消されたような気分になった。長年の恨み、つらみを爆発させて、高笑いが止まらない。俺は常にあの妹と比べられてきた。父は俺よりもあの女を優遇した。俺は常に女よりも才覚が劣る次期族長としてバカにされてきた。ずっと、ずっと、屈辱的な日々を強制されてきたんだ。
これでは、笑うしかない。
横にいた妻も一緒に笑いだす。妻は、族長だった父から毎回、華美な服装を注意されたりしていた。せっかく次期族長の妻となったのに、宝石も自由に買えないことに不満を持っていた。だから、父が突然死んで、俺たちは小躍りしたんだ。
やっと、抑圧された生活からかいほうされるってな。
「やっと、これで俺たちは自由の身なんだな。清々するぜ。あのいまいましい妹もこれでいなくなる‼ 今日は人生最良の日だ」
「そうよ、そうよ。族長であるあなたを差し置いて、まるでこの国の次期後継者みたいになっていたのが生意気だったのよ。あんな女ができることなんて、本当は誰にでもできるのにぇ。ねぇ、あなた。あの娘がいなくなったら、パーティーしましょうよ。大きな宴会を。私、宝石が欲しいわ。あの女にちなんで、あの娘が持っていたよりも大きな翡翠が。ねぇ、せっかくなら、むこうに向かう道中で暗殺しちゃってもいいんじゃない?」
「いいな、大宴会をしよう。もちろん、いくらでも宝石は買ってやるよ。せっかくの記念日だからな。おいおい、暗殺もいい考えだが、ほんの一瞬で殺しちゃうのは、もったいないだろう。あいつには、自分が後宮で何もできずに朽ち果てていく苦しみを味わってもらわないとな」
それを想像するだけで、下品な笑いが止まらなくなる。あの才能がある女が、いじめられて、孤立し、才能を生かす場もなくただ消えていく。最高に屈辱な人生を送るだろうな。誰からも愛されず、誰を愛することもできずにだ。
なにせ、俺は族長だ。だから、どんなことでもできる。
「それはなんて愉快なのかしら。いいわね。あの女の尊厳を全部破壊して、あとは生きている限り苦しめる。あの冷徹皇帝のもとで、ひたすらいじめぬかれるなんて、なんて素敵な事なのかしら。その一方で、私たちは翠蓮のおかげで、大順との関係も良好となり、あの女が進めていた計画を横取り、その利益を享受できる。良いことしかないわね」
「そうだろう、そうだろう。あの計画を進めることができれば、大きな翡翠なんて、いくらでも買えてしまうよ。そして、俺は大順との関係を改善し、この国を一大商業国家に変革した大族長して、名前を歴史に残す。最高だろう?」
妻とキスをしながら、今後のことを考えると、笑いが止まらない。さあ、ここからは俺の時代だ。あらゆる快楽を味わって、歴史に名前を残してやる。