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こんなはずじゃなかった~無理やり冷徹皇帝のもとに嫁がされた私が、後宮改革で活躍しいつの間にか溺愛される
こんなはずじゃなかった~無理やり冷徹皇帝のもとに嫁がされた私が、後宮改革で活躍しいつの間にか溺愛される
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異世界恋愛和風・中華
2024年11月27日
公開日
3.5万字
連載中


舞台は、16世紀くらいの文化水準を持つ中華帝国・順。
順の5代目皇帝である呉勝は、有能な人物だが冷徹であり臣下からも恐れられていた。
ヒロインは、北方の遊牧民族の族長の娘・翠蓮。彼女は、優秀な女性であり、周囲の人たちからも「男性であれば、名族長になっただろう」と惜しまれていた。彼女の政治力のおかげで、彼女たちが住んでいるオアシス都市は発展し、大きな力を持つようになっていた。
しかし、族長が急死し、翠蓮と折り合いの悪い兄が新しい族長に就任。いままで対立していた順との和解のために、翠蓮は身代わりのような形で無理やり皇帝に嫁がされてしまった。これは、彼女の能力に嫉妬していた兄と兄嫁の陰謀でもあった。
仕方がなく順国に嫁ぐ翠蓮。
初めて皇帝と出会った日、彼は冷酷に言い放つのだった。
「私は誰も愛するつもりはない。そなたなど、しょせんは政治の道具だ」と。
一瞬、絶句するものの、彼女も優秀な政治家であり、毅然とした態度で言い返す。

少しずつ問題を解決していく中で、皇帝からの信頼は強化されていき、いつの間にか溺愛されていた⁉
翠蓮が後宮で存在感を増していくことに反比例し、彼女を追放した兄と兄嫁は失敗続きで徐々に追い詰められていき……。

コンセプトは、「溺愛」×「ざまぁ」×「人間ドラマ」。
冷徹な皇帝の心を解きほぐすことで、寵愛を受けていく遊牧民族出身のヒロイン。
そして、皇帝の心の傷と、それに関連する不思議な宦官。
そして、ヒロインを陰謀で追放して没落していく兄と兄嫁のざまぁ。
この3つのストーリーラインをメインに描きます!

更新は基本的に火・木・土曜日の21時ごろです!

(主な登場人物)
翠蓮(スイレン)……西月国の前族長の娘で、優秀な政治家でもある。異母兄に追放させられる形で、大順に嫁がされる。
皇帝……大順第5代皇帝。冷徹な性格で周囲に恐れられている。
芽衣(ヤーイー)……翠蓮の侍女。医官の娘。
黄・大長秋(コウ・ダイチョウシュウ)……後宮における宦官の最高位である大長秋を務める大物。後宮の大臣と恐れらえているが、皇帝の側近として信頼されている。

第1話 前半

第1話



翠蓮すいれん。お前には、最高の夫を用意してやった。なにせ、大順だいじゅんの皇帝陛下だからな。あの冷徹無比な皇帝の妃になれ。そうすることで、この西月国にしづきこくは安泰だ。亡き父も喜んでくれるだろうな」


 異母兄は、短い茶髪を揺らしながら、自信満々にそう告げる。顔にはかつての戦闘で敗北した影響でついた傷が痛々しげにろうそくの光に照らされている。


 父の葬儀から数日後。悲しみも癒えないうちに、私は、族長を引き継いだ兄に呼ばれて、急に宣告された。奥では義姉の悪趣味な笑顔が見える。それはまるで、物語の魔女の様に見えた。なるほど、そういうことか。血がつながらない兄妹だから、仲は良くなかったけど、まさか、ここまでの仕打ちを受けるなんてね。邪魔な異母妹をこのタイミングで排除しようとしている。私の直感がそう言っていた。


「お言葉ですが、私が現在進めている、オアシスの計画はどうなるのでしょうか」


 たしかに、長年の対立国である順の皇帝との政略結婚は、大きな意味がある。でも、このオアシスの計画は、父上の肝いりで進められてきた大きなものだった。我々遊牧民の領土は、農業に向かずに、牧畜や商業を発展させなければ生きてはいけない。だから、オアシスを都市化し、交通路を整備、ターバンに対して有利な税制度を整える準備がひそかに進行していた。その担当者が、亡き族長の一人娘の私だった。目の前の兄は、その決定に対して、日ごろから不満を貯めていた。彼は、族長の後継者としての実績が乏しかったから、この計画の担当者に死んでもなりたかったのだろう。だけれども、父上は兄では力不足だと考えた。


 長く続いた大順との戦争もあり、国力は疲弊し、民も疲れ切っている。よって、このオアシス都市計画は、その打開策として失敗するわけにはいかない大事なものだった。


 農作物ができない土地だからこそ、家畜や商業を発展させなくてはいけない。その計画内には、減税も含まれるが、相対的な商業発展政策が進めば、逆に収入は増える見通しもあった。さらに、オアシスの水源を利用した簡易な農業の導入も目指している。それが成功すれば、戦争によって無理やり維持していた国を安定的に統治することが可能となる。


 遊牧民族は、実力主義なところがある。実績を残せない人間はいくら族長といえども、軽んじられるし、最悪の場合は失脚させられる。失脚と言えば、立場を失うだけで済まずに、命まで奪われかねないのだ。


 兄は、今回の婚姻で外交での成功というポイントを稼ぎつつ、邪魔な私を追放させて、ほとんど計画が終わりかけているオアシス都市構想を乗っ取るつもりらしい。だいたい、大順との関係改善は、亡き父が10年以上かけて成し遂げた成果だ。親戚の誰かが大順に嫁ぐことは決まっていたが、まさか族長の直系である私が選ばれるなんて。花嫁と言えば、聞こえはいいが、人質のような扱いを受けることは明白。だから人選が難航していた。


「ふん。男なら族長間違いないと言われているお前らしいな。安心しろ。その計画は、新しい族長である私が引き継ぐ。お前は、安心して、大順に嫁ぐといいさ」


 やっぱりだ。この男は、こちらが今まで積み上げてきた努力すら認めずに、安易に功績を奪い去るつもりだ。自分の保身のために。兄と言えど、なんとつまらない相手だ。思わず血が出るほど、手に爪を食い込ませてしまった。しかし、これではどうすることもできない。族長の命令は絶対だ。それを拒否すれば、私はどうなるかわからない。おそらく、処刑されるだろう。それに、この政略結婚の意味もよくわかる。西月国としては、とても魅力的な提案なのだろう。他の有力な親族たちも自分のかわいい娘を人質として差し出さなくて済むから積極的に止めることもない。


 周囲は一瞬騒然となった。


『しかし、姫があの冷徹皇帝のもとにいくなんて』


『あの皇帝は、男にしか興味がないとも聞く』


『誰も信用せず、部下すらも道具の様にしか思っていないらしいぞ』


『あの計画は、先代の族長ですら、翠蓮様の力を借りなければ解決できないと言っていたのに。本当に大丈夫なのか⁉』


 そう、大順の現皇帝は、年齢こそ若いものの、非常に冷酷なことで有名だ。賄賂わいろを受け取った先代からの老臣に対して、問答無用で処罰し、財産をすべて没収した。通常なら、ある程度、温情を与えるものだが、子供たちの身分も没収したと聞く。


 他にも、粗相があった女官を後宮から容赦なく追放したり、実家と共に反乱を企てていた妃を容赦なく処刑し、さらしたとも聞く。


 周囲がざわついているが、兄上は続ける。まるで、今の自分の力を誇示するかのように。浅ましく、それでいて、ゆっくりと締め上げてくる。たぶん、自分に酔っているのだろう。族長の娘、砂漠の女帝なんて言われていた自分すら、族長という権力を使って好きなようにできる。今までゆがんでいた劣等感が一気に放出されていく。


「だいたい、お前は常に生意気だった。父上が生きていたから許されていたが、しょせんは女の浅知恵だろう。私に勝てるわけがない。いいか、今の族長は私だ。私が、法律である。出発は明日になるだろう。すぐに準備をするように」


 問答無用とばかりに、そのままテントの奥に消えていった。今までの功績や仕事に対して、何の感謝もなく、ただ名誉を傷つけられて、自分の尊厳を揺さぶられただけ。悔しくないわけがない。でも、私はこの国の姫だ。民のために、自分の身を捧げる覚悟だってできている。


 嫁ぐしかない。


 それが答えだ。すでに両国間で約束されているのであれば、覆すことはできない。この族長のことだ。すでに、大順には自分の妹が嫁ぐことを連絡しているだろう。もう逃げることは許されない。このまま、大順のメンツをつぶしてしまえば、父上ですら苦戦した大国の圧力に負けてしまう。兄は、そんな器じゃない。民が必要以上に苦しむのであれば、私の身が犠牲になっても仕方がない。


 私は目を閉じて、覚悟を固めた。


「わかりました」


 族長の勝ち誇ったように大きな笑い声がとどろいた。

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