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寝取られ伯爵令息の受難
ANAMATIA
BLファンタジーBL
2024年11月26日
公開日
27,078文字
連載中
※毎週 日・火・木 朝6時に投稿予定です。(ネオページオンリー)

少し気弱で、何故か男に好かれる体質の主人公テオは、自立するために聖騎士養成所へと通っていた。
伯爵家の次男である主人公は、社交シーズンに領地へ帰還する旨を、婚約者宛の手紙に書き綴る。
予定時間より早く屋敷へ帰宅した主人公は、婚約者との逢瀬の場所である庭園の東屋に向かう。しかしそこで目にしたのは、婚約者のクラーラと親友のオルランドの浮気現場だった。
婚約を破棄した主人公は、自室に引きこもるようになる。その噂を聞きつけたクラスメイトの親友レオポルドと、犬猿の仲でライバルのオズヴァルドが屋敷を訪ねてくる。
それでも引きこもり続けていた主人公は、友人と家族に勧められ、王家主催の舞踏会へ参加することに。
しかしその舞踏会で、ペアで参加していたクラーラとオルランドに出会う。二人から逃げて壁際に避難した主人公だったが、そこにダンスのパートナーを申し込む令嬢たちが群がってくる。
クラーラという婚約者がいなくなって初めて、主人公は自分がモテることに気づく。
だが、歓喜するどころか嫌悪感を覚えた主人公は、助けに現れたオズヴァルドに連れられてバルコニーへ向かう。
しかしバルコニーでは、多数の男女が逢瀬を楽しんでいた。それを見てパニック状態に陥った主人公は、オズヴァルドのお陰で落ち着きを取り戻す。けれど、何故か羞恥心に駆られた主人公は、逃げるように庭園へ向かう。そこで、舞踏会を抜けてきたレオポルドと出会う。いつもと変わらない態度で接してくれるレオポルドのお陰で平静を取り戻す主人公だったが、あることをきっかけに逃げるように屋敷へ帰ってしまう。
再び引きこもるようになった主人公にオズヴァルドが模擬戦を申し込む。模擬戦を通して、逃げてばかりの自分と決別した主人公は、クラーラとオルランドに別れを告げる。
聖騎士養成所に戻った主人公は、レオポルドとオズヴァルドのどちらに想いを告げるのか?
主人公が自分の心と性に向き合う物語です。

第1話 浮気現場

 ペダグラルファ大陸にある、木の国ディエボルン


 祖国を出て、聖都ステルラの聖騎士養成所に通っているのは、アルバーニ伯爵家次男のテオ・ド・アルバーニである。


 テオは、久しぶりに帰国した春の庭園で、信じられない光景を目にしていた。その光景とは、自分の婚約者と親友が睦み合う様子だった。


 魔がいいのか、魔が悪いのか。


 すでに事は終わった後のようで、クラーラが男の膝上から降りようとすると、クラーラの唇を追いかけて、テオの親友のオルランドが口づけをした。


「んっ、あ、は……っ、……オーリー。これ以上はだめよ。そろそろ、テオ様が帰ってくる時間だわ」


 そう言って、ドレスを整えるテオの婚約者クラーラを、熱の籠もった眼差しで見つめるのは、テオの親友であるオルランド。


「――俺は一体、何を見せられているんだ?」


 囁くように呟いた言葉だったが、風に運ばれたのか、二人の耳に届いたらしい。


「っ、テオ様……っ!?」


「ち、違うんだ、テオ。これは、その、」


 こんな真っ昼間から堂々と屋外で睦み合っておいて、それでもまだ言い訳をしようと慌てる二人の滑稽な姿に、テオは泣きそうな気分でハッと冷笑した。






 ――時は遡り、ある日の夜。


 テオは下宿先の男子寮で、古びた机に向かって手紙をしたためていた。


 書き終わった文面に何度も目を通して、慎重に封蝋で刻印し終わった時、ムニッと頬を指で突かれてしまう。


 テオは封筒を机の端に置くと、ムニムニッと頬をつついてくる長い指を払いのけた。


「俺の顔は玩具おもちゃじゃないんだぞ、レオ」


 レオと呼ばれたテオのルームメイト、レオポルド・フォン・イテーリオは、夕焼けの茜色の空のような赤い髪を揺らしながら軽快に笑う。


「婚約者への帰国の手紙は書き終わったんだろ? テオが相手してくんないとつーまーんーなーい〜」


 テオにぎゅっと抱きついて、耳元でわあわあ騒ぐレオポルドに、ハハハと乾いた笑い声を上げる。


「……別に俺の側にひっついてなくても、レオなら引く手数多あまただろ?」


 ――ここは男子校だけど。


 と、いう言葉は飲み込んだ。自分はバイセクシャルであると公言しているレオポルドには、交際する相手が男であろうと女であろうと関係ないのだから。そんな事を考えながら勉強机の目の前にある窓から星空を眺めていると、今度は指ではなく、レオポルドの冷たい頬がテオの頬にグリグリと擦りついてきた。


「テオってば酷いじゃん〜! オレはこんなにテオのことが大好きなのに〜!」


 ――レオポルドの病気が、また始まったか。


 テオは思わずため息を吐いた。


「あっ! 酷い! 今、面倒くさい男って思ったでしょ!?」


 「思ってないない」と、テオは首を左右に振り、内心では面倒くさいなぁと思っていた。


 遠い目をするテオの顔を覗き込んだレオポルドは、ぷくっと両頬を膨らませる。そして、テオの頭を後ろから抱きしめながら、黒髪に頬をつけてスリスリし始めた。


「テオってさぁ、異常なくらい男にモテるじゃん?」


 とてつもなく不名誉なことだが、言っていることは正しいので、テオはこくりと頷いた。


「ほら! 見てみなよ、自分の顔!」


 レオポルドは言って、テオの顔を両手でがっちり押さえると、窓ガラスに映るテオの顔を強制的に見せつけた。


 ――これ、なんの拷問?


「茶色がかったツヤツヤの黒髪に、女も嫉妬するような毛穴一つない白皙の肌! 子猫みたいなツリ目の奥には、一級品のルビーみたいに澄んだ赤色の瞳が嵌ってる。おまけに童顔でめっちゃかわいい顔してんの!」


 「おおー。レオ、お前、食レポで食っていけるよ」と、テオは拍手を送る。


「えへっ、そうかな〜? じゃなくて! オレはテオのことを心配してんの!」


 「てか、なんで食レポ!?」と、落ち着きのないレオポルドに苦笑しながら、テオは封筒を手に持って椅子から立ち上がった。


「聖騎士養ここ成所に来るまで、アルバーニの領地内で、男に襲われるなんてことはなかったんだ。たった三ヶ月休学するだけなのに、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 「それに、俺にはかわいい婚約者がいるからね」と言って、テオは笑顔で封筒を揺らしてみせた。途端、レオポルドの表情が不快そうに歪んだ。


「テオの婚約者って、クラーラ・カステリヤーノだろ?」


 テオはきょとんとレオポルドを見上げた。――レオポルドとは八センチメートルの身長差があるので、毎回首が痛くなる。


「なんだ、レオ。お前、クラーラに会ったことがあるのか?」


 「ちょ、ちょっと待ってくれ。上目遣いの破壊力が……っ!」と言って、顔を覆ってしまったレオポルドに冷たい視線を向けて、テオはレオポルドの横を通り抜けようとした。


 しかし、正気を取り戻したレオポルドに手首を掴まれ引き寄せられた。思わずたたらを踏んだテオの顔を、翡翠に似た新緑の瞳がじっと見つめてくる。不覚にも、ドキッとしてしまったテオに、レオポルドは言った。


「人づてにだけど、最近の社交界で、カステリアーノ嬢が、オルランド・ガレッディ侯爵子息と行動を共にしていると聞いた。……なにがあっても動揺するな。社交界ではよくある話だからな」






 テオはアルバーニ家の自室にこもり、涙を流しながら笑った。


「……このことを忠告してくれてたんだな、レオ。でも――」


 ――だったらいっそのこと、引き止めてくれた方が良かった。


 カーテンを締め切った薄暗い部屋の中で、テオは扉に寄りかかり、立てた両膝の間に顔を埋めて嗚咽をもらしたのだった。

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